農研機構研究報告
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原著論文
カンキツ新品種‘はるひ’
喜多 正幸 根角 博久國賀 武吉岡 照高中嶋 直子太田 智瀧下 文孝野々村 睦子吉田 俊雄
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2021 年 2021 巻 7 号 p. 9-19

詳細

 ‘はるひ’は1991 年に農林水産省果樹試験場興津支場(現(国研)農研機構果樹茶業研究部門カンキツ研究拠点)において,オレンジタイプのカンキツ興津 46 号を種子親とし,‘阿波オレンジ’ を花粉親として作出した品種である.2001 年よりカンキツ第 9 回系統適応性・特性検定試験にカンキツ興津 55 号として供試した.同試験には 28 の公設試験研究機関が参加し,その結果,ヒュウガナツ様の芳香と鮮やかな果皮色を持ち,かつヒュウガナツに比べ高糖度で収穫期が 1 か月以上早いこと,剥皮性に優れること等が評価され新品種候補にふさわしいとの合意が得られた.これを受け,2009 年 10 月 13 日に品種登録出願を行い,2011 年 3 月18 日付けで種苗法に基づき第 20679 号として品種登録された.本品種の樹勢は中で,樹姿は開張となる.枝梢は太く,長い.葉は紡錘形で葉身の幅は広い.かいよう病とそうか病に強く,カンキツトリステザウイルス(CTV) によるステムピッティングの発生は中程度である.果実は 150 g 程度で,扁球形である.果皮は黄橙色であり,果面はやや滑らかである.果皮厚は 3 mm 程度でやや薄く,剥皮は比較的容易である.成熟期(2 月下旬)における果汁の糖度は 13% 程度と高く,酸度は 1.0 g/100 mL 程度になる.種子数は平均 14 粒程度とやや多い.成熟期は九州地方では1 月下旬以降,関東・東海地方では 2 月下旬以降と評価されているため,農林水産省の栽培に適する自然的条件に関する基準に従い果実の寒害を避けるため冬期の最低気温が- 3℃以下とならない温暖な地域での栽培が望ましい.また,着果が過多になると小玉傾向になるほか,樹が衰弱し,枯れ込むことがある.中程度の隔年結果性があることから,適正な着果管理に努める必要がある.

緒言

農研機構果樹茶業研究部門におけるカンキツ育種は,高品質で収穫期が多様な中晩生品種の育成を大きな課題としている.現在は主要な育種目標として高糖度で良食味,無核性,剥皮性に優れることなどを設定し,選抜を進めている.さらに近年は病虫害抵抗性やトゲが無いなど,栽培性に関連した形質や機能性成分含有量についても着目して選抜を進めている(吉岡, 2017).これまで に農研機構果樹茶業研究部門(前身を含む)で育成され,普及が進んでいる中晩生カンキツとして,‘不知火’(松本, 2001)や‘せとか’(松本ら, 2003)があり,これらは2月以降に成熟期を迎え,高糖度を特徴としている.一方でこの時期以降は気温の上昇に伴い,甘みの強さを特徴とする果実から爽やかな風味を持つ果実へと消費者の嗜好が移り変わり,需要が変化する時期でもある.このニーズに合致した品種として‘清見’(西浦ら, 1983)があるが,減酸が遅い点や剥皮性が劣ることが欠点として指摘されている.‘清見’ の他にこの時期以降に収穫可能な既存品種としてヒュウガナツがあり,宮崎県,高知県,静岡県を主産地として栽培されている.農林水産省の特産果樹生産動態等調査によると,ヒュウガナツは 1987 年に 4,135 t の収穫量であったのに対し 2017 年には 5,458 t とこの 30 年間で 30% 以上の大きな伸びを示している(農林水産省, 2020a).ヒュウガナツは果皮が黄色,良食味であり,中果皮(アルベド)にも苦みが少ないことから中果皮ごと食べることが可能で,また,爽やかな風味を持つなど数多くの優れた特徴を持つため,特産品としての評価も高く,小夏(高知県),ニューサマーオレンジ(静岡県,神奈川県,愛媛県)等の別称でも出荷され,カンキツ産地の形成に大きく寄与している.さらに,その独特な風味を活かしてジュースなどの特産品が生産されており,加工品原料としても需要が高い.また,地域経済の振興や産地の活性化に向け,キンカンやヒュウガナツをはじめとした柑橘系果物の加工や使用方法が提言されている(松井, 2014)ことから,今後一層の普及が期待される.一方,ヒュウガナツは成熟期が 4 月以降となる極晩生品種であり,多様な中晩生カンキツが市場に流通する 2 ~ 3 月からは収穫・出荷が遅れること,じょうのう膜の硬さや種子数の多さなど改良すべき点も多い.そこで, ヒュウガナツを母本とする‘阿波オレンジ’ を育種素材として,ヒュウガナツに由来する爽やかな風味・芳香を有する品種‘はるひ’ を育成したので,その育成過程と品種特性の概要を紹介する.

