2022 年 72 巻 1 号 p. 43-48
ムギ類赤かび病に感染すると,収量・品質の低下だけでなく,デオキシニバレノール(DON)等による汚染が引き起こされる.DONに汚染されたムギ類を食すと,嘔吐・下痢などの症状を呈する.赤かび病の感染対策が求められるが,強い抵抗性を示す有効な品種はなく,さらには薬剤耐性菌の出現が報告されている.そのような中,プラントアクティベーターとしてニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)に赤かび病抵抗性を誘導する効果があることが見出されている.しかしながら,NMN処理が赤かび病菌の侵入行動にどのように影響を及ぼすのかは不明である.そこで本研究では,赤かび病菌の侵入行動をリアルタイムバイオイメージング系で解析する手法を確立し,NMN処理が赤かび病菌の侵入行動に及ぼす影響を調べた.NMN処理区では菌糸が真っ直ぐに伸びておらず,宿主細胞への侵入に失敗して他の侵入場所を探すために方向転換を繰り返しているような挙動を示すことが明らかになった.本稿では,赤かび病菌のリアルタイムバイオイメージング系確立の取り組みと感染初期の侵入に対するNMNの作用を紹介する.