農研機構研究報告
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1章 農耕地の除染と農業用水の放射性物質への対応
機械作業技術による除染作業への取り組み
八谷 満
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2021 年 2021 巻 8 号 p. 19-27

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Abstract

東京電力福島第一原子力発電所事故からの速やかな復旧・復興を目指して,著者らは食料生産の基盤である農地の復旧を目的として放射性物質除去のための技術開発に取り組んだ.特に,農地土壌や畦畔,農道,水路,周辺の森林等に蓄積した放射性物質からの放射線による外部被ばく対策を取り上げ,汚染表土の削り取りを目的として開発した農地周辺除染用作業機の特徴と,これを用いた現地実証試験等の結果を中心に報告する.併せて,運転者の外部および内部被ばくの抑制を目的として開発した除染作業用シールドキャビン付きの農用トラクタの概要について記す.さらに,放射性物質を含む農産物の生産・流通を未然に防止するため,穀物乾燥調製施設の稼働再開に向けた,当該施設で生じる恐れのある交差汚染を防止するための取り組み事例を紹介する.

はじめに

電力福島第一原子力発電所事故では,水素爆発に伴い大量の放射性物質が放出され,福島県を中心とした広い範囲に未曾有の放射能汚染をもたらし,我が国の農林水産業に多大な影響を及ぼした.我が国の農地が大規模に放射性物質に汚染される初めての事態であり,事故からの復旧・復興は最優先の課題とされた.様々な機関において,周辺地域の土壌等の汚染状況の調査・研究が精力的に進められるとともに,面積が大きく,食料生産の基盤である農地の復旧を目的とした放射性物質除去のための技術開発が試みられてきた.

農地土壌の汚染に当たっては 2 つの観点から取り組む必要があった.農地土壌や畦畔,農道,水路,周辺の森林等に蓄積した放射性物質からの放射線による被ばく(外部被ばく)と,農産物の摂取に伴う被ばく(内部被ばく)対策として農作物への放射性物質の移行をともに低減する必要が求められた.外部被ばく対策としては,空間線量率の低減を目的とした除染を行い,内部被ばく対策としては,農作物への放射性物質の移行低減を目的とした吸収抑制を実施する必要がある.

本稿では,外部被ばく対策として,汚染表土の削り取りを目的とした農地周辺除染用作業機の特徴とこれを用いた現地実証試験の結果を中心に報告する.その他,除染作業への適用を前提として,運転者の外部および内部被ばくの抑制を目的として開発したシールドキャビン付き農用トラクタについて紹介する.併せて,放射性物質を含む穀物調製施設内の粉塵等が製品玄米に混入することで生じる交差汚染が生じる懸念を踏まえて,本格稼働前の放射性物質交差汚染防止の取り組み事例についても紹介する.

1 表土削り取り機の開発と適応性

1 - 1 表土除染用作業機の開発の背景

1986 年のチェルノブイリ原子力発電所の事故では,農地に降下した放射性物質は,事故後 10 年経過した後においても土壌表層に集中して存在していたとされる.この度の事故においても同様の状況であれば,表層土壌の除去により汚染された農地を利用可能な状態に回復させることが期待される.すなわち,削り取った汚染土壌を全てほ場から持ち出して放射性物質の濃度を低減することが肝要であるが,併せて廃棄土壌として処理することから排土量はできる限り少なくすることが求められる.

2012 年度から本格的な農地除染を開始するに際して,農林水産省は平成 23 年度第 3 次補正予算でプロジェクト研究「森林・農地周辺施設等の放射性物質の除去・低減技術の開発」を立ち上げ,この中で「農業用施設,畦畔,農道等の除染技術の開発」を公募した.これに対して,農研機構 生物系特定産業技術研究支援センター(現 農業機械研究部門)がプロジェクトリーダーを務め,農機メーカー各社,農研機構 中央農業総合研究センター(現中日本農業研究センター)および農研機構 農村工学研究所(現 農村工学研究部門)が参画する農地周辺除染技術コンソーシアムを組織して応募し,2011 年 12 月下旬に採択された.本課題の目標は,畦畔,法面,農道及び用排水路といった農地周辺それぞれの場面に応じて,土壌表層に集中する放射性物質を省力的かつ安全に取り除く 4 つの機械化技術を開発し,その適応性を検証することにあった.以下では,上記 4 つの場面に応じた各機種のうち,特に法面表土と農道表層を対象とした 2 機種の概要を述べる.

