2012 年 24 巻 1 号 p. 1-9
飲料用自販機やディスペンサーの飲料回路で使用される各種樹脂材料に含まれる抗酸化剤が,成形時の熱履歴によって飲料の味覚(異臭を含む)へ及ぼす影響について研究した.抗酸化剤を添加して成形した直鎖状低密度ポリエチレンを浸漬した水は,抗酸化剤の種類で味覚にそれぞれ違いがあり,抗酸化剤が異臭味へ影響することが判明した.さらに,殺菌目的の遊離塩素を浸漬水に添加すると,飲料の味覚の強度と種類が変化することを観測した.成形樹脂の浸漬水をGC/MS分析することで,異臭味の原因物質の候補として,抗酸化剤とその分解物質を同定した.抗酸化剤や異臭味候補物質の水溶液の味覚と味覚閾値を決定し,異臭味におけるそれぞれの成分の寄与を検討した.また,抗酸化剤のTG/DTA分析から,樹脂の成形温度の範囲で抗酸化剤の熱分解が起こることを明らかにした.さらに,抗酸化剤のPy-GC/MS分析から,樹脂浸漬水から見出した異臭味候補物質が,成形による熱履歴で生成することを証明した.本研究から,樹脂の成形の際に熱履歴を考慮することが,樹脂材料が接する飲料の味覚品質を確保する上で重要であることが示された.