日本内科学会雑誌
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原発性副腎機能低下症の1例における低ナトリウム血症とADH分泌異常の病態
清水 倉一加藤 達雄本田 勝紀岡 博織田 敏次
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1981 年 70 巻 1 号 p. 82-86

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抄録

低ナトリウム血症を呈し,はじめSIADHを疑われた原発性副腎機能低下症の1例において, ADH分泌異常の病態に検討を加えた.症例は60才の男. 3年前から脱力感, 10カ月前から悪心,嘔吐が時々あり, 3週間前,嘔吐のため入院した某病院で,意識混濁と低Na血症に気づかれ, SIADHの疑いで当院に転院した.入院時所見では皮膚は乾燥し,軽度の色素沈着が認められた.血清Na濃度は126~135mEq/lであつた.内分泌検査で血中contisolおよび尿中17-OHCS, 17-KSが低値で, ACTHが高値であり,また副腎がACTHに反応しないことから,原発性副腎機能低下症と診断された.本症例では,低Na血症,低浸透圧血症にもかかわらず,血漿ADH濃度は比較的に高値で,尿は持続的に高張性であつた.生理量のglucocorticoidを連日投与すると,投与初日に血漿ADH濃度,尿中ADH排泄量の著減とともに著しい水利尿をきたした.しかし,水利尿の結果,血清Na濃度が上昇傾向を示すと,これに平行して血漿ADH濃度,尿中排泄量も増加した.これらの臨床成績によつて次のことが示唆さた. 1)本症例の原発性副腎機能低下症においては,低Na血症にもかかわらず, ADH分泌は相対的に増加しており, glucocorticoidは,この異常分泌を抑制する作用をもつ. 2)この作用は少なくとも部分的には,血清Na濃度(浸透圧)に依存する.したがつて, glucocorticoid欠乏状態では, ADH分泌の浸透圧閾値が低下している可能性がある.このようなADH分泌異常は低Na血症の原因となりうる.

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