抄録
日本語(東京方言,関西方言)の発話を音声分析し,文節のみの単独発話長を基準にして,フルセンテンス発話での各文節の伸長度を分析した。その結果,深い統語境界の文節は相対的に長く発話され,文末の文節は最も引伸し度が大きい傾向にあることがわかった。ただし,引伸しが顕著な文節の直前では,統語構造に関係なく文節長が相対的に短くなる傾向があり,統語構造とは関係なく文節長の相対的な長さが「短長短長」のパタンをなす文もあった。一方,軽快なクラシック音楽演奏の音響分析からも,4小節からなる小楽節最後の小節で顕著な継続長の引伸しが観察され,逆にその前の小節ではテンポが早まる傾向が見られた。小楽節中で「短長短長」のパタンを見せるケースもあった。日本語発話,音楽演奏の両者に見られる,このようなテンポの揺れ現象のメカニズムは不明であるが,人間の基本的なタイミング制御の特質に根ざす可能性がある。