農研機構研究報告
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原著論文
北海道道南地域の農業構造と大規模水田作複合経営の存立条件
細山 隆夫 杉戸 智子
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2023 年 2023 巻 15 号 p. 61-69

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Abstract

近年の北海道では稲プラス露地野菜の大規模水田作複合経営の形成が課題とされている.そのなか,同複合経営が展開する道南地域が注目された.そこで,本稿は道南地域の農業構造を把握するとともに,大規模水田作複合経営の存立条件を明らかにした. その検討結果は次のように整理される.第1に道南地域では(1)借地流動化が進み,経営規模も拡大するとともに,(2)野菜作のウェイトが高い実態にあった.(3)稲作と野菜作との複合経営展開という点から見ると,胆振が代表的地域となっていた.第2に胆振管内X町の大規模水田作複合経営の存立条件としては,雇用型法人経営のもと,(1)露地野菜作遂行に常雇を複数確保していたこと,(2)水稲,露地野菜の作物ごとに大面積農地の団地が形成されていたことがある.

課題

近年の我が国水田農業では米価低迷による経営不安定化の解決のため,(1)稲プラス露地野菜の経営複合化,(2)それに伴う雇用労働力の確保と就業期間拡大,(3)これらを実現する法人化,(4)すなわち大規模水田作複合法人経営の形成が課題とされてきている(注1).

これに対応し,農研機構第4期中期計画の北農研水田農業研究としても,中課題 10101「寒地大規模高能率水田営農システムの実現に向けた技術体系の確立」が設定された.(1)従来,水田農業研究は水田中核地域の上川,空知(注2)の稲・施設野菜作や稲・麦・大豆が対象であった(注3).(2)だが,継続的な離農頻発下,複合部門が労働集約的な施設野菜作では離農跡地のスム-スな集積も困難である.他方,それが麦・大豆作だけでは高収益の実現も難しい.(3)そのため,中課題 10101 では土地利用型の露地野菜作を導入した大規模水田作複合経営の形成により,農地集積の円滑化,経営の安定化を図ることが狙いとされたのである.

こうした研究課題は第5期中期計画の北農研中課題 20403「露地野菜の省力機械化技術による複合経営の収益向上」にも受け継がれている.そのなかにおいても,稲作に露地野菜作を加えた大規模水田作複合経営の形成,あわせて法人化には経営規模の拡大も求められる.同時に,露地野菜作は土地利用型作物といえども,なお労働集約的作物であることから,雇用労働力の十分な確保が必要となっている.ことに,同中課題では露地野菜作のスマート農業プロジェクト研究が進行中であり,そこでは将来のモデルケースとして大規模経営が対象とされている.

そして,同研究の対象地域として注目されるのが道南地域の後志,胆振,渡島,檜山である(注4).これまで道南地域は中小規模経営が支配的という点から,水田農業の非中核地域として性格規定されてきた経過がある.反面,早くから野菜作が導入されたなか,稲作と野菜作との複合経営も活発に展開してきた(注5).それゆえ,現在の同地域における複合経営の実態が問われると言える(注6).

だが,北農研・農業経営研究分野では道南地域農業に関する研究蓄積が乏しく,直近の研究でも実に 1980 年代~90 年代にまで遡る(注7).したがって,研究の取りかかりとして,まずは最近における道南地域農業の特徴を把握していくことが求められる.次いで,大規模水田作複合経営の性格を探るため,典型的な同複合経営を発掘し,その存立状況を追究することが要請される.特に,大規模な複合経営の追究という点を踏まえれば,労働力の充実度合いに加え,農地の団地化度合いの検討も必要となる.

以上を踏まえ,本稿の目的は道南地域の農業構造を把握するとともに,大規模水田作複合経営の存立条件を明らかにすることである.対象は道南地域農業,および胆振管内X町における大規模水田作複合経営である.方法は農業センサス分析と,同経営の実態調査である.構成として,(1)道南地域における農業構造の特徴,胆振管内X町の農業概要を検討する.(2)X町にて対象とした大規模水田作複合経営の経営的特性を考察した後,(3)同経営における労働力構成を吟味するとともに,(4)農地の配置・団地化状況を検討する.

