1984 年 73 巻 5 号 p. 659-665
近年注目されている,甲状腺放射性ヨード摂取率(RAIU)が低値(24時間値, 5%以下)で,かつ甲状腺疼痛,発熱などを欠く,症例(以下,本症)の頻度,臨床像および組織像を検討した. 1976~1982年に当科を受診し, RAIUを施行した甲状腺中毒症例中,本症の基準に合致したものは22例(男1例,女21例-1例では3回, 2例ではそれぞれ2回ずつ, 1~4年の間隔で反復のため計26 episodes)であり,一方, RAIU高値の甲状腺機能亢進症は236例(男84例,女152例)であつた.年令は16~64才と広く分布し, 20~30才台に多く見られた.また,本症例のうち4例(5ep)は出産後発症であつた.本症は全甲状腺中毒症例中の8.5%に当り,特に女性間での頻度は高く12.1%(出産後例を除く,自然発症例のみについての頻度は10.0%)に達した. T4, T3は全例で上昇,血中抗甲状腺抗体は陰性~軽度上昇,血沈値は多くは正常範囲である. 8例に施行した甲状腺生検ではいずれも慢性甲状腺炎に合致する像を示し,本症が慢性甲状腺炎の1病態との見解が支持された.甲状線中毒症は5~11週後に自然に寛解したが,その後一過性ないし永続性甲状腺機能低下症を呈した例も見られた.本症は,女性間では,出産後例に限らず自然発症例の頻度もかなり高く,寛解後も本症の反復や甲状腺機能低下症への進展などを考慮して長期の臨床観察が必要である.また,本症の診断に際し, RAIUの重要性が再認識された.