抄録
促進耐侯性試験により漆塗膜の劣化過程を検討した.試料として, ラッカーゼや水溶性多糖類の水系成分の分散が異なる3種類の漆を用いた.つまり生漆 (水系成分の分散が悪い漆), これを漆精製工場において通常の精製鉢で精製したスグロメ漆 (H漆 : 水系成分の分散が普通の漆), さらに3本ロールミルで作成したスグロメ漆 (R漆 : 水系成分の分散が良好な漆) の計3種を調製した.その結果, ウェーザーメーターの試験時間の増加に伴い膜厚は単純に減少した.従って劣化は紫外線や雨により膜の上層より徐々に削り取られるように進行すると考えられた.また, 水溶性多糖類やラッカーゼを含む水系成分の分散は劣化時の光沢に大きな影響を及ぼすが, 膜厚の減少速度には大きく影響しないことがわかった.以上の結果を踏まえ, FT-IRのATR法による表面分析やSEM観察から, 漆塗膜は紫外線により極表層のウルシオールが劣化分解し低分子化する.さらに劣化したウルシオール層や水溶性多糖類が雨により洗い流され, 膜厚が減少していくものと考えられた.