2019 年 108 巻 5 号 p. 1007-1014
医学には多くの理論があるが,医療現場では当てはまらないことが多い.人間の遺伝形質や生活習慣は多様であり,診断や治療に対する反応には「バラつき」がある.従って,医療の評価は「たまたま」との戦いである.「バラツキ」と「たまたま」を制御するために,統計医学やEBM(evidence-based medicine)が導入されたが,エビデンスレベルの最も高い無作為化介入試験の実施は容易でない.そこで,次善の策ではあるが,医療現場のビッグデータが注目されるようになった.既にビッグデータによる現実の可視化や事前条件を用いた予測が広く利用されている.さらに,ベイズ推計や機械学習を用いた診断システムの開発も始まった.しかし,ビッグデータ解析は基本的に観察研究であり,ベイズ推計には主観も入る.そのため,注意すべき点も多い.本稿では,医学研究におけるビッグデータ研究の位置付け及び事例を紹介する.