抄録
カビの分類は,形態的な特徴により分類され,その違いを記載して種を命名してきた.我々の社会的な重要度から,それぞれの菌属の研究者の数が決まり,重要な菌属には多くの研究者が携わり,その菌属を観察する眼が多いことになる.この眼の多さは,形態的な違いを細かく観察でき,その属の種の数の多さに反映している.Aspergillus 属,Penicillium 属,Fusarium 属菌に種の数が多いのはこのためと考えられます. 種を決めた形態的違いが遺伝的に安定であれば問題は起こらないが,不安定な表現形質,生育過程,培養条件などによって変化する場合には混乱を生じる. 一方,遺伝子の塩基配列による分類では,解析した塩基の数に応じて塩基置換の数が拡大し配列の違いも増加する.DNA型の分類や同定には有効であるが,種を決める場合には,どの範囲で種を決めるかが問題となる. 進化の過程を反映した分子時計的な遺伝子が有れば,その遺伝子配列を指標に分類,同定,分類が可能と考えられる.我々は,病原真菌とその関連菌のミトコンドリア・チトクロームb 遺伝子を解析しており,この遺伝子は進化時計として有用と考えられた.