2021 年 2021 巻 8 号 p. 191-198
現地施工した建設足場資材利用園芸ハウスの構造解析を行い,耐候性を評価し,耐雪性を向上させる補強方法を検討した.耐候性の評価では,概ね耐風速 35 m/s,耐積雪深 40 cm の設計強度が確認され,台風被害が少なく,積雪の少ない三陸沿岸南部では十分であるが,より積雪の多い県内他地域の設計用積雪深 67 cm では,構造体の許容応力度は範囲内にあるものの,無柱断面における垂木のたわみが許容変形限界を大きく超えるため,垂木を支える補強が不可欠であった.現地施工モデルに 3 種の耐雪補強方法を設定し,耐雪性を比較したところ,現地施工モデルの無柱断面に,作業性を悪化させないよう中柱を設置せず,垂木を支持する束,および梁と方づえを追加した補強方法では,屋根のたわみが軽減される可能性が示された.しかし,構造の一部にクランプの破壊に至るような曲げモーメントが作用することも予想されたため,75 cm を超える積雪地においては,中柱で支持する耐雪補強が望ましい.中柱を伴う補強方法では,資材に伴うコスト増を抑えるためにスパンを 1.8 m から 2.0 m に広げても,中柱を設置しない補強方法より構造全体の余裕が高まることから,安全かつ効果的な耐雪補強方法と考えられた.
東日本大震災以前の岩手県の南部沿岸地域は,夏季冷涼で冬季多照な気候資源に恵まれた園芸産地であったが,津波により施設等の生産基盤に甚大な被害を受けた.西日本農業研究センターでは,震災以前から中山間地域向けの低投入型施設として,ダブルアーチで構造を強化したパイプハウスや建設足場資材を利用した園芸ハウスを開発してきた経緯があり,これらの成果を被災地の速やかな復旧・復興の一助とすべく,2013 年度から岩手県農業研究センターを中核とする実証事業に参画した.
建設足場資材利用園芸ハウスとは,建設足場に使われる一般構造用炭素鋼鋼管(JIS G 3444,STK500,単管パイプ)と接続用クランプを構造材に用い,生産者が自家施工できる園芸ハウスである.比較的安価で頑丈な主構造で,組立て形状の自由度も高く,狭い不整形地や傾斜畑にも建設が可能である(長﨑ら 2005).現地実証では冬季の耐雪性と保温性を技術課題とし,5 年にわたる現地試験を経て,施工方法を施工マニュアル(農研機構 2017)にまとめた.
近年の園芸ハウス価格は高止まり傾向にあり,特に設置面積の多くを占める簡易なパイプハウスは,コストが優先されるため,自然災害のリスクが高い.そのため,全国的に低コストで堅牢な園芸ハウスへの関心は高まっており,施工マニュアル公開後,建設足場資材利用園芸ハウスの導入を検討する産地や生産者から問合せも多く寄せられるようになっている(吉越 2020).しかし,現地実証を行った岩手県南部沿岸は雪が少なく(吉越ら 2015),施工マニュアルに示したモデルも少雪地向けにコストを重視した設計であり,紙面の制約上,強度や補強方法に触れることができていない.
そこで本報では,施工マニュアルの補遺として,マニュアルで提示したモデルの耐候性の評価や耐雪補強方法およびその具体的効果を示すため,三次元フレーム構造を対象とした非線形有限要素法(FEM)計算により検討した結果を報告する.
1.解析モデル
施工マニュアル(農研機構 2017)に示した建設足場資材利用園芸ハウスモデルの構造解析を行うため,節点と構造要素(フレーム)で構造体を表現した 3 次元構造モデルを作成した(モデル 0).次に,有効な耐雪補強方法を検討するため,モデル 0 に補強材を追加したモデ ル1 ~ 3 を作成した.モデル 0 の概形を図 1 に,各構造解析モデルの断面形を図 2 にそれぞれ示す.
モデル 0 は,妻面側からみて,基礎付きの側柱と中柱,梁,および方づえで構成される A 断面(3.6 m 間隔)と,側柱と垂木のみの B 断面(3.6 m 間隔)を根太(ねだ),棟および桁パイプで桁行方向に交互に連結した構造で,A 断面と B 断面の間隔は 1.8 m である.