注1:農林水産省「食料・農業・農村基本計画」2015 年第4次策定,2020 年第5次策定による.

注2:上川,空知について,総合振興局の表示は略しており,以下も同様とする.

注3:最近では小松(2012),細山(20192020)の論考が代表的である.

注4:先の上川,空知と同じく総合振興局の表示は略しており,以下も同様とする.

あわせて,道南地域の範囲として,渡島,檜山が代表的ではあるが,ここで後志,胆振も提示したのは次の理由による.1つに社会・生活上では渡島,檜山に加え,後志,胆振を含めることもよく見られることである.2つに後に見る盛田,田中(1996)は後志・蘭越町を道南地域として位置づけ,分析していることである(北海道農政事務所でも後志を道南地域に組み入れ).3つに坂下(1993)は胆振を「道南型」(pp.1)と位置づけ,これを引き継いだ正木(2020)もまた胆振を「道南」(pp.130)に位置づけていることである.

注5:太田原,七戸(1986)が先駆であり,参照されたい.

注6:北海道の農業経済研究分野としても,最近における道南地域の農業に関する論考は乏しく,わずかに正木(2020)正木ら(2013)が見られるのみである.しかも,これらの論考にしても農業経営体の農地集積,大規模化の動きは分析されているものの,稲作と野菜作との複合化の効果を示したものではない.

注7:北海道農業研究センター農業経営研究分野における道南地域の農業に関する論考も,それは近くても 1980 年代~90 年代の(1)井上(1984)による胆振管内厚真町の分析,(2)盛田ら(1996)の後志管内赤井川村の分析,(3)盛田,田中(1996)による後志管内・蘭越町の分析,と 30~40 年も前まで遡る.

しかも,これら論考の内容にしても,(1)井上(1984)は農地賃貸借による規模拡大の動き,(2)盛田ら(1996)はリゾート導入と農業振興との関連,等を追究したものであり,かついずれの論考も経営複合化の問題は検討の外に置かれていた.一方,(3)盛田,田中(1996)は稲作農業の再編を中心に据えつつ,農業複合化の動きも追究していたが,複合作物とされたのは果物のメロンであった.

道南地域の農業構造と胆振地域X町の農業概要

1.水田中核地域,道南地域における農業の特徴

表1は水田中核地域の空知,上川と,水田非中核地域である道南地域の後志,胆振,渡島,檜山における農業構造,経営複合化に関する指標を見ている.

第1に水田中核地域と道南地域との間には次のような農業構造の違いがある.

まず,水田率に違いがあり,それは水田中核地域に比べて,非中核地域たる道南地域ではいずれも低位である.具体的に,水田率として(1)水田中核地域では空知が 72.4 %と高いが,上川は 44.8 %と5割を割り込んでやや低まってはいる.(2)一方,道南地域では檜山の 43.1%が最高値を示すに留まり,後志,胆振,渡島になると全て 20 %超の水準に過ぎない実態にある.

次いで,農地流動化形態に違いがある.(1)売買移動率では水田中核地域の空知,上川が高位―ことに空知が高い―であるが(注8),道南地域は檜山を除いて低位な様相を呈す.(2)だが,借地展開では道南地域の方が活発である.すなわち,借地率は水田中核地域の空知 19 %,上川 24.6 %を道南地域の後志~檜山が 27.4%~37.9 %と凌駕する.なかでも,胆振,渡島の借地率は高く,地域農地の3分の1強が借地で流動化している状況にある.あわせて,水田借地率も全体的に道南地域の方が高く,とりわけ胆振の高さが目立つ.

