農研機構研究報告
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原著論文
リンゴ新品種‘紅みのり’
阿部 和幸副島 淳一別所 英男森谷 茂樹岩波 宏古藤田 信博増田 哲男小森 貞男岡田 和馬伊藤 祐司土屋 七郎高橋 佐栄加藤 秀憲土師 岳石黒 亮清水 拓樫村 芳記
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2023 年 2023 巻 16 号 p. 15-28

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Abstract

‘紅みのり’は 1981 年に‘つがる’に‘ガラ’を交雑して得た実生から選抜した,早生で果皮が濃赤色のリンゴ品種である.2009 年からリンゴ盛岡 67 号の系統名でリンゴ第 6 回系統適応性検定試験に供試し,2017 年 2 月の平成 28 年度果樹系統適応性検定試験成績検討会(寒冷地果樹)で新品種候補にふさわしいとの合意が得られ,2019 年 4 月に登録番号第 27427 号として種苗法に基づき品種登録された.‘紅みのり’の樹勢は中程度, S 遺伝子型は S3S5 であり,‘ふじ’,‘つがる’等の主要経済品種とは交雑和合性を示す.斑点落葉病に対して抵抗性であり,黒星病には罹病性である.系統適応性検定試験の結果,短果枝の着生性は中ないし多で,満開日は ‘つがる’と同時期である.果実の収穫盛期は‘つがる’より 6 日程度早い早生品種である.果皮は濃赤色,果実重は 270 g で,‘つがる’より 24 g 程度小さい.果肉硬度は 16.4 ポンドであり,‘つがる’より有意に高い.糖度は 13.4%程度,酸度は‘つがる’より高い 0.33 g/100 ml 程度である.栽培地域,年次によって裂果の発生が認められる.気温が高いリンゴ産地においても‘つがる’と比較して安定して良好な着色が得られ,果肉が軟化しにくいため,‘つがる’において着色不良が発生しやすいリンゴ産地での普及が見込まれる.

Translated Abstract

‘Beniminori’ is an early maturing red dessert apple (Malus pumila Mill.), resulted from a cross of ‘Tsugaru’ and ‘Gala’ made in 1981. The original tree of ‘Beniminori’ was initially selected in 1993 in Morioka Research Station, and was tested as selection Ringo Morioka-67 under the sixth apple selection national trial initiated in 2009. It was released as ‘Beniminori’ in 2018, then registered as No. 27427 under The Plant Variety and Seedling Act of Japan in 2019. The tree vigor is medium. Its flowering time is same as ‘Tsugaru’. ‘Beniminori’ is cross-compatible with major commercial cultivars such as ‘Fuji’ and ‘Tsugaru’, since the S-genotype is S3S5. ‘Beniminori’ is resistant to Alternaria blotch and is susceptible to scab. The fruit of ‘Beniminori’ ripens in late August to early September in Morioka. Mean fruit weight is 263 g (30 g smaller than ‘Tsugaru’) in the national trial. The fruit has a dark red surface color at harvest time, and the flesh firmness is 16.4lbs (significantly firmer than that of ‘Tsugaru’), soluble solids concentration averages around 13.4% (similar to that of ‘Tsugaru’). Titratable acidity averages 0.33 g/100 ml (significantly higher than that of ‘Tsugaru’). Fruit cracking in ‘Beniminori’ occurs depending on years and locations. Fruit skin shows good coloration, and fruit flesh keeps good condition compared with ‘Tsugaru’ even in warm region of southwest districts in Japan. Therefore, ‘Beniminori’ is expected to be a suitable cultivar for adapting to warmer climate.