耐雪補強では,できるだけ内部の作業性が悪くならないよう,中柱を設けない補強モデルとしてモデル 1,2 を設定した.モデル 1 は,モデル 0 の A 断面はそのままとし,B 断面に梁と方づえ,および垂木の中央を支持する束を追加した(C 断面).一方,モデル 2 では,モデル 1 の C 断面に棟を支える束,および束と垂木を繋ぐ方づえを追加した D 断面とした.
さらに,構造的に望ましい中柱を追加した補強モデルとして,モデル 3 を設定した.これは,モデル 0 の A 断面はそのままとし,中柱を有する E 断面で構成されるが,資材コストおよび中柱密度を抑えるため,側柱間隔をモデル 0 ~ 2 の 1.8 m から 2.0 m に拡大している.各構造解析モデルには,要素各部の材料・断面性能を与えた.材料要素は,杭と屋根の桟を除き,全て外径 φ= 48.6 mm,厚さ t = 2.4 mm の一般構造用炭素鋼(JIS G3444,STK500)で,杭は φ= 42.7 mm,t = 5.0 mm とした.また,施工マニュアルでは桟(φ= 31.8 mm)をt = 1.4mm としているが,積雪地域ではより強度の高い t = 1.6mm もよく用いられることから,モデル 0 の桟を t = 1.4mm と t = 1.6 mm とした 2 ケースで強度を比較した.なお,現地施工ハウスの奥行は45m であるが,各3 次元モデルは,計算ソフトの仕様から,桁行方向 10 スパン(モデル 1,モデル 2:18 m,モデル 3:20 m)としたが,実際より桁行長が短いため,妻面の拘束効果により,強度がやや高めに算出されることも考慮した.
基礎および脚柱について,施工マニュアルに示したモデルでは,側柱と棟下の中柱(いずれも 3.6 m 間隔)にスパイラル杭(全長 700 mm・鋼管部 400 mm,GT スパイラル)を用い,その他の側柱は φ 48.6 mm 鋼管を地中押し込み(500 mm)で,垂木下の中柱には沈下防止用のベースを取り付ける仕様である.そこで,各モデルの計算において,柱脚の支持条件を地中押し込み式パイプハウス安全構造指針(日本施設園芸協会 1988)および小川ら(1989)を参考に以下のように仮定した.スパイラル杭(700 mm)を施工した箇所については,GL -420 mm で固定端とし(GL:地盤面),鋼管地中押し込み(- 300 mm)に沈下防止板を付加した箇所は GL でピン支持とした.また,クランプ等の部材の各節点の拘束条件はピン接合とした.
2.解析方法
農業用ハウスの構造計算に関して,アーチパイプハウス等の簡易な地中押し込み式のハウスの場合は,安全構造指針(日本施設園芸協会 1988)が参考にされるが,構造計算が行われることは少ない.建設足場資材利用園芸ハウスの構造計算および評価方法についても定まった方法はないため,本解析では,ハウスに掛かる外力を鉄骨ハウスなどの高規格ハウスで用いられる安全構造基準(日本施設園芸協会 2016)に基づいて計算し,構造計算の入力値とした.また,変形制限値等の計算結果の評価については,安全構造基準(日本施設園芸協会 2016)および安全構造指針(日本施設園芸協会 1988)を参考とした.
構造計算にはフレーム構造計算ソフトウェア(CADTOOL フレーム構造解析 12,キャデナス・ウェブ・ツー・キャド)を使用した.固定荷重は,ソフトウェア上で自動計算される構造要素の自重に加えて,クランプ,固定用十字金具の実際の重量をそれぞれ各節点に集中荷重として作用させ,さらに,フィルムおよびフィルム留材その他の荷重(約 9.73 N/ m2)を荷重負担面積に応じて四辺の要素に均等荷重として作用させた.ただし,作物荷重は考慮していない.
風圧力および積雪荷重等の外圧力の設計基準については,以下の通りとした.軟質プラスティックフィルムで被覆する小規模な施設の標準耐用年数および安全度は,それぞれ 10 年と 50%であり,これに対応する最大風速および最大積雪深の再現期間は 15 年である.岩手県の再現期間 15 年の設計用風速は,大船渡と盛岡では 31 m/s,宮古では 35 m/s であるが,広範な地域への展開を想定し,設計用風速として 35 m/s とした.耐風性の評価は,ハウス各面に対向する各風向で行う必要があるが,ここでは,この構造で最大の風圧力が作用するケース,すなわち,軒高が高い方(3 m)の側面を風上側とする横風のみを解析対象とし,ハウス各面に作用する風圧力を荷重負担面積に応じて四辺の要素に均等荷重として与えた.
