医学教育
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特集 : 歩みを止めないウクライナの医学教育-空襲警報の下で
ウクライナの医学教育の現状
オルガ トロヤノフスカ
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2022 年 53 巻 6 号 p. 521-524

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抄録

 ウクライナでは, 一人の人間があらゆる面で成長することが, 社会にとっても意味のあることだという考え方に基づいて, 教育を提供している. この目標は, 医学にとどまらず, あらゆる学問分野で共有されている. ウクライナの教育システムの改革は, ボローニャ協定の合意後に実施されたため, 結果としてEUの基準に準拠するものになった. ロシアのウクライナに対する戦争以前は, ウクライナには 14の州立医科大学と5つの私立医科大学があった. これらの医科大学は, あわせて11,177名の教育者を雇用し, そのうち1,816名が教授, 7,096名が准教授あるいは助教であった. 毎年, 医育機関からは, 10,200 名の卒業生が医師として研修を開始している. ウクライナの医科大学で学ぶ医学生には, 155カ国から来ている38,000名の留学生も含まれている. 世界医学教育連盟の基準に則ったウクライナの医師養成の枠組みは, 学士号, 大学院教育, 継続的な専門能力開発の3つのレベルを含む. 欧州連合委員会は, 教育の質を担保する標準的な認証手続きのために, ECTS (European Union Course Credit Transfer System) を設立した.  ロシアのウクライナへの軍事侵攻により, 医学教育も戦争のもたらす状況に対応しなければならなくなった. ウクライナの43の高等教育機関は砲撃や爆撃で被害を受け, 5つの機関は破壊された. COVID-19の経験があったので, 迅速にオンライン教育に切り替えることができた. 現在, 多くのウクライナの高等教育機関の存続が脅かされている. 財源が不足し, インフラが破壊され, 多くの学生や教職員が避難民となって大学を離れているからである. このような状況において, 海外の大学との計画的なパートナーシップは, こうした教育機関の存続に大きな力となる. 順天堂大学によるウクライナ人医師, 学生, 科学者のための奨学金制度は, 医学コミュニティによる支援の一例といえる. ウクライナの学生, 医師, 科学研究者にとって, こうした機会はかけがえのないものであり, 医学の未来に向かって努力を惜しまないであろう.

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© 2022 日本医学教育学会
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