哺乳類のミルク成分組成は種によって大きく変動する。濃いミルクと薄いミルクは,主にエネルギー密度の高い脂質の濃度の違いによって分けることができる。筆者らは前報において,濃いミルクを分泌する生理的理由として,海洋での棲息(アザラシ),授乳中での飛行開始(コウモリ),および多頭出産(ウサギ)を,薄いミルクを分泌する生理的理由として,高温での棲息環境における子への水分補給(サイ,シマウマ),および長い授乳期間(チンパンジー)を提示するとともに,曲鼻猿類やアフリカウシ科動物を例に,母親の子育て行動の違いがミルクの濃さに影響する生理的要因の一つであることを紹介した。
哺乳動物のミルク成分組成に影響を及ぼす生理的,生態学的要因はこの他にも仮定することができる。齧歯目を例にとると,未熟な新生子の出産(晩成性)vs 発達した新生子の出産(早成性)はミルク成分組成に影響する。晩成性の種(キバシマリス)は早成性の種(デグー,モルモット,チンチラ,モコ)よりも濃いミルクを分泌する。アザラシ,ヒゲクジラ,クマを例にすると,泌乳期間での母の絶食は,脂質濃度の高いミルクの分泌を促す。一方,母獣は泌乳期間で絶食しないが,授乳期間にforaging trip(採餌の旅)を行うオットセイやブチハイエナも,脂質濃度の高いミルクを分泌する。母獣の食する餌による違いも,ミルク成分組成に影響する。翼手目を例にとると,昆虫食のトビイロホオヒゲコウモリやドウクツホオヒゲコウモリのミルクは,果実食のエジプトルーセットオオコウモリのミルクよりも脂質濃度が高い。
ミルク成分組成に影響する生理学的,生態学的要因を知ることは,動物園や水族館で人工哺育の必要な場合に,調合乳の成分調整に有益な情報を提供するであろう。
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