農研機構研究報告
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ミニレビュー
加工業務用露地野菜生産・出荷におけるデータ駆動型生産支援システム ~葉齢増加モデルを用いた出荷調整支援システムを例として~
岡田 邦彦 菅原 幸治
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2019 年 2019 巻 1 号 p. 43-45

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Abstract

露地野菜で定時・定量出荷が求められる加工業務用契約生産を行う場合,気象条件の影響を受けて生育が変動する条件下で,契約量に合わせて出荷量を調整するため,生産・出荷現場では大変に苦労している.そこで,生育予測を用いた収穫期予測を用いたレタス・キャベツ出荷調整支援システムを開発している.これは,圃場ごとに定植日を起点とする葉齢増加モデルシミュレーションから,収穫期を予測し,収穫期に達したものは,自動的に「圃場在庫」に繰り入れられる.そして,実際の出荷量も「圃場在庫」から繰り出されるため,単純化した出荷調整が可能となる.このほか,契約栽培の現場では,出荷量予測の基礎的データである定植期別作付面積が十分でない場合があるため,衛星データを用いた作付状況推定法も開発を進めているほか,年間出荷計画に対応した作付計画策定支援システムについても試作して,生産現場での運用検証を行っている.

はじめに

野菜は食生活における必需品として,周年供給が求められているが,貯蔵性が高い穀物類とは異なり,周年での安定した生産が求められる.また,野菜需要の大部分は,消費者が八百屋・スーパーなどの小売業者から購入し,家庭内で調理・消費される家計消費需要であったが,食の外部化の進行に伴い,野菜の用途別需要も大きく変化してきており(図1),現在では,加工原料需要野菜(食品加工業者によって加工される野菜;以後,加工用野菜)と業務用需要野菜(外食・中食業者によって加工・調理される野菜.ただし,1次加工も含め,食品加工業者で加工されたものを使用する場合を除く;以後,業務用野菜)を合わせると,家計消費需要野菜を上回り,過半を占めるに至っている(小林 2006).

ところで,加工業務用野菜に求められる規格・品質,また出荷・流通の枠組みは,品目によって異なるのは当然として,その実需での用途,例えば,生鮮カット品と加熱調理用とでも大きく異なり,さらには実需者によっても異なる.本稿では,実需者ごとの要求規格の違いが大きくないカット用レタス・キャベツにおける出荷安定を支援する仕組みについて概説する.

食品加工業者や外食・中食業者などの実需者の安定的な調達のため,カット用レタス・キャベツについても契約栽培が増えているが,一定期間中の継続的な出荷,例えば,5 月~ 10 月の間の毎日,継続的に契約量を出荷することが求められる.これは,加工後も生鮮品として流通するため,長期貯蔵が難しく,カット業者にも途切れない生産・出荷が求められるためである.そのため,計画通りの収量が得られる場合であっても,気象条件によって左右される収穫時期の早い・遅いが,生鮮野菜の契約栽培では問題となる.そのため,契約栽培に取り組む生産者は,収穫時期が変動する中,継続的な契約量の出荷をするために,出荷量の調整に努めているが,契約量が確保できない場合も,珍しくない.ただし,このような出荷量不足が 2 週間~ 1 ヶ月に予測できれば,実需者の方で,他生産者・産地からの調達などが行えるため,生育予測システムが求められている.

生育モデルシミュレーションに基づく出荷調整支援システム

生育予測を行うためのキーテクは,言うまでもなく生育モデルであり,我々は,キャベツ・レタスについて,乾物生産に基づく,結球重推定モデルを開発しているが,そのモデルの中に,温度から葉齢(結球開始前は,最も若い展開葉の葉位.結球開始後は最上位外葉の葉位と結球葉数の和)を推定するサブモデルがある.このサブモデルは,他の生育モデルの構成要素の影響を受けていないので,この部分だけ切り離し,葉齢増加モデルとして,単独での利用も可能である.

そこで,葉齢増加モデルのシミュレーションにより,推定された結球葉数から,圃場ごとの収穫開始可能日を予測する一方,圃場面積から計算した収穫球数から,日別の収穫可能球数(収穫可能ケース数)を予測するプログラムを開発,農研機構職務発明プログラム「キャベツ生育予測」アプリケーション【メッシュ版】,「レタス生育予測」アプリケーション【メッシュ版】(菅原 2018)として公開した(図 2).

また,実際の生産・出荷現場では,収穫期に達したキャベツ・レタスの全てが直ちに収穫されるわけではなく,数日に分けて,必要量(契約出荷量)を収穫・出荷している.このプログラムでは,こうした生産・出荷現場での手順を反映させるとともに,出荷調整を容易にするために,未収穫の収穫可能量である「圃場在庫」という概念を導入している.プログラムでは,収穫期に達したものは自動的に「圃場在庫」に繰り入れられ,実際の出荷量も「圃場在庫」から差し引かれるため,生産者の出荷調整作業を単純化させることができる.