緒言

我が国における組織的・計画的なリンゴ育種は昭和時代初期に開始され,農林省園芸試験場東北支場(現・農業・食品産業技術総合研究機構果樹茶業研究部門盛岡研究拠点.以下,機構名は農研機構と略す)で‘ふじ’,青森県では‘つがる’,‘陸奥’,‘世界一’などの品種が育成された.昭和 40 年代に‘紅玉’‘国光’の栽培が急激に減少するにつれ,国内での‘つがる’や‘ふじ’などの育成品種の栽培面積が拡大し,早生では‘つがる’,晩生では‘ふじ’や‘王林’が主要な経済栽培品種として定着した(山田 1986副島 1997).現在我が国のリンゴ栽培面積は 35,800 ha であるが(農林水産省 2022),国内で育成された‘ふじ’が占める割合は 51%に達し,‘つがる’では 12%となっている.このように,リンゴの品種構成が国内育成品種を中心とする構成に大きく変わり,その後も優良品種育成の取組が継続して行われ,早生品種では‘さんさ’ (吉田ら 1988),‘きおう’ (伊藤ら 1994),‘おぜの紅’ (堀込ら 2010)などが育成されている.

リンゴの果皮色は品種によって異なり,赤色(‘つがる’,‘ジョナゴールド’,‘ふじ’等)あるいは黄緑色(‘きおう’,‘王林’等)の果皮色を持つ品種が経済栽培されている.このうち,赤色のリンゴ品種では,着色の良否が市場における価格を左右する一因となっており,均一で良好な着色を示す果実は高値で取引される一方,着色不良果は相対的に価格が低い.リンゴの着色を決めるのはアントシアニンである.着色の良否は品種固有のアントシアニン合成に関する遺伝的要因と環境要因とが合わさって発現し(Honda and Moriya 2018),アントシアニンの果皮への蓄積が不足することによって着色不良が引き起こされる.リンゴの着色不良には気候や栽培管理などの環境要因が強く影響する.環境要因のうち,気候的な要因としては高温(Creasy 1968苫名,山田 1988)があげられ,栽培管理上の要因としては窒素含量過多や枝葉の過繁茂による光環境の条件悪化(斉藤,鈴木 1984)があげられる.近年の気候温暖化による高温は,リンゴの着色不良や遅延に特に大きな影響を与えており(杉浦ら 2007),気温が高い時期に果実が成熟する早生の赤色品種では,果実品質低下につながる着色不良の発生頻度が高まっている.今後リンゴ栽培に有利な温度帯は北上を続け,現在の主力産地の多くが,暖地リンゴの産地と同等の気温となると予想され(杉浦,横沢 2004),‘つがる’等の早生の赤色品種において,今後さらに品質良好な果実生産に不利な気候となることが示唆されている.

このような状況のもと,品種育成においては着色が安定して良好な早生の赤色品種の育成が喫緊の課題である.一方,消費者からは着色の良さに限らず,食味や日持ちの良さに対する要望が強いため,これらの特性を兼ね備えたリンゴ新品種が求められている.そこで,農研機構果樹茶業研究部門では‘つがる’より着色性が優れ,高温下でも品質劣化しにくい早生品種の育成を進めてきた.このたび,温暖なリンゴ栽培地域でも着色しやすいだけでなく,果肉が軟化しにくい良食味の早生品種‘紅みのり’を育成したので,その育成経過と特性の概要を報告する.

育成経過

‘紅みのり’は,1981 年に農林水産省果樹試験場盛岡支場(現 農研機構果樹茶業研究部門盛岡研究拠点)において,着色しやすく食味の良い早生リンゴの育成を目的として,‘つがる’に‘ガラ’を交雑して得られた実生の中から選抜された二倍体品種である(Fig. 1).種子親の‘つがる’は,早生としては果実肥大が良好で,甘い食味の赤色リンゴ品種である.花粉親の‘ガラ’は,多汁で食感が良い早生~中生の赤色リンゴ品種である.

