抄録
日本の内陸 (近海を含む) に発生する横ずれ断層の地震には、往々にしてそれに共役な断層の発生あるいは地震活動が伴う。その際、共役な活動の殆どが、ある一定の側、すなわち、もとの横ずれ断層によってそれに共役な面での摩擦力が低下する側で発生している。この傾向が広く一般的に見られる性質であるとすれば、余震あるいは次の地震の発生に剪断応力のみならず法線応力の増減が深く関わっていることになる。このことは、クーロンの破壊条件に従ってすべり破壊の発生に関わる応力変化を評価する場合に、摩擦係数としてどのような値を用いるべきかに関係する。数十年以前の地震については、発震機構、両断層 (活動) の相対的位置などに曖昧さが残り断定的なことが言えないが、近年の地震についてはそれらがよくわかっており、共役関係にある確実な事例を収集・調査することが可能となってきた。本研究では、先ず、共役断層に対するCoulomb Failure Function (CFF) の計算を行い、摩擦係数値の大小による応力分布の違いを調べた。さらに実際の事例として、1978年伊豆大島近海地震M7.0と1990年伊豆大島付近の地震M6.5、1984年長野県西部地震M6.8とその最大余震M6.2について、CFFの分布との比較を行い、両者が典型的な上記の関係にあることを示した。この比較から、日本の内陸性の横ずれ型の地震に関しては、摩擦係数として、0.1~0.3のような小さな値より、むしろ0.5~0.7のような大きな値のほうが好ましいという結論を得た。