さらに,経営面積規模に違いはあるが,その差はさほど大きくない.農業経営体1体当たり経営規模として,水田中核地域における空知の 17 ha 台,上川の 20 ha に対し,道南地域では後志,渡島が 12~13 ha 台に留まるが,胆振,檜山は 16 ha 台にある.ただし,田のある農業経営体1体当たり田面積では様相が異なる.同田面積は水田中核地域では空知 15 ha 規模,上川 12 ha 規模にあるが,道南地域では全て 10 ha 規模に届かない.道南地域では先述の水田率の低さと連動して,農業経営体1体当たり水田規模自体は大きくないのである.反面,これは当然のごとく畑地(野菜作等の作目・作物)のウェイトの高さを示す.

第2に経営複合化の動きを農産物販売金額1位の部門別割合―直接的な複合化の指標ではないが―で見ると,道南地域ではやはり複合化が進んでいることがわかる.具体的に,水田中核地域の空知では露地野菜 9.5%,施設野菜7%にすぎない-上川は野菜作地域であって高いが-状況にある.だが,道南地域を見ると後志,胆振,渡島では露地野菜,施設野菜ともに二桁台を占めて高い.特に渡島では両作目ともにウェイトが 20%を超えて高位である.ただし,道南地域においても地域性があり,檜山では露地野菜,施設野菜ともに低位となっている.

このようななか,道南地域における経営大規模化-スマート農業プロジェクト研究としても大規模経営が対象-と複合化とを照合させると,大規模水田作複合経営が典型的に展開するのは胆振であることがわかる.

注8:周知のように,水田中核地域の空知では過去から農地購入による規模拡大が盛んであり,それによって大規模化が実現されてきた.これらについて,最近では細山(20192020)を参照されたい.

2.胆振管内X町における農業の特徴と(株)A経営

道南・胆振管内に位置するX町は苫小牧市(人口 16 万)に隣接しつつも,農村地域であってかつ複合農業地域である.

X町の農業は 2020 年農業センサスで見ると,農業経営体 323 体,経営耕地面積 5,474 ha から構成され,経営耕地のうち水田が 2,985 ha,畑地が 2,474 ha 等となっている.道南地域としては水田率が 54.5%と高く,借地率も 44.2%と高位であって農地流動化が顕著に進行してきている.その意味で水田作経営とその大規模化の内情を探るうえで適している.

町の作物は水稲 1,475 ha を中心に,小麦 195 ha,ばれいしょ 4 ha,雑穀 71 ha 等とあるが,露地主体の野菜作が 1,055 haと大面積である.換言すると,同野菜作は町耕地に対して 20%近い面積シェアを占めており,その比重が高いことがわかる.あわせて,この露地野菜作の内実はブロッコリー,カボチャ,キャベツ等であるが,なかでもブロッコリーが 410 ha(同面積は道内1位)と突出した存在である.

表2はX町における農業経営体の階層構成を見ている.(1)農業経営体数のモードは 10~15 ha 層にある.一方,大規模な 50 ha 以上諸階層の展開も見られるが,その内実は畑作経営,酪農・畜産経営が主体となっている.(2)面積シェアのモードは先の農業経営体数モードよりも3ランク上位の 30~50 ha 層にあって,それだけより大規模な階層へ農地が集中していることが示される.同時に,実際の大規模水田作経営自体も同 30~50 ha 層に展開する状況にある.したがって,大規模稲作プラス野菜作といった大規模水田作複合経営の追究としても,この階層規模がターゲットとなる.

こうしたなか,注目されるのがH地区所在の(株)A経営である.この(株)A経営は 30 ha 台半ばの規模であって 30~50 ha 層に位置し,かつ稲作プラス露地野菜作という作目構成にある.その意味から,町の大規模水田作複合経営の代表的存在となっている.

