抄録
サンゴハリタケ属Hericium Pers.の菌は,有用な食用きのこであるにも関わらず, 生活環や培養特性など, 育種や栽培の基礎となる生物学的性質についてはあまり知られていない. また, 日本産種については, 十分な分類学的検討が行われていない. そこで, 本研究では,従来ヤマブシタケH.erinaceus, サンゴハリタケH.ramosumおよびサンゴハリタケモドキH.coralloidesとして知られる3種の日本産野生菌株について, 同属の外国産菌株とともに, 子実体および菌糸体の形態的特徴と培養特性を比較した. さらに, 種内および種間の交配解析ならびにrDNAのITS領域塩基配列に基づく系統類縁関係について調査した.
ヤマブシタケは北米産およびヨーロッパ産のH.erinaceusと子実体の形態および培養的特性が類似し, それらは相互に交配し同一種であることが確認できた. またrDNAのITS領域の塩基配列解析結果からもこの取り扱いは支持された.
サンゴハリタケには従来H.ramosumあるいはH.laciniatumの学名が当てられてきた(両学名は現在H.coralloidesの異名として取り扱われている). 本菌は生態および子実体の形態的特徴においてH.coralloidesによく一致するが, 供試したアメリカおよびイギリス産菌株の担子胞子由来一核菌糸体とは交配しなかった. しかし, rDNAのITS領域の塩基配列解析結果からは両菌が極めて近縁であることが示唆された.
サンゴハリタケモドキには従来H.coralloidesの学名が当てられてきた. しかし, サンゴハリタケモドキは現在解釈されている同種とは形態的に明らかに異なり, 実際, 供試したアメリカおよびイギリス産のH.coralloides株と培養特性が異なり, また交配しなかった. 本菌は北米西部に分布するH. abietisに形態的に類似し, 両菌株間で交配して正常な子実体を形成することから同種と考えられるが, rDNAのITS領域の塩基配列解析結果もこれを支持するものであった.