実用的な生育予測を行うための支援システム

実際に,カット用レタス・キャベツの契約栽培を行っているのは,カット用キャベツ・レタスの出荷価格が,通常の市場出荷価格より若干低めであることから,スケールメリットを効かせるため,大規模農業生産法人のほか,地域農協などが契約の窓口となり,管内の組合員生産者に入れ札方式で生産を呼びかけて,出荷を取りまとめる場合が多い.その結果,多数の分散圃場での作期が分散する中での生産・出荷となっており,このため,生育予測による出荷調整支援を行う上で,重要な問題となる場合があり,それを支援するための仕組みが,別途必要となる. 

1.作付情報収集システム

生育予測は,圃場ごとに定植日を起点とする生育シミュレーションで行っているため,定植日とその圃場面積の情報が必須である.農業生産法人では,現時点では紙媒体ベースであることも多いが,少なくとも,データとしては持っている.しかし,地域農協などが契約の取りまとめを行っているケースでは,時期別の作付面積データを持てていないことが少なくない.そのため,作付情報の収集システムの開発が必要だが,作付情報を個別の生産者からの情報提供によって得ることは困難である.理由としては,生産者数が多いことと,生産者自身が自らの作付面積を正確に把握していないこと,さらに,生育予測による出荷調整が可能になることによる直接の受益者は,取引を行っている農協であり,個々の生産者が自らを受益者として認識し,情報提供を行うインセンティブが極めて効きにくいこと,が挙げられる.

そのため,極めて安価に利用できるようになった低解像度(約 3 m)衛星画像を用いて,民間業者と連携して,生産者から個別に情報を得ることなしに,定植時期と定植面積を把握するシステムを開発している.これによって収穫期別栽培面積の情報を得て,前述の生育予測プログラムによる情報を合わせることで,出荷時期と数,量の予測が可能になる.

2.生育センシングシステム

病害虫発生や干ばつなどの気象災害による生育不良や欠株は,このシステムで用いている生育モデルでは扱っていないが,しばしば出荷量に大きな影響を及ぼす.将来的には,こうした生育撹乱要因についても,モデル化は可能であるが,当面は,生育センシングの活用が有用である.

前述した衛星画像による作付時期推定も,圃場レベルの生育センシングと言えるものだが,個体レベルでの生育センシングでは高解像度の画像が必要となるため,ドローン空撮が最も適している.農業へのドローン空撮画像利用については,農薬散布のほか,生育センシングについても,急速に研究が進んでおり,一部で商用サービスも開始されているが,生育モデルと密接に連携させ,生育センシング情報を高度に活用できるものは,ほとんどない,我々は,生育予測システムなどへのシームレスな情報提供なども含め,生育予測システムでの活用について,取組み始めており,今後,それを加速させていく予定である.

3.作付計画策定支援システム

年間を通して,契約生産・出荷を行う農業生産法人などでは,圃場条件・作業量力を考慮しつつ,過去のデータと経験に基づき手作業で,年間生産計画を策定している.しかし,このような農業生産法人では珍しいことではないが,数百に及ぶ圃場が,気象条件の異なる遠隔地にも所在するような場合,年間契約出荷量に対して,適切な生産計画を策定できていないことも珍しくない.

そこで,予め入力された圃場および作業労力に関する制限条件内で,収穫日から定植日を生育シミュレーションで逆算しつつ,数百筆の圃場ごとに定植日が配置・設定された年間作付計画を自動的に作成するシステムを試作した.現在,共同研究を行っている農業生産法人で運用検証を行っているが,従来のやり方では,1週間以上要するほか,必ずしも数値化されていない「経験」に基いて,様々な数字を決めていくことは,圃場に強い精神的負荷を伴うものであったとのことで,大変に好評である.

おわりに

今後,露地野菜生産では,生育センシング技術と生育モデルを中心としたデータ駆動型生産管理システムの開発を進め,スマートフードチェーンの起点として発展させていかねばならない.その際,本稿ではごく簡単にしかふれなかったが,生育センシング情報の利活用技術の進展が,大いに期待されるところである.

ただ,露地野菜では,低コスト生産が一方で求められるため,実用に供しうる生育制御技術が少なく,例えば,生育予測の結果を栽培改善に活かすことが難しい.そのため,スマート化に要するコストを収量増などの生産面だけから回収することが難しい.一方で,気象変動などに起因する生産・出荷量変動への対応に追われている生産・流通現場からは,たとえコストが掛かっても,出荷量予測が必要だとの声を聞く.このことは,種々の変動リスクにさらされている生産・流通場面における,リスク評価・リスク管理の重要性を示している.現状では,野菜生産・流通における,客観的かつ定量的なリスク評価,ましてや,リスク管理方策の提示に掛かる研究はごくわずかであり,今後の研究展開が切に望まれる.

引用文献
  • 1)  小林茂典(2006)野菜の用途別需要の動向と国内産地の対応課題.農林水産政策研究,11:1-27.
  • 2)  菅原幸治(2018)「キャベツ生育予測」アプリケーション【メッシュ版】.農研機構職務作成プログラム,登録番号「機構-S16」.
  • 3)  菅原幸治(2018)「レタス生育予測」アプリケーション【メッシュ版】.農研機構職務作成プログラム,登録番号「機構-S17」.
 
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