(株)A経営の農業経営の特性

表3 はX町・(株)A経営の経営的特性を示す. H地区内所在の(株)A経営は近隣地域内の離農頻発 に乗じて農地の購入・借入を行い,規模拡大を図ってきた経営体である. このようななか,第 1 に同経営の企業形態は株式会社であり,かつ雇用型経営―つまり雇用型法人経営―であ る.同時に,現在の経営耕地面積規模は 3,411 a となっている.あわせて,大規模水田作複合経営であり-詳しくは後述するが-,15 ha の稲作に加えて,作付延べ面積 20 ha 超の露地野菜作が定着している. 第 2 に労働力構成は充実の状況にある.具体的に,法 人構成員の家族員 5 人に加え,常雇 4 人,臨時雇 1 人,そして派遣労働者も多数を確保する.ここで,常雇が 4 人数えることが注目される.すなわち,大面積の露地野菜作遂行のうえで,恒常的な労働力が複数求められたの である.加えて,こうした点が農業経営の法人化を促した経過にある. 第 3 に経営耕地面積の構成として,水田 2,141 a,畑地 1,270 a であり,かつそれぞれに借地も抱えている(借地率は 44%と町平均レベル).そのなか,圃場枚数は 44 枚に留まり,うち水田が 36 枚,畑地が 8 枚である.し たがって,経営規模に比して圃場枚数は少なく,圃場 1 枚当たり面積も大きい.これが後に見る効率的な作業遂 行にも繋がっている. 第4 に作物構成としては水稲が 1,506 a,ブロッコリー が 790 a の二期作(延べ面積 1,580 a)であり,かつカボ チャも 977 a 作付けられている.すなわち,大規模水田作複合経営であり,かつ稲作を上回る露地野菜作の作付 面積規模にある.また,施設野菜も導入されたなか,農産加工に取り組んできている. 第 5 に農産物の販売額では露地野菜作のウェイトが高 い.まず,農産物のJA外販売が盛んであり,いずれも販売単価が高い条件下で米は 80%を独自販売し,カボチャも 50%を独自販売している.こうしたなか,販売額は水稲 2,485 万円に対し,ブロッコリー 2,440 万円, カボチャ 1,432 万円であり,水稲よりも露地野菜作合計の方が多い.このように,露地野菜作は経営の安定化に 貢献している.また,10 a 当たり販売額を見ても,水稲 の 16 万円台に対して,カボチャも 14 万円台にあるが, ブロッコリーになると 30 万円超と高い水準にある.こ うして,特にブロッコリーが主力作物として位置づく実 態にある.

(株)A経営における労働力構成

表4は(株)A経営における具体的な法人構成員労働力,および雇用労働力=常雇,臨時雇,派遣の内実を示したものである.

法人構成員労働力:法人構成員は3世代にわたる家族員5名=世帯主夫婦+両親+男子後継者である.このなかでも,代表取締役である世帯主は稲作のオペレータであり,かつブロッコリー,カボチャの一般作業や収穫作業も担う状況にある.また,母は冬期を中心とした農産加工(味噌,漬物,塩麹等)を担当してきている.

雇用労働力:(1)常雇4人の内訳は男子3人,女子1人であり,中には若い新規参入者(男 24 歳)も定着している(注9).そうしたなか,同常雇は専らブロッコリー,カボチャの担当であり,ことに収穫作業に集中的に投入されている.(2)臨時雇は女子1人が存在し,同じくブロッコリー,カボチャが主な担当である.(3)派遣労働力には「派遣A」「派遣B」の2集団があり,専門的に前者集団はブロッコリー収穫作業,後者集団はカボチャ収穫作業に従事する(注10).(4)このようにブロッコリー,カボチャの収穫作業は多数の雇用労働力の存在によって支えられている.

そして,ブロッコリー作,カボチャ作の遂行に要する労働時間を見ると,常雇,臨時雇の占める比重が大きく,ことに常雇が際立つ実態にある(表5).

ブロッコリーは二期作のため,特に多くの労働時間を要している.具体的に定植時期の4月,収穫時期の6~7月,9~10 月期間は農繁期であるが,ことに6月,7月,9月の実労働時間は各々 1,000 時間前後に至っている.同時に,そこでの労働時間は法人構成員より雇用労働力合計の方が圧倒的に多いが,なかでも常雇が際だっている.それを 10 a 当たり投下労働時間で見ると,全 32.3 時間のうち常雇が 21.8 時間と突出しており,実に 66%を占める.こうして,常雇への依存が強い状態にある.

