抄録
眼底画像を用いた診断は,糖尿病性網膜症などの眼疾患を早期に発見する手段として旧来から利用されている.しかし,所見の微妙な変化を客観的かつ正確に把握することや,患者の視力との対応関係を正確に捉えることは難しい.そこで本研究では,サブトラクション処理を用いて,眼底画像の経時的変化を表現した差分画像と,経時的な変化の程度を定量的に算出した経時変化度の両者を提示し,医師の診断をサポートする手法を開発した.特に眼底撮影の場合は,額と顎を固定するため,同一撮影装置であれば複数の撮影画像間での幾何学的変化はほぼ線形変化に限定される.よって,高精度な画像位置合わせが容易にできるため,位置ずれアーチファクトの少ない差分画像が実現できる.本処理は任意の2画像の差分画像と経時変化度を算出することが可能であるが,今回は初診時画像を基準として,1症例(12枚の時系列の画像群)に適用した.その結果,それぞれの差分画像には各病変が強調されて表現されていることを確認するとともに,経時変化度は各時点での患者の視力と高い相関をもつ(相関係数0.912)との結果を得た.今後,この結論を一般化するために,症例数を増やして本手法の有効性を検証する必要がある.