2017 年 19 巻 1 号 p. 21-27
導電性固体に囲まれたナノ制約系において電荷間に働くクーロン相互作用は,導電性固体による静電遮蔽効果のために真空中とは大きく異なることが理論計算により予測されているが,それを実験により証明することは困難であった.最近我々は,導電性のあるグラフェン様壁に囲まれたナノ空間を有するカーバイド由来炭素細孔中に束縛されているイオン液体の構造について,X 線散乱測定法を用いて検討を行った.その1 次元X線散乱情報からナノ空間内の3次元構造情報を得るためにハイブリットリバースモンテカルロ(HRMC)シミュレーション適用した.その解析によって,大きなクーロン斥力があるにもかかわらず,イオンサイズと同程度の大きさである0.7 nm の細孔中において,大きなクーロン斥力があるにもかかわらず,陰イオンの第一配位圏における陰イオン濃度がバルク状態に比べ20%程度増加していることが明らかになった.このことは導電性のカーボン壁に反対電荷が誘起されて,ナノ制約空間内の同電荷のイオン間の斥力が弱められることを意味している.この新たな知見はスーパーキャパシタを用いた蓄電や脱塩処理などカーボンナノ空間中でのイオンの高濃度状態が関わる応用やそれらの基礎研究の発展に役立つと期待できる. 概要