カボチャはブロッコリーに比較して,労働時間は相対的に多くない.そのなかだが,定植時期の5月,収穫時期の8月(同月の実労働時間は 1,000 時間)を中心としながら,やはり労働時間は雇用労働力,とりわけ常雇の占めるウェイトが大きい.ここで 10 a 当たりの投下労働時間は 17.7 時間であるが,うち常雇が 10.6 時間と多く,60%を占めている.こうして,カボチャ作の遂行でも常雇依存が強い点に変わりない.

このように,(株)A経営における露地野菜作の遂行には常雇が重要な役割を担っている.

注9:一般に常雇に関しては冬季間の仕事の確保が課題となる.だが,(株)A経営では施設野菜も導入されており,冬季における常雇は同部門に携わってきている.

あわせて,常雇,臨時雇は必ずしもX町内,近隣町村からで全て確保されているわけではない.まず,常雇の No.①,No.②は道外出身者であり,いずれも道内での新規就農・参入を希望していたという経緯があった.そのなか,(株)A経営とのマッチングが成功し,同経営に常雇として定着したものである.これらの住宅状況として,常雇No.①はX町内のアパート居住であり,常雇 No.②はX町内に家を建てて居住している.一方,常雇 No.③,No.④は町内出身者である.前者は人材派遣会社から(株)A経営に来ていた経過があり,その後に定着したものである.そして,後者は元漁師の妻である.

注 10:X町は前述のように苫小牧市(人口 16 万)に隣接する.そのもと,(株)A経営はブロッコリーの収穫作業を担う「派遣A」集団を同市内の人材派遣A社から調達している.同じく,カボチャの収穫作業担う「派遣B」集団も同市内の人材派遣B社から調達する状況にある.

(株)A経営における農地の配置状況

(株)A経営の経営耕地 3,411 a は全て同経営所在のH 地区内でまとまっている(注 11). その経営耕地は一つの水田圃場団地群と,もう一つの 畑地圃場団地群との 2 つに分かれていることが特徴であり,前者の水田圃場は 5 団地 2,141 a,後者の畑地圃場は 4 団地 1,270 a となっている.しかも,水田圃場団地群と 畑地圃場団地群との間の距離も 1.9 km に過ぎず,かつ 双方の団地ともに圃場は集約されている.加えて,あら かじめ言うと,水田圃場団地群には水稲全面積(1,506 a) とカボチャ(547 a)の作付けにあり,畑地圃場団地群に はブロッコリー全面積(790 a)とカボチャ(430 a)の作付けにある. 最初に,水田圃場の 5 団地 2,141 a における作付―水稲, カボチャ―の実態である(表 6). この 5 団地は自宅からの距離0.2km ~遠い団地でも 1.5 km の範囲にある.そこでの圃場枚数は 36 枚に留ま り,かつ 50 a 区画以上の大区画圃場が目立つ.また,団 地ごとに自作地,借地の混在も見られるが,いずれも圃 場連坦化の状態である.そして,(1)水稲全面積 1,506 a から言うと,H 1 団地,H 3 団地,H 4 団地の 3 団地が 全て稲作であり,稲作圃場の団地化が実現されている. (2)カボチャ 547 a はH 2 団地,H 5 団地の 2 団地に集中している.ことに,H 5 団地は 2 枚の 2 ha 区画圃場 を含め,圃場 5 枚で 5 ha の団地となっている.こうし て水稲,カボチャの作物ごとに大規模団地が形成されている. したがって,水稲,カボチャともに効率的な農作業遂 行が可能である.とりわけ,カボチャについて言うと,大規模な団地形成のもとで作業の連続性が確保されてい る.同時に,その条件下で常雇等の投入による収穫作業 が実施できていたのである. 次いで,畑地圃場の 4 団地 1,270 a における作付-ブ ロッコリー,カボチャ-の実態である(表 7). この 4 団地は自宅からの距離 1.8 km ~ 1.9 km の範囲 内にまとまって立地している.ここでは全体の圃場枚数 はわずか 8 枚に留まるうえ,大区画圃場が支配的であって,4 団地と集約されている.前述の水田圃場団地よりも区画が大きく,より圃場も集約された状態にある.特 にH 9 団地では 4.5 ha 区画という大区画圃場も見られる なか,同団地の面積 1,010 a は完全に連坦化されている. 実に,10 ha 超の農地が 1 つの団地として存在しているのである.そして,これらの大区画圃場群においてブロッコリー,カボチャ等が作付けられる現況にある. 具体的に,(1)ブロッコリーの全面積 790 a がH 9 団 地内のわずか圃場 3 枚に集中している.(2)カボチャもH 7 団地,H 8 団地,H 9 団地内の圃場 4 枚で 430 a 作 付けられている.(3)こうした連坦化した大区画圃場群が露地野菜作の効率的な作業遂行に繋がっている.とり わけ,ブロッコリーは圃場区画規模が大きく,常雇によ る収穫作業が円滑に行われている状況にある.