1 - 2 農地周辺除染用作業機の特徴

農地周辺除染用作業機の開発コンセプトは,①農業生産現場における除染作業を前提として,営農手段またはその延長線上で可能となる作業システムを実現すること,②作業適応範囲の広いシステムとすること,③短期開発を前提として既存技術の組合せ,および改良を原則として,信頼性の高いシステムとすることが挙げられる.

1)法面表土削り取り機

開発した法面表土削り取り機は,機関出力 55 kW 以上の外部油圧機構を有するトラクタ 3 点リンク(JIS Ⅱ型)直装用の作業機である(図 1).当該機は,トラクタの側方にオフセットし,進行方向と直交した側を上下 50°まで回動可能であることから,法面がトラクタ走行面に対して上下に傾斜していても上記範囲であれば適応できる.有効作業幅は 1,600 mm,削り取り深さは 3 cmと 5 cm の 2 段階に設定できる.削り取った表土は作業部側方に排出され,フロントローダ等で集土しやすいよう筋状の排土列を形成する.

作業部に設けられた進行方向と直交する 3 本の回転軸には,それぞれ削り取り深さを一定に維持するためのローラー,フラットな削り取りを可能とする形状で 95 mm ピッチにより配列された計 34 組の掘削爪,掘削爪で削り取られた表土を作業部左側方に搬送するスクリュコンベヤが取り付けられている.

2)農道表層剥ぎ取り機

当該機は,イタリア FAE 社製ストーンクラッシャ(型式名:STC125)をベースに改良したものである.ストーンクラッシャとは,畑にある小石を粉砕して再度畑に戻す作業機であるが,ベースとして採用した機械はその中で最も小型のタイプである(図 2).当該機は,機関出力 66 kW 以上のトラクタ 3 点リンク(JIS Ⅱ型)直装用の作業機であり,地面の凹凸等に影響を受けにくく,安定したけん引力と砕土深さが期待できるハーフクローラ仕様のトラクタ利用を推奨している.当該機の全幅は 1,760 mm(有効作業幅= 1,340 mm)であるが,その作業幅がトラクタの左右クローラ間隔より狭く,そのままでは農道端(路肩)への適応性が低いため,適応性を高めるために左右にオフセットできるよう改良を施している.オフセット量は 4 段階で,最大 260 mm 移動可能である.当該機は,進行方向とは逆回転するロータで表土と共に石礫を掘り起し,超硬合金であるタングステンカーバイト製の粉砕歯と受歯によって粉砕するもので,最大径 30 cm の石を 3 cm 程度にまで粉砕可能である.粉砕径は,後部カバーの開度を変えることにより調整可能である.

1 - 3 開発機による現地適応性試験

開発機の適応性を検証するために,福島県飯舘村伊丹沢地区,および飯樋地区においてそれぞれ 2012 年 3 月中旬,および 6 月下旬に現地試験を実施した.試験に当たっては,各開発機のオペレータを現地農業生産者に依頼した.試験項目は,作業能率,表土断面プロファイル(作業精度),土壌の放射性物質濃度,空間線量率および作業環境粉じん濃度とした.なお,放射性物質濃度は外部機関に分析を依頼した.表土試料の採取・調査は 3 月試験時のみとしたが,対象とする放射性物質はセシウム(以下,Cs)であり,半減期 2.2 年の 134Cs と同 30 年の 137Cs である.空間線量率の測定にはシンチレーションサーベイメーターを用いて,地表から 1 cm 高さおよび 1 m 高さとした.なお,地表から 1 cm 高さの測定は,コリメート法(サーベイメーターの検出器を鉛遮蔽体で覆い,周囲の放射線の影響を除外して測定対象地表面から発せられる放射線のみを測定)と併せてコリメートに依らない方法(鉛遮蔽体を用いない)とした.粉じん濃度の測定では,オペレータ口元近傍と作業場所周辺にデジタル粉じん計を設置し,ローボリュームサンプラによる並行測定とした.