交雑は 1981 年に行い,1982 年に播種して実生苗を養成し,1983 年 4 月に個体番号 4-2495 を付けて列間 1 m,樹間 1 m の 2 列植え,2 列毎に列間隔 4 m とする栽植距離で選抜圃場に定植した.1988 年に初結実し,食味の良い赤色個体であることから注目して調査を継続し,1993 年に一次選抜した.2009 年からリンゴ盛岡 67 号の系統名を付けてリンゴ第 6 回系統適応性検定試験に供試し,13 道県 16 カ所の公立試験研究機関,農研機構北海道農業研究センターと果樹研究所(現 果樹茶業研究部門)において特性を検討した.その結果,平成 28 年度果樹系統適応性検定試験成績検討会(寒冷地果樹)において新品種候補として適当であるとの結論が得られ,2017 年 2 月の果樹試験研究推進会議において新品種候補として品種登録出願することが決定され,2019 年 4 月に,種苗法に基づき登録番号第 27427 号,‘紅みのり’として品種登録された.

当研究部門以外の系統適応性検定試験の参画場所と,当研究部門の育成担当者および担当期間は以下のとおりである.

系統適応性検定試験実施機関(機関名は系統適応性検定試験開始時の名称):地方独立行政法人北海道立総合研究機構中央農業試験場,地方独立行政法人青森県産業技術センターりんご研究所,岩手県農業研究センター,宮城県農業・園芸総合研究所,秋田県農林水産技術センター果樹試験場,秋田県農林水産技術センター果樹試験場鹿角分場,山形県農業総合研究センター園芸試験場,福島県農業総合センター果樹研究所,福島県農業総合センター会津地域研究所(圃場再編により 2014 年度をもって試験中止),茨城県農業総合センター山間地帯特産指導所,群馬県農業技術センター中山間地園芸研究センター,長野県果樹試験場,富山県農林技術センター園芸研究所果樹研究センター,石川県農業総合研究センター,石川県農業総合研究センター能登分場,岐阜県中山間農業研究所,農研機構北海道農業研究センター

担当者(担当期間)

吉田義雄(1981~1986),土屋七郎(1986~1991),羽生田忠敬(1981~1984),真田哲朗(1981),樫村芳記(1981~1982),増田哲男(1982~1991),別所英男(1982~1996),小森貞男(1986~1997),伊藤祐司(1991~1996),副島淳一(1991~2003),阿部和幸(1996~1999および2003~2017),古藤田信博(1996~2008),加藤秀憲(1997~2001),岩波 宏(1999~2010),石黒 亮(2001~2003),高橋佐栄(2001~2007),森谷茂樹(2004~2017),岡田和馬(2009~2017),土師 岳(2010~2012),清水 拓(2015~2017).

特性の概要

1.育成地における特性

1) 形態的特性

農林水産省品種登録・りんご(生食用)の審査基準(農林水産省 2015)による形態的形質の特性は以下のとおりであった.

‘紅みのり’の枝梢はやや太く,節間長は中位,枝の色は褐色で皮目の多少は中程度である.葉は緑色で鋭鋸歯を有し,葉身は短く,幅は狭く,毛じの量は中,葉柄の長さは中程度である.花の大きさは小,単弁で花弁数は 5 枚,開花直前の蕾の色は濃い桃色,開花前の葯の色は淡黄色である.成熟期の果実のがくあとこうあの広さと深さは,いずれも中程度であり,果実の王冠の強弱は中位である.果粉は無または極少なく,果面は滑らかである.果点は小さく,その数はやや多い.果梗の長さはやや長く,太さは中位である.

2) 樹性・栽培性・果実特性

2011 年~2016 年の 6 年間,わい性台木 JM7 に接ぎ木して栽培した‘紅みのり’ 4 樹と,対照品種‘つがる’と‘さんさ’各 2 樹の成績を Table 1 に示した.2016 年における‘紅みのり’,‘つがる’,‘さんさ’の樹齢は 9 年生であった.樹性・栽培性・果実特性の評価は,育成系統適応性検定試験・特性検定試験調査方法(独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構果樹研究所 2007)に従った.なお,年次により成績が変動した離散的尺度の形質は,「中~多」,「中~高」のように,~で結び,「中」と「多」の間の特性値は「やや多」のように表現した.連続的変異を示す測定値については,品種と年を要因とする 2 元配置の分散分析を行い,F 検定で品種間平均平方が有意になった形質のみ,最小有意差法により平均値間の有意差を検定した.連続的変異を示す測定値のうち,日持ち性(スコア)については,ノンパラメトリックな Steel-Dwass 法によって品種間の有意差を検定した.また,発芽日,満開日,収穫日については,月日を一定の期日からの日数により数値化し,解析に供した.

