固体の変形メカニズムや機械的特性を明らかにするためには,固体に内在する様々な欠陥のキネティクスを原子スケールで正確に明らかにすることが求められる.とりわけ中温から高温領域では,固体内の拡散が活発化し,拡散現象が変形メカニズムに強く関与する.しかしながら,熱ゆらぎを陽に解く分子動力学法は,扱える時間スケールに限界があり,拡散のような時間スケールの長い現象の再現を苦手とする.こうした中,本分野では,時間スケールの拡張を可能にする様々な新しい分子計算アルゴリズムが提案されてきた.本稿では,有限温度での原子の熱ゆらぎ効果を粗視化し,固体内拡散に伴う物質移動といった長時間スケールの現象を追跡可能とするdiffusive molecular dynamics: DMD 法を紹介する.