抄録
衛星観測に基づく台風強度推定は、航空機観測が実施されていない北西太平洋において台風情報を即時的に発表するために必須である。気象庁では、TRMM/TMIマイクロ波放射計の10、19、21、37、85GHz帯の輝度温度分布に基づいて台風の最大風速の推定を行う方法を採用している。そこでは台風の構造を表現するために、台風中心から2度以内の領域の輝度温度を用いて同心円や円環の領域のパラメータを計算している。本研究ではその改良のため、台風の移動方向に相対的に、前方、後方、左、右の4象限に分割した領域も設定することで、台風の構造の非対称性を表した。これらのパラメータを1998-2008年の台風観測事例について計算し、k-means法によりクラスター分析を行うことにより台風の構造別に10種類のクラスターに分類した。そしてこれらのパラメータを説明変数、気象庁ベストトラックデータの最大風速を被説明変数として、回帰式をクラスターごとに作成した。
この2008年までの事例に基づく推定法を、2009-2012年の台風観測事例に適用して、最大風速の推定値の検証を行った。検証期間の全事例のRMSEは6.26 m s-1であった。クラスター別に見ると、輝度温度の非対称性の強いクラスターは先行研究の方法と比較して推定精度が改善したが、軸対称性の強いクラスターに関しては先行研究の方法よりも推定精度が悪化したものがあった。推定精度の改善を阻む要因としては、回帰式の被説明変数がベストトラックデータすなわち推定値でありドボラック法等に起因する誤差を含むことや、台風中心の位置が6時間ごとのベストトラックデータの内挿であるために生じる位置ずれ等が影響していることが考えられる。