積雪荷重については,陸前高田市に隣接する気象官署(大船渡)で過去に観測された最深積雪深 32 cm であることから,現地施工したモデル 0 については,それよりやや大きい 35 cm と 40 cm,さらに,岩手県内における再現期間 15 年の設計用積雪深(盛岡,宮古)の 67 cmについて解析した.次に,耐雪補強を追加した構造モデル(モデル1 ~ 3)については,積雪深 67 cm に加え,雪の多い山間部を想定した積雪深 75 cm についても計算を行った.ここで,積雪の単位体積重量は安全構造基準に基づいて求め,算出された積雪荷重が 800 N/m2 を超える場合は 800 N/m2 とした.
構造計算結果の評価については,各構造モデルに固定荷重および外力(風圧力,積雪荷重)が作用する際,クランプ箇所のせん断力に対する許容耐力(直交:4.90 kN,自在:3.43 kN)を超えないことに加え,直交クランプは曲げモーメントに対する耐力が弱く 600 N ・m 以下で破壊が起こることから(朝日機材株式会社 2003),余裕を考慮して 300 N・m を超えないことを確認した.そのうえで,(1)構造要素各部の応力度が材料の許容応力度を超えないこと(応力安全率が1 以上であること),さらに,(2)施設の構造体の構造各部は荷重により使用上有害な変形を生じないこと(変形制限値以内であること)を条件として評価した.なお,変形制限値は,安全構造基準(日本施設園芸協会 2016)に基づき,柱の倒れ≦ h/60(h:柱長),屋根(垂木)のたわみ≦ l/100(l:垂木長)とし,このハウスの場合,前者は 50 mm,後者は 40 mm となる.
1.現地施工モデル(モデル 0)の耐候性
現地施工モデル(モデル 0)の横風および積雪荷重に対する構造計算結果を表 1 に,それぞれの荷重に対する構造体の変位状況を図 3 に示す.横風 35 m/s では,構造体中で許容応力度を超える構造要素はなく,最大曲げ応力の発生部位は,ハウス桁行方向中央部の風上側柱の中間付近で,曲げ応力は 245.7 N/mm2,安全率は 2.454 で,構造体としては十分な強度といえる.一方,変位については,風上側柱( 3 m)の倒れが 54.6 mm となり,変位制限値 50 mm をわずかに超過する結果となった.
ところで,この変形制限について,簡易施設を対象とした安全構造指針(日本施設園芸協会 1988)で示された変形制限値:柱の倒れ≦ h/35(= 85.7 mm)と比較すると安全構造基準(日本施設園芸協会 2016)の変形制限値はかなり厳しい.また,安全構造基準の変形制限は,2016 年の改定時に「値を満たすものとする」から「・・・原則満たすものとする」と変更され,その理由は「許容応力度との検討における安全度と,変形量が制限値を多少超過した場合の施設への影響について工学的判断を可能とするため」とある.本報の解析モデルでは,側柱および中柱(地中押し込み)をピン支持として計算しているため,変形が大きく算出されやすいことと,構造材の最小曲げ応力安全率が 2 以上であることから,前述したわずかな変形制限の超過は許容できると考えられる.
次に,積雪 35 cm では,構造体中で許容応力度に対する安全率が 1 未満の構造要素はなく,設計強度内であることが確認できる.曲げ応力が最大となる箇所は,φ=48.6 mm,t = 2.4 mm 構造材では,ハウス桁行方向中央の屋根の垂木(南面)の中央付近の 147.0 N/mm2,安全率は4.101 で,φ= 31.8 mm,t = 1.4 mm 構造材(桟)では,同じくハウス桁行方向中央部の屋根の垂木(南面)の中央付近で 268.6 N/mm2,安全率2.245 と,いずれもかなり余裕がみられる.変形制限については,同じくハウス桁行方向中央の垂木の中央付近のたわみが 38.7 mm で最大となるが,変形制限の範囲内であった.