1)法面表土削り取り機の作業性と除染効果

本機には 58.8 kW の半装軌式トラクタ( クボタ SMZ805-PC)を供した.現地(飯舘村伊丹沢地区)の供試ほ場法面(土質:黒ボク土)の汚染実態を把握するため,斜面鉛直方向に深さ 10 cm までの土壌を 5 cm ごとに分取して,土壌中放射性 Cs 濃度の垂直分布を測定した.当該試料の分析結果によれば,放射性Cs(134Cs + 137Cs)の存在割合は表層下 5 cm までの深さにおいて約 73%が沈積していた(図 3).本結果を踏まえて,当該機の削り取り深さ設定を 5 cm として実施した作業の除染効果を図 4 に示す.放射性 Cs 濃度が 77,212 Bq/kg 乾土の処理前に対して,処理後の表層 5 cm においては 16,371 Bq/kg 乾土と約 78% 低減した.これは,上記の土壌中放射性 Cs 濃度の垂直分布割合とおおむね合致する.なお,放射性 Cs のうち137Cs の濃度が処理前後いずれにおいても約 62% を占めていた.地表 1 cm の空間線量率(コリメート法)においても,処理前 1.37 μSv/h に対して処理後 0.27 μSv/h と約 80% の低減率を得て,放射性 Cs 濃度とほぼ同等の除染効果が確認された.2012 年6月に実施した現地試験では,排土量を可能な限り少なくするために表土を薄く削り取ることを目的として,削り取り深さ設定を 3 cm として連続作業を行った.作業速度 0.08 m/s で作業を進め,4.4 a/h の作業能率を得た.法面麓に形成された排土列は約 30 cm 幅の筋状を成し(図略),その排土量は 3.0 t/a と1 m3 容量のフレキシブルコンテナバッグ約 3 袋/a となった.しかし,法面の凹凸によって全面が一様に削られず(2.5 ± 1.8 cm)とやや浅い削り取り深さであった.結果として,地表 1 cm の空間線量率(コリメート法)は処理前の 0.60 ± 0.09 μSv/h に対して 0.24 ± 0.05 μSv/h と 60% 程度の低減率に留まった. 同様の機械条件で再度処理した結果,0.16 ± 0.03 μSv/hとなり,処理前に比して 73% の低減率が得られた.

2)農道表層剥ぎ取り機の作業性と除染効果

本機には 77.2 kW の半装軌式トラクタ( ヤンマー EG105)を供した.現地(飯舘村伊丹沢地区)の供試ほ場脇の農道の汚染実態を把握するため,深さ 10 cm までの土壌を 5 cm ごとに分取して,土壌中放射性 Cs 濃度の垂直分布を測定した.当該試料の分析結果によれば,放射性 Cs(134Cs + 137Cs)の存在割合は表層下 5 cm において約 90% が沈積していた(図 5).前項の放射性 Cs が表層下 5 cm に 70% 程度が沈積していた法面に比して,農道の表層においてはより高い割合で沈積していることが確認された.また,法面と同様に農道においても深さに関わらず,放射性 Cs のうち 137Cs が 62% を占めていた.

当該機は,2 つの試験地において 0.11 ~ 0.13 m/s の速度で剥ぎ取り作業を行った.3.4 m 幅の農道であれば,一往復作業で対応することとなり,100 m 長を 30 分程度で処理できることになる.しかし,除染作業体系としては,剥ぎ取った汚染土壌をすべて集土・除去してはじめて放射性物質の濃度を低減せしめる.そこで,本体系では剥ぎ取った汚染土壌をすべてフロントローダで集土し,トラックへ積み込むこととした.作業能率は約 1.2h/a となり,その時間内訳は剥ぎ取り作業が 16%,集土・搬出作業が 84% を占めた.農道の箇所による凹凸の差異はあるものの,5.9 ± 2.8 cm の剥ぎ取り深さであった.また,砕土した土壌の篩分析結果では,粗礫(19.0 ~26.5 mm)は 11%,中礫(2.0 ~ 19.0 mm)は 57%,細礫(2.0 mm)以下は 32% とほぼ中礫以下であることを確認した.農道であるため,比較的小さな石しか含まれていなかったことから,作業部の後部カバーを開き気味(粉砕径が大きくなる条件)で作業したにも関わらず良好な砕土状態であった.

2012 年 3 月に実施した現地試験では,表土の深さ 0~ 5 cm における放射性 Cs 濃度は処理前 88,049 Bq/kg 乾土であったのに対して,剥ぎ取って集土した処理後には同 0 ~ 5 cm において 3,496 Bq/kg 乾土となり,97% と高い低減率を得た(表 1).なお,左右の路肩における除染効果は中央部に比してやや低い傾向が認められた.左右の路肩は農道中央部に比して傾斜面を有するため,剥ぎ取り深さがやや浅くなることに起因すると考えられた.地表 1 cm の空間線量率(コリメート法)においては,処理前の 1.38 μSv/h から処理後の 0.20 μSv/h へと約 85%の高い除染効果を得て,処理 1 ヶ月半を経た後でも 0.21 μSv/h と処理直後と同等であることを確認している.なお,2012 年 6 月に飯舘村飯樋八和木地区においても試験を実施しており,上述結果とほぼ同様の結果を得ている.

