松江市立病院医学雑誌
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多発性小脳原発glioblastomaの1例
内村 昌裕吉金 努永井 秀政瀧川 晴夫阿武 雄一秋山 恭彦
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2021 年 25 巻 1 号 p. 58-64

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抄録

小脳原発膠芽腫cerebellar glioblastoma(cGBM)は稀な疾患で,glioblastoma(GBM)のうち0.21~4.1 %を占めるのみである.GBMの生存期間中央値は14.2カ月であるが,cGBMのそれは5.9カ月と短いことが報告されている.我々ははじめに悪性リンパ腫と画像診断した多発性小脳原発腫瘍に対して,生検術を施行することでcGBMの診断に至り,また生検術後早期に合併した急性水頭症に対して,脳室腹腔短絡術が緊急で必要となった一例を経験したので,文献的考察を加え報告する.症例は86歳の男性.歩行障害,食欲不振を主訴に近医を受診し,頭部MRIで左小脳脚に腫瘍性病変を認めたため当科紹介となった.初診時,意識は清明で左小脳症状を認めた.頭部MRIでは左小脳脚と右小脳内側にT1W1で低信号,T2W1で高信号,Gd造影でring enhanceを呈する病変を認めた.高齢であるため,生検術は施行せず,画像所見から最も疑わしい悪性リンパ腫に準じた治療を行うことも考慮したが,確定診断目的に生検術を施行した.病理診断はGBMであり,GBMに準じた治療を開始した.生検術翌日に水頭症悪化による意識障害を認め,緊急で脳室腹腔短絡術を施行し,意識状態は速やかに改善した.cGBMは稀な疾患であり,多発病変を認めた場合,悪性リンパ腫との鑑別が非常に困難となるため,たとえ超高齢であっても治療方針の決定には生検術が重要であることを再認識した.また生検術であっても,中脳水道周囲の病変である場合は,術後早期に閉塞性水頭症となる危険性があり,注意が必要である.

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