樹姿は「開張」であり,‘つがる’や‘さんさ’と同様であった(Table 1).新梢の長さと太さにより総合的に判定するときの樹勢は「中」であり,‘つがる’と同様であった(Table 1Fig. 2).短果枝の着生は年次によって変動し,「中~多」と判定され,‘つがる’と同等かよりやや多い傾向であった.腋花芽の着生は「多」で,‘つがる’や‘さんさ’よりも多かった.発芽日は 4 月 9 日であり,‘つがる’より 2 日,‘さんさ’より 1 日有意に早かった.満開日は 5 月 13 日であり,‘つがる’や‘さんさ’と有意な差はなかった.

収穫は数回に分けて行い,食味が優れ商品性が高いと判断される果実が最も多く収穫できた日を収穫盛期とした.‘紅みのり’の 6 年間の収穫盛期の平均は 9 月 4 日であり,‘つがる’より 12 日,‘さんさ’より 3 日有意に早かった.収穫前落果については,‘ふじ’と‘さんさ’を「無~少」,‘つがる’と‘ゴールデンデリシャス’を「中」,‘スターキングデリシャス’と‘世界一’を「多」とする評価を行ったところ,‘つがる’と同程度の「中」と判定され,‘さんさ’よりも多かった.生産力については,‘American Summer Pearmain(祝)’と‘あかね’を「低」,‘つがる’と‘ふじ’を「中」,‘陸奥’と‘ジョナゴールド’を「高」とする評価を行ったが,‘つがる’と同等の「中」と判定され,‘さんさ’より多かった.斑点落葉病に対して‘紅みのり’は抵抗性と判定され,‘つがる’や‘さんさ’と同程度であった.黒星病に対して‘紅みのり’は罹病性と判定された.

‘紅みのり’の果実重は 308 g であり,‘つがる’とほぼ同等で,‘さんさ’より 40 g 大きかった.果実は円形であり,‘つがる’と同じような果形であった.果実の大きさと形状を基に評価したとき,‘紅みのり’の玉揃いは「中」と判定され,「良」とされた‘つがる’ほど均一ではなかった.果皮色は濃赤色(日本園芸植物標準色票値 0408)で着色程度は高く,縞状に赤く着色する‘つがる’とは異なった(Fig. 3).果実表面のさびの発生は,‘つがる’と同様ほとんど見られず,脂質の発生程度は‘さんさ’と同じく少なかった.果肉の硬度は 15.6 lbs であり,‘つがる’より有意に高かった.肉質と果汁の量についてはいずれも「中」と判定され,‘つがる’や‘さんさ’と同程度であった.糖度は平均 13.6%であり,‘つがる’と有意な差は認められなかったが,‘さんさ’より 1%有意に低かった.酸度は平均 0.29 g/100 ml であり,‘つがる’と同程度であり,‘さんさ’より 0.14 g/100 ml 有意に低かった.みつの発生程度は「無~少」で,‘つがる’や‘さんさ’と同等であった.‘紅みのり’の日持ちは,20℃の室温で 10 ~14 日と評価された.‘紅みのり’及び対照品種の室温での日持ちを 0~9 の 10 段階(0: 3 日未満; 1: 3 日以上 6 日未満; 2: 6 日以上 9 日未満; 3: 9 日以上 12 日未満; 4: 12 日以上 15 日未満; 5: 15 日以上 18 日未満; 6: 18 日以上 21 日未満; 7: 21 日以上 24 日未満; 8: 24 日以上 27 日未満; 9: 27 日以上)に区分して評価したとき,‘紅みのり’の日持ち性スコアは 3.8 であり,‘つがる’(2.2)や‘さんさ’(2.0)より有意に高かった.