積雪荷重に対して構造体中で最も余裕が小さい箇所は,垂木(φ= 48.6 mm,t = 2.4 mm 構造材)よりも桟(φ= 31.8 mm,t = 1.4 mm 構造材)であることから,積雪40cm の条件で桟の肉厚を t = 1.4 mm とt = 1.6 mm で比較した結果を表 2 に示す.積雪 40 cm ではt = 1.4 mm と t = 1.6 mm いずれも許容応力度に対する安全率が 1 以上である.垂木の最大たわみはそれぞれ 44.7 mm,41.7 mmで,いずれも制限値をわずかに超えたが,最小曲げ応力安全率はいずれも2 近く,モデル 0 は積雪の少ない沿岸部で想定される 40 cm 程度の積雪に対しては十分といえそうである.一方,桟の φ= 31.8 mm 鋼管をt = 1.4 mmからt = 1.6 mm にした場合,若干余裕が増す程度であり,強度にはそれほど大きな違いはみられない.
さらに,安全構造基準に基づき,岩手県内の設計用積雪深 67 cm で計算した結果を表 2 に示す.積雪 67 cm では,桟(φ= 31.8 mm)をt = 1.4 mm,t = 1.6 mm としたいずれも構造体中で許容応力度を超える箇所はないが,桟の曲げ応力安全率は,t = 1.4 mm で1.045,t = 1.6mm でも 1.132 と限界に近い.しかも,支柱のない断面の垂木の最大たわみは,t = 1.4 mm で82.7 mm,t = 1.6mm では76.9 mm と,いずれも変形制限を著しく超える.垂木自体の安全率は 1.9 以上であり,直ちに構造破壊に至ることはないと考えられるが,過大なたわみが屋根の落雪性を悪化させるだけでなく,たわみに雪荷重が集中する恐れがある.また,桟の φ= 31.8 mm 鋼管を t = 1.4mm からt = 1.6 mm にしても,大きな補強効果は望めないと考えられ,67 cm 程度の積雪地域では,モデル0は耐雪性が十分とはいえず,垂木のたわみを緩和する構造的な補強が必要と判断される.
2.補強モデル(中柱なし)の耐候性
前項の垂木に生じるたわみを解消するため,中柱を追加しない補強モデルとしてモデル 1 と 2 を想定し,これらに横風および積雪荷重が作用する場合の安全率と変形量を表 3 に,積雪荷重が作用する場合の変位状況を図 4にそれぞれ示す.
横風 35 m/s では,構造体中で最も曲げ応力の大きい箇所の安全率は,モデル 0 の 2.454 から,モデル 1 では 3.167,モデル 2 では 3.267 と無補強に比べ約 3 割高くなる.また,風上側の柱の倒れは,モデル 1 で 42.7 mm,モデル 2 では 41.7 mm と変形制限値に収まり,横風に対する補強効果も確認できる.ただし,モデル 1 と 2 で安全率が大きく違わないため,両モデルに共通した梁と方づえが耐風性に寄与したと推察される.
次に,積雪 75 cm の結果では,構造体中で許容応力度に対する安全率が 1 未満となる箇所はなく,曲げ応力が最大となる箇所は,φ= 48.6 mm,t = 2.4 mm 構造部では,ハウス桁行方向に全長の 1/5 の垂木中間付近で,この箇所の曲げ応力安全率はモデル 1 では 2.195,モデル 2 では 2.272 である.一方,桟(φ= 31.8 部材)の曲げ応力安全率も,モデル 1 では 1.934,モデル 2 では 2.129 となり,モデル 0 における積雪 67 cm の 1.045 と比較しても余裕が約 2 倍となった.モデル 1 と 2 で,最小曲げ応力安全率に大きな違いはないが,垂木の最大たわみは,モデル 1 の 41.5 mm から,モデル 2 では 32.6 mm まで大きく改善され,モデル 2 で屋根の変形を抑える効果が高いことがわかる.
ところで,モデル 1,2 の C 断面または D 断面において,屋根の垂木を支える束の下端は,梁あるいは前後の A 断面を結ぶ桁と接続される.しかし,この束の下端に作用する曲げモーメントは 500 N ・m を超え,直交クランプを用いると破壊を生じる恐れがあるため,耐力の高い直交部材に変更する必要がある.