3)除染作業時の粉じん曝露実態

除染作業に際しては,放射線障害防止のための被ばく管理や効率的な作業体系の構築に必要とされる情報を提示し,より安全な体系化技術を提供する必要がある.上述した開発機による作業者等の放射線被ばく量を抑制・低減する技術の効果を確認するため,労働安全に係わる作業環境要因として粉じん曝露実態を調査した.除染電離則における作業環境粉じん濃度測定の対象粒径は,作業環境測定基準第 2 条第 2 項に定める,じん肺を対象に考える吸入性粉じん(PM4:4 μm,50% cut)と異なり,内部被ばくを前提に,総粉じんに近い気中から鼻孔や口を通って吸引されるインハラブル粉じん(吸引性粉じん,100 μm,50% cut)を測定対象としている.繊毛のある気管より上部に沈着した粒子は消化器へ移動する可能性が大きいと考えられるためである.

農地周辺除染作業時におけるトラクタキャビン内の粉じん濃度は,法面除染時に 0.23 mg/m3,農道除染時に 0.47 mg/m3 であった.同様に,作業場所から約 5 m 離れた地点においては,法面除染では 0.23 mg/m3,農道除染時には 0.98 mg/m3 であった.これらは,除染電離則で高濃度粉じん状態と定められる 10 mg/m3 を大きく下回っており,一概には言えないが,作業者や周辺環境の被ばく防止に対して両開発機の作業部のフルカバー構造が寄与していると考えられた.

1 - 4 開発機の適応性拡大

薄く土壌の表層を削る法面表土削り取り機について,現地生産者等から農地周辺のみならず農地土壌の除染技術にも適用できないかとの要望が挙げられた.これを受けて,前述の法面表土削り取り機の排土機構を一部改良して水田表層土の削り取り作業を試みた(図 6).排土機構の改良は,平坦ほ場面を対象とした表土削り取りを前提としたものであり,排土を搬送部の左端部の排出孔から後方内側に排出・盛土しながら排土列を形成するため,幅 1.5 m のブレードを斜めに設けた.

削り取り深さ設定を 3 cm として,作業速度 0.09 m/sで連続作業を行った結果,削り取り深さ 2.9 ± 1.4 cm と薄層で概ね均一な作業精度を確保しながら,作業部左端から約 30 cm 内側後方に排土列を形成し,4.9 a/h の作業能率を得た.削り取った排土量は約 30 t/10 a と換算され,約 30 袋/10 a のフレキシブルコンテナバッグの発生が見込まれた.図 7 に示した処理前後の表層土プロファイルからは,処理面が概ね均平であるとともに,後作業のフロントローダ等で集土しやすいよう,排土列の幅は約 40 cm,高さ約 20 cm の筋状に形成されていることが確認できる.

1 - 5 開発機の現場での利用

前項の一部改良した開発機は,その後さらに改良が加えられた後に,農地除染作業で使用される自走式の表土削り取り同時掬い取り機(スキマー)やパワーショベル等と連携した機械作業体系で検証された.開発機導入先(飯舘村)において,深さ 5 cm の表土削り取り作業時の作業能率は,スキマー単独では 4.5 h/10 a(ダンプトレーラでのほ場内運搬・集積含む)であり,開発機の作業(1.7 h/10 a)後のスキマー利用では 2.3 h/10 a(ほ場内運搬・集積含む)となり,除染作業の大幅な効率化を実現した.

2015 年 3 月より市販化され,国が定める除染特別地域(福島県内 11 市町村)における除染作業未実施農地約 5,000 ha(2015 年 12 月現在)を当面の普及予定地域として,現在までに 10 台普及し,福島県川俣町や飯舘村等の除染事業区で稼働した.

