日本内科学会雑誌
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左右交互に繰り返す胸痛にて発症し,両側胸膜病変を呈した宮崎肺吸虫症の1例
本邦82報告例の臨床的検討
松峯 宏人荒木 国興
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1985 年 74 巻 5 号 p. 597-605

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抄録
両側気胸を伴う胸膜炎にて発症した宮崎肺吸虫症の1例を報告し,本例を含む82報告例について検討した.本症病変の主体は滲出性胸膜炎であり,常に写真上明らかな胸水を伴う.気胸は必発ではなく,胸水貯留のない気胸単独発症は1例も見出せない. 28%に認められる肺内浸潤像は単独でも見られるが, eosinophilic pneumoniaと臨床上鑑別困難である.潜伏期は2週から3年と幅があり,病変部位が,長い期間を経て移行する場合がある.心膜,脳,皮下迷入も単独あるいは胸膜病変に先立つだけでなく,胸膜病変よりかなり後に出現する場合がある.虫卵検出率はきわめて低く,好酸球増加は発症の有無に関係なく,抗体価が有意に高いすべての症例に存在する.サワガニ摂食歴も全例に認められ, Bithionolによる治療は脳寄生例も含め,きわめて良い以上の点は,人間が本吸虫にとつて必ずしも好適宿主ではなく,本吸虫が胸膜を中心に,高い好酸球遊走能と移動能および穿通能を,長期にわたつて維持することを示唆している.これはまた本吸虫が未熟な場合,肺内に穿入し虫嚢を形成し得ないという小動物における一般原則とも符号する所見であり,これらの点に注目することは本症の臨床診断上有用であると考える.
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