したがって,モデル 1 と 2 では,屋根面に積雪荷重の偏りが生じにくくなるものの,無柱断面の屋根荷重を前後の中柱に分担させる構造で部分的に大きな負荷が予想されるため,75 cm 程度の積雪に対しては,基本的には中柱で支持する耐雪補強が望ましいと考えられる.
3.補強モデル(中柱あり)の耐候性
前項の中柱を追加しない補強方法では,曲げモーメントが部材の耐力を超過する恐れや,図 4 の変位状況にもみられるように,無柱の長大梁に大きなたわみが生じる.そこで,側柱間隔(スパン)を 2.0 m に拡大し,中柱を設けた補強構造(モデル3)に横風および積雪荷重が作用する際の安全率および変形量を表 3 に,積雪による変位状況を図 5 に示す.
横風 35 m/s では,構造体中で曲げ応力度が最大となる箇所の曲げ応力安全率は 3.232 でモデル 2 よりわずかに小さいが,風上側の柱の倒れは 38.9 mm で解析モデル中で最小となることから,風圧力に対する補強効果も高い.
積雪 75 cm では,最大曲げ応力の発生箇所はハウス桁行方向中央の垂木の中間付近で,その安全率は 2.350 と,検討したモデル中で最も余裕が大きくなった.また,図 5 の変位でも確認できるように,梁や垂木のたわみも小さくなり,垂木では 23.6 mm に抑えられた.ただし,中柱には大きな垂直荷重が作用するため,沈下防止板等を追加することが望ましい.
また,モデル 1 と 2 では,桟に最小曲げ応力安全率が現れ,弱点となっていたが,モデル 3 では,側柱間隔(スパン)が 1.8 m から 2.0 m に拡大され,桟の単位長さ当りの負荷が増加するにもかかわらず,安全率はモデル 2 の 2.129 から 3.075 に 4 割以上向上した.これは,雪荷重が主に φ= 48.6 mm,t = 2.4 mm 構造部で負担されることで,構造体の変形が小さくなり,結果的に桟の負荷が軽減されたためと考えられる.
このように,モデル 3 の構造は,中柱があることで,特定の直交部に過大な曲げモーメントが作用する恐れがなく,従来構造の弱点であった細材部の安全率を向上させることから,積雪地で望ましい補強方法といえる.
4.建設足場資材利用園芸ハウスの耐候性と耐雪補強方法のまとめ
設定した補強構造の中では,モデル 3 が最も構造安全性に余裕があり,次いでモデル 2,1 の順であるが,補強構造に要する資材コストは,モデル 3 が最も大きい.
一般に,簡易な園芸ハウスではコストを抑える必要があり,耐候性とコストのバランスを判断することは非常に難しいが,建設地に合った構造や補強を経済的に選択する資料として,施工マニュアルのモデルおよび各補強方法をまとめると下記のとおりである.
1) 施工マニュアルに示したモデル 0(補強なし)の耐風性は 35 m/s であり,岩手県沿岸部の少雪地域から設計積雪深 40 cm までの地域では補強の必要はないと考えられる.
2) 岩手県内陸部など,設計積雪深 75 cmまでの地域では,補強モデル 1,2 が経済的であるが,特定の直交部に過大な曲げモーメントが作用するため,接合部材の選択や扱い注意が必要である.
3) 設計積雪深 75 cm を超える多雪地域では,補強モデル 3(中柱を伴う補強)を選択するのが望ましい.
ただし,上記は地上構造物の構造計算に基づく考察であり,基礎の耐力は,良好な地盤状況を仮定して計算したものである.実際の大雪によるハウスの被災状況では,基礎接合部の破壊や,本モデルのように基礎部に床版がない杭基礎で 20 ~ 30 cm の沈下が生じた報告例もあり(森山ら 2014),建設地の地盤状況や,これを悪化させる恐れのある融雪水の排水に留意する必要がある.また,この計算例では桁行長が短いため,妻面の拘束効果により,強度がやや高めに算出されていることも考慮する必要がある.
本研究は,農林水産省 食料生産地域再生のための先端技術展開事業「中山間地域における施設園芸技術の実証研究」の一部として行われた.
開示すべき利益相反はない.