育成経過

‘はるひ’ は 1991 年 5 月に農林水産省果樹試験場興津支場(現(国研)農研機構果樹茶業研究部門カンキツ研究拠点)において,オレンジタイプのカンキツ興津46号を種子親,‘阿波オレンジ’ を花粉親として交配し,作出した品種である(Fig.1).カンキツ興津 46 号は‘スイートスプリング’ を種子親とし,‘トロビタ’ オレンジを花粉親として育成された品種であり,剥皮性に劣るが,食味が優れるという特徴を有している.‘阿波オレンジ’ はヒュウガナツに‘トロビタ’ オレンジを交配して育成された品種であり,ヒュウガナツ様の爽やかな芳香と風味を有している.同年の 11 月に採種後,直ちに播種してガラス室内で育苗を行った.

1993 年に高接ぎを行い着果・結実の促進を図り,個体番号 N-225 として育成した.1997 年に初結実し,以降数年に渡り果実品質について調査を行った結果,その芳香や食味に優秀性が認められたため,優良個体として選抜した.2001 年 4 月よりカンキツ第 9 回系統適応性・特性検定試験にカンキツ興津 55 号として供試し,東は千葉県から南は鹿児島県までの 28 試験地 30 か所(和歌山県農林水産総合技術センター果樹試験場と宮崎県総合農業試験場亜熱帯作物支場では露地栽培と施設栽培の両方を実施)において地域適応性の検討を行った.その結果,ヒュウガナツに似た芳香を有し,色調も鮮やかなこと,ヒュウガナツに比べて成熟期が 1 ヶ月以上早く剥皮も容易であるほか,果肉が柔軟多汁で糖度も高く,良食味であることが評価され,2008 年 8 月の果樹系統適応性・特性検定試験成績検討会(常緑果樹)において,新品種候補としてふさわしいとの合意が得られた.またこの検討会では本品種は 2 月収穫果実が 3 か月以上経過した時点でも鮮度を保ち貯蔵性に優れることが報告されたほか,ヒュウガナツとのリレー出荷を含め特産品種的な利用について非常に期待されることも提言された.これを受けて 2009 年 2 月の果樹試験研究推進会議育種研究推進部会において,新品種候補としての検討が行われ,果樹研究所職務育成品種審査会において品種登録出願を行うことが決定された.

2009 年 10 月 13 日に品種登録出願を行い,同年 12 月 24 日に出願公表され,2011 年 3 月 18 日に種苗法に基づき登録番号第 20679 号として品種登録された.

なお,品種名の‘はるひ’ は,春の光のように優しい黄橙色の果皮色,甘く爽やかな食味のイメージ,ヒュウガナツより早熟で初春より可食期を迎えられる「春ヒュウガナツ」の語感から‘はるひ’ と命名された.

本品種の育成地以外の系統適応性検定試験並びに特性検定試験を実施した試験地(2008 年当時の名称)は以下の通りである.なお,系統適応性検定試験の報告が単年度のみの場合は,表 3 および表 4 には非掲載とした.