2 除染作業用シールドキャビン付き農用トラクタの開発

2 - 1 被ばく抑制機能の開発内容

農地の除染を目的とする表層土壌の除去作業においては,前述のとおり農地で円滑に稼働する機械が求められる.よって,営農手段またはその延長線上で可能となる作業システム,すなわち農用トラクタとこれに装着する作業機の組合せが除染作業においても有用と考えられた.ただし,除染作業に従事する作業者の安全については,放射線による外部および内部被ばくの抑制対策が求められる.農林水産省が 2011 年 9 月に取りまとめた「農地土壌の放射性物質除去技術(除染技術)について」(農林水産省農林水産技術会議)では,「高線量下での作業技術の検討が必要」とされ,特に土ぼこりなど放射性粉じんの飛散防止等の必要性が指摘された.しかしながら,現行の農用トラクタに除染作業時の運転者の外部および内部被ばくの抑制を考慮した機種は存在しない.そこで,運転者の外部および内部被ばくの抑制を目的としたシールドキャビン付き農用トラクタ(以下,シールドキャビントラクタ)について以下の開発目標とした.

①キャビン内部でトラクタの運転操作を行う運転者の放射線外部被ばく量を同地点における機体周辺の外部被ばく量に比較して概ね 50% 以下に低減する.

②キャビン内部への外部からの放射性物質(粉じん)の侵入を極力低減する(運転者が作業時に高価で重厚な防じんマスクを装着する必要ない程度の空気清浄レベルを保持する).

開発したシールドキャビントラクタ 2 型式の外観を図 8 に示す.A 機は国内市販のキャビン付きトラクタ(井関農機,TJV85C-GLWX3C,機関出力 62.5 kW),B 機は国内市販のキャビン付きトラクタ(クボタ,SMZ805QPC1,機関出力 58.8 kW)をベースとして,キャビンを米国市販の農薬散布作業用トラクタ向けキャビン(NELSON MFG.CO., INC.,NOC-1000(日本商品名:HEPA 付き加圧式キャビン))に交換した.いずれも,放射線遮蔽素材を装着するとともに,防じん空調装置を搭載したものである.放射線遮蔽素材には,鉛板を採用し,キャビンガラスほか構成部材に装着した.防じん空調装置には HEPA フィルタおよびキャビン内空気加圧型空調システムを採用し,外気をキャビン内へ HEPA フィルタに通してブロアで加圧・取り込み,キャビン内の空気をエアコンで循環させる構造とした.なお,B 機においては放射線遮蔽素材の装着により視界が狭くなったことから,前輪付近と後方を撮影するカメラを設置し,キャビン内に設置したモニタで運転者が確認できるようにした.

2 - 2 開発機の放射線遮蔽性能と防じん効果

床面付近の遮蔽性能は,放射性同位元素 137Cs からの γ 線の実効線量透過率(原子力安全技術センター,2007,鉛 5 mm で遮蔽した場合に 65 %,鉛 30 mm で 5 %,鉄 10 mm で 86 %,鉄 15 mm で 77 %)と同等以上の結果を得た.以上により,開発機が放射線遮蔽性能の目標を達成したことを確認した.運転者口元の粉じん濃度は,キャビン外部に対して大幅に低減(A 機:1.4%,B 機:0.2%,対照機:1.5%)され,除染電離則のガイドラインが定める高濃度粉じん作業の基準値 10 mg/m3 を大幅に下回ったものの,防じん空調装置を付加した両開発機は対照機に比して明確な差異は認められなかった.

2 - 3 開発機による除染作業体系の作業性

開発機に直装したパワーハローによる表土破砕作業,またはリアグレーダやフロントローダを直装して集土・排土作業に供した.こうした機械体系による現地での除染作業の結果,前述のとおり集土・排土作業の作業能率(3.0 a/h)は表土破砕作業(26.9 a/h)に比して極めて低く,除染作業を進める上でボトルネックになるものと考えられた.

3 穀物乾燥調製施設での放射性物質交差汚染防止の取り組み

福島県では,消費者に向けた米の安全性を担保する独自の取り組みとして,流通する玄米の全量全袋を対象に放射性物質検査を行い,その検査結果を公表する対応策が採られた.2012 年に実施した当該検査において,ごく一部の玄米袋(30 kg 容)から食品基準値(100 Bq/kg,米では 2012 年 10 月 1 日より適用)を超える放射性セシウム(以後,放射性 Cs)が検出された事例を受けて,同事例の再発を防ぐために,籾摺機での交差汚染の発生実態を確認するとともに,早急に対応策が講じられた.なお,農林水産省では,放射性物質による交差汚染については,「農産物が当該農機具等に付着している放射性物質に汚染されること」と定めている.

3 - 1 交差汚染対策計画の作成

交差汚染は,放射性物質を含む粉じん等の機内残留物が製品玄米に混入することで生じる.この防止策として,以下の ①~④ の流れを計画し,この順に作業を実施した.

