Papers in Meteorology and Geophysics
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脳卒中及び心臓病の生気象学的考察
アメリカ合衆国におけるその地域差
片山 功仁慧籾山 政子
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1970 年 21 巻 2 号 p. 127-139

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抄録
死亡の季節変動形態は世界的にみて概してその国の文化程度を現わすと考えられ,西欧諸国にも我国と同様の冬季集中型を呈する国と,それを征服した形態と思われる緩慢化型を呈する国とがあることは既に明らかにされている,本研究では総死亡及び乳児死亡に顕著な緩慢化の認められている米国について,脳卒中死亡及び心臓病死亡の季節変動形態の変遷を地域的に考察する.
死亡率の分布は各州の人口の年令構成,生活条件等により地域的にかなり異なる.そこで気候,地形及びそれらに基づく経済条件等により8つの地理区に分類すると,1930年,40年及び50年の各10年聞の変化に,以下の特徴が見出せる.
A.初めから夏山がなく季節変化が緩慢で,一旦冬季集中を呈した後,更に緩慢になる.温暖な太平洋岸,人口稀薄で豊かな鉱山都市を含む山岳地方及び穀倉地帯であり工業化も盛んな五大湖地方の3地区における両死因,及び温暖な保養地気候のフロリダにおける心臓病がこれに属す.豊かな地域の型といえる.
B.初め低いとはいえ夏山を有し,次に夏山の低下により季節変化は増大するが,後に緩慢化を示す.比較的遅く開発された大平原南部,生活水準の低い黒入々口の多い南部の両死因及びフロリダの脳卒中がこれに属す.
C.初めから夏山はなく季節変化も小さかったが,死亡率の上昇と共に冬季集中を示し,まだ緩慢化を呈さない.寒冷な大平原北部の両死因にみられる形態である.
D.初めから明瞭な冬山だけであるが,死亡率の増加にも拘らず,季節変化は緩慢になる.文化的水準の最も高い北東部の両死因にみられる形態である.
以上,緩慢化現象を呈する米国も,詳細にみれば,地域の地理的条件,人種の構成内容等により本現象の出現に差異があることが明らかになった.しかし各地区ともそれなりの進歩をなしているといえよう.また最も寒冷な大平原北部において乳児死亡は緩慢化を最も顕著に示したのに対し,両死因にまだ本現象がみられないことは,成人病に対する人工気候の重要さを示しているともいえよう.
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© 気象庁気象研究所
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