系統適応性検定試験実施試験地:千葉県農林総合研究センター暖地園芸研究所,神奈川県農林技術センター足柄地区事務所研究課(根府川分室),静岡県農林技術研究所伊豆農業研究センター,愛知県農業総合試験場園芸研究部,三重県農業研究所,大阪府立環境農林水産総合研究所,和歌山県農林水産総合技術センター果樹試験場,兵庫県立農林水産技術総合センター淡路農業技術センター,広島県立総合技術研究所農業技術センター果樹研究部,山口県農林総合技術センター農業技術部柑きつ振興センター,山口県萩柑きつ試験場,徳島県立農林水産総合技術支援センター果樹研究所(上板),徳島県立農林水産総合技術支援センター果樹研究所(勝浦),香川県農業試験場府中分場,愛媛県農林水産研究所果樹研究センター,愛媛県農林水産研究所果樹研究センターみかん研究所,愛媛県東予地方局産業経済部今治支局地域農業育成室しまなみ農業指導班技術普及グループ(岩城駐在),高知県農業技術センター果樹試験場,福岡県農業総合試験場果樹部,佐賀県果樹試験場,長崎県果樹試験場,熊本県農業研究センター果樹研究所,熊本県農業研究センター天草農業研究所,大分県農林水産研究センター果樹研究所,大分県農林水産研究センター果樹研究所津久見試験地,宮崎県総合農業試験場,宮崎県総合農業試験場亜熱帯作物支場,鹿児島県農業開発総合センター果樹部

特性検定試験実施試験地(カンキツそうか病):静岡県農林技術研究所果樹研究センター,三重県農業研究所紀南果樹研究室

特性検定試験実施試験地(かいよう病):鹿児島県農業開発総合センター果樹部

特性検定試験実施試験地(カンキツトリステザウイルス病):愛媛県農林水産研究所果樹研究センター

また,本品種の育成担当者(担当期間)は次の通りである.

根角博久(1991 年 4 月~ 2003 年 3 月,2006 年 4 月~2009 年 3 月),吉田俊雄(1991 年 4 月~ 2006 年 3 月),吉岡照高(1991 年 4 月~ 1996 年 3 月),村瀬昭治(1992 年 10 月~ 1997 年 3 月), 瀧下文孝(1996 年 10 月~1997 年 3 月),野々村睦子(1997 年 4 月~ 2002 年 3 月),國賀武(2003 年 3 月~ 2007 年 9 月),中嶋直子(2003 年 4 月~ 2006 年 3 月),太田智(2007 年 4 月~ 2009 年 3 月),喜多正幸(2007 年 10 月~ 2009 年 3 月)

特性

1. 育成地における形態的特性および樹性

農研機構果樹研究所カンキツ研究興津拠点(静岡県静岡市)において栽培した‘はるひ’ について,同地点で栽培したヒュウガナツおよび‘清見’ を対照品種として形質の特性を評価した.なお,対照品種としては着色や収穫可能時期が重なり,類似形質を有する既存のカンキツ品種を選定した.特性の評価は農林水産省品種登録・カンキツ(その他のカンキツ類)の審査基準(農林水産省,2020b)に準じて行った.調査を行った形質のうち,連続尺度で測定される形質については,Shapilo-Wilk 検定により正規分布に従うか否かを検定し,正規分布に従う母集団からサンプリングされたものであることを確認のうえ,Tukey の HSD 検定により有意差を検定した.

1)樹体および花器の特性

育成地における‘はるひ’ および対照品種の樹体および花器の特性をTable 1に示した.‘はるひ’ の樹勢は中程度,樹姿は開張である(Fig.2).とげの発生は少ない.葉の大きさは対照品種のヒュウガナツや‘清見’ より葉長・葉幅ともに長く,広い.葉身の形は紡錘形で,翼葉は痕跡程度に認められる.葉柄の長さは対照品種に比べて長く,太い.単生花を形成し,花弁は白色でおよそ 5 枚である.花糸は約 25 本で合一している.花粉量は中程度である.開花時における子房の形は短卵型である.隔年結果性は中程度,後期落果は少ない.育成地における慣行防除体系下でのそうか病,かいよう病の発生はほとんど認められなかった.

