日本内科学会雑誌
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一過性原発性甲状腺機能低下症の1例
飯村 民朗小池 眞弓吉村 正蔵
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1981 年 70 巻 1 号 p. 77-81

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抄録

既知の発症機転では説明しえない一過性原発性甲状腺機能低下症を, 56才の主婦で経験したので報告する.浮腫と嗄声を主訴とし,高脂血症, LDHとCPKの高値,心膜水貯留を認め,甲状腺ホルモン低値(res-O-mat T4 1.7μg/dl, free T4 index 1.5, triiodothyronine 0.2ng/ml)から非甲状腺腫性甲状腺機能低下症が考えられた. TRH試験では,負荷前のTSH高値(17.6μU/ml),負荷後の遷延した過大反応の特異的パターンから原発性甲状腺機能低下症の診断が確定した.しかし諸甲状腺機能検査値の異常は未治療のままで短期間に正常化し,同時に理学的所見も改善し,甲状腺機能低下症は自然治癒したものと判定された。成人の原発性甲状腺機能低下症は,医原性を除くと,大多数は慢性甲状腺炎による甲状腺組織崩壊の終末像とされている.また慢性甲状腺炎の経過中には,希に一過性甲状腺機能低下症を示すことが報告されている.本症例では,甲状腺生検にて甲状腺組織は正常であることが判明し,慢性甲状腺炎の延長上に位置する原発性甲状腺機能低下症は否定された.また抗甲状腺薬以外の薬剤や食事性因子による一過性甲状腺機能低下症の可能性は,発症前後の摂取薬剤と食事調査の結果から否定的であつた.本症例では結局,原因あるいは病態の成立機序を明らかにしえない一過性原発性甲状腺機能低下症と結論せざるをえない。この様な症例は,調べた範囲では過去に類例を見ず,極めて希な症例と考えられる.

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