松江市立病院医学雑誌
Online ISSN : 2434-8368
Print ISSN : 1343-0866
せん妄を発症した高齢脳血管疾患患者への薬剤使用に関する臨床判断
足立 恵里朝倉 英里香福場 まり子伊藤 都七子
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ジャーナル オープンアクセス

2016 年 20 巻 1 号 p. 19-26

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抄録
過活動型のせん妄を発症した高齢脳神経疾患患者に薬剤を効果的に使用できるよう,薬剤使用に対する看護師の臨床判断の過程について検討した.対象看護師は3 名,経験年数は10 ~ 17 年,脳神経病棟の経験年数は3 ~ 16 年であった.データを分析した結果,一人前看護師が薬剤使用するまでには《せん妄かもしれないと心に留める段階》《薬剤を使用する前にケアを先行させる段階》《せん妄か病態か性格かを見極める段階》《患者の安全と睡眠確保のための薬剤の使用決断する段階》《看護師の知識と経験を基に安全かつ確実に与薬する段階》の5 つの過程があった.インタビューの中で,一人前看護師は,薬剤の使用に関して「病院に入院すると結構安易に使われやすい傾向にあるが,なるべくなら使いたくない」という思いを語っておりその背景には脳血管障害の急性期に薬剤を使用することで,病態の進行を判断することが困難となる可能性や,予想以上に効果が持続しADL 低下の要因となることが挙げられた.一人前看護師は,確かな根拠はないものの,患者情報や言動から引っかかりを感じ,頻回に訪室するなど患者の様子を注意深く観察し,患者の行動変化から何らかの対応をしなければ転倒,転落など二次障害の危険性が高まる考え,薬剤使用によるリスクを考慮し不安を抱えながらも,より安全で確実な与薬ができるよう他スタッフと病態やせん妄の状態をカンファレンスし,慎重に決断していることが分かった.患者個々に対するせん妄ケアが行えるよう,スタッフの知識を高め,せん妄発症リスクのある患者の1 日を通して様々に変化する状態を経時的に記録しスタッフ間で共有することも重要と考える.脳血管疾患患者への薬剤投与に関する先行研究はほとんどなく,今回のインタビューで語られた一つひとつの判断過程が,経験の浅い看護師らにとってはさらに安全で効果的な薬剤投与に結びつける一助となると考えている.
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