2)果実特性

育成地で 2008 年 3 月 18 日に採取した果実の特性を Table 2 に,果実の外観を Fig.3 に示した.果実は 150 g 程度となり,ヒュウガナツおよび‘清見’ とほぼ同程度である.果形指数[(果実横径/果実縦径)× 100]は 110 程度となり,果形は扁球形を呈する.果面の粗滑はやや滑である.果皮は黄橙色,果頂部は平坦で,果梗部は切平面である.油胞の大きさは中程度でその分布は密である.果皮の厚さは平均 3.1 mm でヒュウガナツより薄く‘清見’ と同程度である.剥皮性はやや易である.浮き皮の発生は少なく,裂果の発生は認められていない.じょうのう膜の硬さは中程度,果肉は橙色で,果汁の量は多い.果汁の糖度(Brix)は平均 13.4%であり,いずれもヒュウガナツおよび‘清見’ に比べて高い.酸度は 0.97 g/100 mL で同時期のヒュウガナツおよび‘清見’ に比べて低い.なお,糖度および酸度は日園連酸糖度分析装置 NH-2000 型(株式会社堀場製作所製)を用いて測定した.官能評価では‘はるひ’ はヒュウガナツに似た芳香を有する.種子数は平均 14.3 粒と多いがヒュウガナツより有意に少なく,多胚性である.経時的な果実品質の調査結果や育成者による官能評価の結果も勘案し,樹上で食味が最も良くなると考えられる果実の成熟期は 2 月下旬である.

各地における試作(系統適応性検定試験)結果の概要

樹体特性および果実特性は育成系統適応性検定試験・特性検定試験調査方法(独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所 1994)に従って行われた各県からの報告をもとにとりまとめた.‘はるひ’ についてカンキツ第 9 回系統適応性検定試験での 28 試験地 30 か所における,2005 年度から 2007 年度の樹体特性及び果実特性を取りまとめ Table 3 および Table 4 に示した.これらのうち,客観・達観で評価された形質については評価値の範囲を示し,それ以外の果実特性は 3 年間の平均値および標準偏差を各試験地の値として示した.なお,以下で示す特性は露地栽培における特性評価として記載している.

1)樹体の特性

樹勢は中と評価した試験地が 12 か所で最も多かった.その他の試験地は大半が中~強,やや強~強等,中より強い樹勢であると評価した.樹姿は中と評価した試験地が 13 か所であった.枝梢の粗密は 18 か所で中と評価された.とげの発生数は少から多まで評価がほぼ均等に分かれ,長さについても短と評価した試験地が 9 か所と最も多い一方,長と評価する試験地も 6 か所と多く,とげについては発生数,長さともに試験地間での評価に違いが大きかった.発芽期の評価は幅が広く,4 月上旬と判断した試験地が 12 か所,この期間に前後する 3 月下旬と判断した試験地が九州地方を中心に 7 か所,4 月中旬とした試験地が四国地方以東で 7 か所であった.満開期は半数程度の試験地で 5 月中旬と判断された.かいよう病は半数の試験地で発病なしと報告され,発病が報告された試験地でも大半が軽度であった.そうか病については 2 か所で発病が報告されたが,残りの試験地では発病の報告はなかった.

2)果実の特性

果実重は 95 g ~ 171 g で幅があり,試験地点平均は 141 g であった.果形指数は平均 107 で果実は球形に近い扁球形を示した.果皮の厚さは平均 3.4 mm で中程度である.剥皮性は易と評価した試験地が 7 か所,次いで易~やや易,易~中と評価した試験地がともに 5 か所であり,剥皮性は優れていると評価する試験地が多かった.浮皮は半数以上の試験地で確認されず,確認された試験地でも軽度であった.裂果は 1 か所を除き発生が認められなかった.す上がりの発生は 4 か所から報告された.果肉歩合は 68%~ 79%と幅があり,平均は 74%であった.果汁量は多と評価した試験地が多かった.じょうのう膜の厚さは,中と評価する試験地が 7 か所,やや厚を評価の範囲値に含めた試験地が 15 か所,厚の評価が 3 か所あり,これらを総合的に判断するとやや厚と考えられる.成熟期における糖度(Brix)は 10.5%~15.3%と幅があり,平均は 13.0%であった.酸度は 0.79 g~ 1.31 g/100 mL と幅があり,平均は 1.08 g/100 mL であった.種子数は多と評価する試験地が多かった.果皮の着色始期は 10 月下旬~ 12 月中旬の範囲で,11 月中旬とする試験地が最も多かった.また,果皮の完全着色期は 12 月中旬~ 3 月までに渡ったが,12 月中旬~ 1 月下旬までにほとんどの試験地で完全着色を迎え,1 月上旬とした試験地が 6 か所で最も多かった.果実の成熟期は関東・東海地方では 2 月下旬と評価する試験地が多く,九州地方では 1 月下旬と評価する試験地が多かった.

