ミルクサイエンス
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原著論文
日本の生乳より分離したStreptococcus thermophilus菌株へのファージ耐性の付与および耐性獲得メカニズムの解析
山本 恵理 土方 智典高津 愉香金田 尚子後藤 浩文牧野 聖也
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2022 年 71 巻 1 号 p. 2-9

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抄録

 ヨーグルトやチーズ等の発酵乳製品の製造現場では,しばしばバクテリオファージ(ファージ)による汚染が問題となる。ファージが感染した乳酸菌は,そのファージに対する耐性を持たない場合,ほとんどが死滅し発酵不良が生じる。発酵乳製品の製造現場におけるファージ汚染対策として,一般にファージ耐性の異なる乳酸菌株を複数株用意し,定期的にローテーションする方法が有効とされている。また海外では,特定の乳酸菌株とファージを共培養することで,人為的にファージ耐性を付与する検討が数多く行われている。我々は新規発酵乳製品の開発に向け,日本各地の環境サンプルから乳酸菌株を分離しているが,それらを実製造に用いるには,ファージによる発酵不良のリスクを出来るだけ低く抑えることが重要であると考える。そこで本研究では,日本の生乳より分離した発酵性質の良好なStreptococcus thermophilus菌株にファージ耐性を付与する検討を実施し,得られたファージ耐性株のファージ耐性獲得メカニズムを探索した。S. thermophilus ME-842とファージ3株をそれぞれ共培養し,合計12株のファージ耐性株を作出したのち,ドラフトゲノム解析を実施した。その結果,作出したファージ耐性株12株はいずれもClustered regularly interspaced short palindromic repeats(CRISPR)領域に新規スペーサーを獲得していることを見出した。また,作出したファージ耐性株は,ファージ耐性の付与に用いたファージ株だけでなく,獲得した新規スペーサーと同一の配列を有する他のファージ株に対しても耐性を示すことを確認した。本研究により,環境由来のS. thermophilusへ人為的にファージ耐性を付与することが可能であることを明らかとした。本技術を応用し,様々なファージ耐性を付与した株を作出して活用することで,製造現場におけるファージ汚染のリスクを低減することが出来ると期待される。

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© 2022 日本酪農科学会
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