注 11:(株)A経営の経営耕地 34 ha が水田,畑地ともにH地 区内にまとまり,かつ連担化,団地化の状態にあるこ とには次の点が作用していた.まず,そもそもH地区内において水田は平地に立地し,畑地は高台に立地し た開拓地であって各農家に団地的農地が配分されたという経緯がある.そのなか,同経営は 1 つに地域で水 田作経営の離農が進みながらも,地区外の供給農地は獲得に動かず,近隣での供給農地を集積してきたこと がある.2つに畑地では団地的農地の条件下,離農跡地=供給農地も団地的に集積しえてきたことがある.

結語

以上の検討結果は次のように整理される.

第1に道南地域では規模拡大とともに,経営複合化が進んでいた.(1)まず,地域の水田率は水田中核地域=空知・上川に比して,非中核地域の道南地域=後志,胆振,渡島,檜山では低い状況にあった.次いで,農地流動化形態として,売買移動率では水田中核地域に比べ,道南地域は低めとなっていた.だが,借地率では水田中核地域を道南地域が凌駕する状況にあった.(2)そうしたもとながらも,道南地域の農業経営体1体当たり水田規模は依然として中小規模のレベルにある.(3)反面,道南地域では露地野菜,施設野菜のウェイトが高い実態にあった.

第2に道南地域・胆振管内X町における大規模水田作複合経営の存立条件は以下のようにあった.(1)株式会社形態のもと,大規模稲作と大規模露地野菜作との複合経営であって,かつ露地野菜作の販売額が水稲を凌駕している.そして,これらが経営の安定化に寄与している.(2)雇用型経営であり,露地野菜作遂行のうえで多くの雇用労働力を確保しているが,特に常雇への依存が強い状態にあった.(3)水稲,露地野菜の作物ごとに農地の団地化が実現されたもと,効率的な農作業遂行も可能である.(4)こうした諸点が大規模水田作複合経営の存立条件となっていた.

あわせて,このX町の大規模水田作複合経営の分析結果からは次の点が示唆される.すなわち,株式会社形態,大量の雇用労働力の調達,農地の団地化の実現,さらに生産物の独自販売実施という面から見ると,企業的経営として完成域にあると言える.そうした点から,同経営体は雇用型大規模水田作複合法人経営のモデルとして性格規定される.

最後に,今後の課題としては,こうした大規模水田作複合経営の実態分析結果を蓄積していくことが要請される.つまり,ここで検討した胆振管内X町における雇用型大規模水田作複合法人経営だけでなく,後志,渡島,檜山における大規模水田作複合経営の動きの追究・分析である.そして,同分析結果の蓄積が深まることにより,将来的に大規模水田作複合経営の普遍的な形成条件,および発展条件が示されていくと思われるのである.

謝辞

本研究は農林水産省委託プロジェクト「スマート農業加速化実証プロジェクト」『【露2A01】カボチャのスマート栽培・収穫の実証』(R2~R3年)によって得られた研究成果の一部である.

利益相反の有無

すべての著者は開示すべき利益相反はない.

引用文献
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