3)特性検定試験結果

そうか病およびかいよう病に対する抵抗性,CTV によるステムピッティング発生の程度に基づく抵抗性を育成系統適応性検定試験・特性検定試験調査方法(独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所 1994)に従って評価した.

 そうか病に対する抵抗性は 5 年間の屋外圃場での接種試験の結果,対照のウンシュウミカンにおける発症が著しい 2003 年および 2006 年においても‘はるひ’ の発病度は低く,ウンシュウミカンより抵抗性は強い傾向にあると考えられる(Table 5).圃場観察によるかいよう病の発生程度は春葉,夏葉,果実については軽~無,枝は無と評価され,かいよう病に対する抵抗性はやや強いと考えられる(Table 6).CTV によるステムピッティングの発生率は 60 ~ 90%と高かったが,発生率に傷害程度を加味して評価する発生度は 12 ~ 26 と低かった(Table 7

地域適応及び栽培上の留意点

系統適応性検定試験において‘はるひ’ は幼木時に果実の着果が少ないこと,収量性は比較的良いが,着果過多となると小玉傾向になり,急速に樹が衰弱することが報告されている.中程度の隔年結果性を示すことから,適正な着果管理に努めることが肝要である.また,寒さによる障害はほとんど見られないことから,我が国ほとんどのカンキツ栽培地帯で栽培が可能と考えられる.しかし,多くの産地で完全着色を迎えるのは 1 月中旬以降,収穫期は 2 月以降となるため,一時的な厳しい寒波の襲来により苦味や「す上がり」果の発生が懸念されることから,冬季に比較的温暖な地域での栽培がより好ましい.系統適応性検定試験では,静岡県,宮崎県から複数年次に渡る果実の総合評価として有望と判断された.系統適応性検定試験の和歌山県および宮崎県における施設栽培時の平均果実重はそれぞれ 178 g と 215 g であり,同試験地の露地栽培での成績と比較しても大玉果が生産されていることから,結実量や環境制御の利用により大玉果の積極的な生産も可能であると考えられる.

2010 年度より穂木供給が開始され静岡県伊豆地方で産地形成が進んでいる.生産地からの近年の報告では,夏秋梢の伸長が旺盛で樹幹拡大が容易である反面,翌年徒長した夏秋梢の中間部から側枝が発生しにくいため,樹冠内部の葉数および着果量の確保が難しいことが挙げられており,幼木の段階からある程度の着果負担をかけ,夏秋梢の発生を抑えることが望ましいとされている(濱田・土屋 2017).また,無袋栽培を行った場合に果皮の着色にムラが生じる点が指摘されており(濱田・土屋 2017),今後果実袋の利用等,着色制御技術の確立が課題である.

特性検定試験の結果および,系統適応性検定試験の報告ではそうか病,かいよう病ともに多くの試験地で無~軽であったことから,これらの病害については,栽培上の大きな問題にならないと考えられ,カンキツ栽培における一般的な慣行防除体系でそれらの発生を抑えることが可能である.また,現在のところ生産地から CTV による樹勢低下は報告されていない.

謝辞

本品種の育成に当たり,系統適応性検定試験および特性検定試験を実施頂いた関係公立試験研究機関の各位に感謝の意を表する.また,育成過程において圃場管理等に多大のご協力を寄せられた農林水産省果樹試験場興津支場,農研機構果樹研究所カンキツ研究興津拠点(いずれも現 農研機構果樹茶業研究部門カンキツ研究拠点)の歴代職員,研修生諸氏に心からの感謝の意を表する.

最後に本品種の育成者であり,これまでに多くのカンキツ品種の育成・普及に尽力された村瀬昭治氏の大きな貢献に感謝する.

利益相反

全ての著者は開示すべき利益相反はない.

引用文献
 
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