① 対策時期の決定:施設内には周辺環境に浮遊する土ぼこりなどが常時侵入する可能性があるため,周辺環境の除染を終えてから対策を行う.

② 施設内の清掃と機内残留物の除去:交差汚染の原因物質となる施設内の残留物等を清掃によって物理的に除去する.ここで,機器の空運転は効率的な清掃手段と考えられるが,施設構造によっては汚染を川下(製品口)へ拡散する可能性もある.よって,空運転を実施する場合は念入りに残留物を取り除いた後とする.

③ 清掃後の汚染状況調査:清掃で除去し切れなかった残留物等を採取の上,その放射性Cs 濃度を測定し,これらが混入するリスクの大小を評価する.

④ とも洗いの実施:清掃用の原料籾を準備の上,乾燥籾排出~玄米の袋詰排出までの原料通過経路を対象に,機器を連結させた状態でとも洗いを実施する.なお,乾燥中~籾貯蔵期間中における放射性 Cs の玄米への移行可能性は極めて低いため,荷受け~乾燥機張込みまでの間のとも洗いは実施不要とした.

以下,③ および ④ の結果概要を記す.

3-2 清掃後の汚染状況

汚染状況調査は施設全域を対象とし,可能な限り残留物を回収した.施設で回収した残留物は,籾,玄米,籾殻,ほこり,虫,ネズミの糞など多種多様であり,これらの放射性 Cs 濃度は概して数十~数千 Bq/kg であった.特徴的な傾向として,ネズミの糞が混入する残留物や屋外に近く開放状態にある部位の残留物(例:荷受けピット,シャッターに近い機器外壁,天面のほこり等)は比較的高濃度であることを認めた.これらの結果を施設のライン図上にプロットし,同図上に示した米の形態別(籾,玄米,精米)ゾーニング結果を踏まえ,高濃度かつ製品口に近い箇所をリスクが大きいとし,重点的な清掃部位と定めた.

3 - 3 籾を使ったとも洗いの実施

調査対象とした穀物乾燥調製施設におけるとも洗いの交差汚染防止効果を検討した.まず,放冷タンク下部のベルトコンベヤに籾 40 kg を投入後,機器を稼働させて玄米用計量機より仕上米を排出した.この仕上米を小分け袋へ全量回収し,各袋(約 2.5 kg/ 袋)の放射性 Cs 濃度を測定した.その後,機内残留物を除去した後に,約 300 kg の籾(とも洗いと同一ロット籾)を投入して慣行作業を実施し,玄米用計量機より仕上米を排出した.慣行作業中の最初の 12 kg は全量,以降は 30 kg ごとにサンプルを回収し,放射性 Cs 濃度を測定した結果,とも洗いを重ねる度に仕上米の放射性 Cs 濃度は着実に低減することを確認した(図 9).施設規模によって必要な籾の量は異なるが,とも洗いは最後に実施するライン清掃方法として有効であると考えられた.

おわりに

本稿では,まず,外部被ばく対策として汚染表土の削り取りを目的として開発した農地周辺除染用作業機の特徴について記した.特に,法面表層と農道表土を対象とした除染用作業機の開発概要,および福島県伊丹沢地区と飯樋地区を現地実証先として,開発機による除染効果と作業性を検証・明示した.現地からの要望により,法面表土削り取り機の農地土壌への転用改良を図り,各種試験を重ねて 2015 年 3 月に市販化された.これを受けて,現在までに 10 台が福島県川俣町や飯舘村等の除染事業区で稼働した.その他,除染作業への適用を前提として,運転者の外部および内部被ばくの抑制を目的として開発したシールドキャビン付き農用トラクタの特徴と導入効果を示した.さらに,放射性物質を含む穀物調製施設内の粉塵等が製品玄米に混入することで生じる交差汚染防止策として,籾摺機での玄米の放射性物質交差汚染に関する実態調査および籾を使ったとも洗いによる放射性物質交差汚染の低減効果を示した.

謝辞

本稿において紹介した事例は,いずれも生物系特定産業技術研究支援センター(現 農業機械研究部門)が中心となって実施された.シールドキャビン付き農用トラクタについては同センター重松健太氏から,放射性物質交差汚染防止については同じく日髙靖之・野田崇啓両氏から貴重な資料の提供を頂いた.ここに記して謝意を表する.なお,シールドキャビン付き農用トラクタに関する研究は,2011 年度に農林水産省より公募された実用技術開発事業における「東日本大震災に関する緊急研究」において取り組んだものである.

引用文献
 
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