抄録
Hのスピン-スピン緩和時間T2測定により、加硫ニトリルゴム (NBR) の純ゴム配合、カーボン配合系の熱酸化挙動を調べた。劣化試料のT2信号は、短いT2S成分と長いT2L成分に分離された。一方、未劣化試料のT2信号は、単一のT2成分で近似された。T2S成分は、未劣化試料と同等なT2L成分に比べて、分子運動が拘束された領域に対応すると考えられる。T2Sの成分量は加熱時間に対して徐々に増加した。同一の加熱時間でのカーボン配合系におけるT2Sの成分量の増加は、純ゴム配合系より大きく、系内への酸素吸収量と関連してカーボン粒子の表面活性および充愼量に依存した。NBR系の熱酸化は架橋反応が主体であり、FT-IRの深さ方向分析により、劣化試料内部への架橋密度の勾配の存在が示唆された。T2S成分は、局所的に架橋密度が高い網目鎖の領域に相当すると考えられ、その分子運動が拘束された領域について、試料表面から内部への不均一な分布を推定できた。劣化試料におけるT2Sの成分量の増加は、引張り条件下での破壊伸長比の低下の間に密接な関係があることが明らかになった。さらに、系全体の破壊は、網目鎖中における拘束領域の影響を敏感に受けているが明らかになった。パルス法NMRは、実用ゴムで重要な破壊特性との関連づけが可能であり、実部品の劣化解析のための有力な手段の一つになることが期待できる。