‘紅みのり’果実における裂果の発生率は 4~31%の範囲で年次によって変動し,その平均値は 13.1%であった(Table 2).‘つがる’と‘さんさ’における発生率の平均値は 0.4%,0.6%であり,これらの品種より‘紅みのり’の裂果率は有意に高かった.‘紅みのり’果実における心かびの発生率は平均 4.3%(最低値~最高値:1~7%)であり(Table 2),‘つがる’(平均 3.4%)と有意な差は認められなかったが,‘さんさ’(平均 0.1%)より有意に高かった.

3) 交雑和合性

リンゴの交雑和合性は S 遺伝子によって支配されており,S 遺伝子型が同一の品種間交雑では不和合性を示すことが知られている.松本(2018)に従って S 遺伝子型の判別を行った結果,‘紅みのり’の S 遺伝子型は S3S5 であり,本品種と異なる S 遺伝子型を有する‘シナノゴールド’,‘おぜの紅’,‘シナノスイート’,‘ふじ’,‘ジョナゴールド’,‘王林’,‘錦秋(リンゴ盛岡 70 号)’,‘つがる’,‘さんさ’と交雑試験を行ったところ,‘おぜの紅’では 53%,‘王林’と‘つがる’では 60%,それ以外の品種では 70%以上の結実率を示した(Table 3).1 果当たり種子数は,‘ジョナゴールド’,‘王林’,‘おぜの紅’では 3.1~4.9,それ以外の品種では 6.9~9.9 であった.品種間の交雑和合性を結実率と種子数の両指標で評価する場合,結実率 30%以上と種子数 3 個以上が和合性とされ(小森ら 1999),上記の結果から各品種と‘紅みのり’は交雑和合性であると判定された.

2.‘紅みのり’の日本各地における特性

1)系統適応性検定試験における樹性・栽培性・果実特性

2009 年から,13 道県 16 カ所の公立試験研究機関,農研機構北海道農業研究センターと果樹研究所リンゴ研究拠点(現 農研機構果樹茶業研究部門盛岡研究拠点)において,JM7,M.26 等のわい性台木または‘ふじ’等の中間台に接ぎ木して養成した樹を供して試作栽培(系統適応性検定試験)を行った.調査樹の樹齢は,2016 年当時 5~9 年生であった.対照品種として‘つがる’を用いた.特性の調査方法は,1.と同様に,育成系統適応性検定試験・特性検定試験調査方法(独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構果樹研究所 2007)に従った.

全国 18 場所において 2013 年~2016 年に評価された‘紅みのり’の特性を Table 4 に示した.なお,年次により成績が変動した離散的尺度の形質は,「中~多」,「不良~中」のように~で結んで表現した.1 年あるいは 2 年の値しか得られなかった形質もごく一部にあったが,その場合は 1 年あるいは 2 年の(平均)値を用いた.Table 5 には,対照である‘つがる’と比較した成績を示した.対象とした形質のうち,離散的尺度で評価を行った形質については,1 間隔の順位尺度を与えて,その平均値を示した.日持ちについては,既報(阿部ら 2016)に従ってスコア化したときの平均値を記載した.各測定値について,‘紅みのり’あるいは対照品種に欠測値のあった場所を除外して,品種と場所を要因とする 2 元配置の分散分析を行った.日持ちについては,ノンパラメトリックな Steel-Dwass 法によって品種間の平均スコアの有意差を検定した.

樹姿については,7 場所が「中間」,4 場所が「開張」,2 場所が「中間」~「開張」,各 1 場所が「直立」あるいは「やや直立」~「やや開張」と判定した(Table 4).樹勢については,「中」と判定した場所が 8 場所で最も多く,5 場所が「中」~「(やや)強」と判定し,「弱」,「弱」~「やや弱」,「やや弱」~「中」,あるいは「強」と各 1 場所が判定した.順位尺度にしたときの平均値は 2.9(中程度)であり,‘つがる’(2.5:中程度)と有意な差はなかった(Table 5).短果枝の着生については,「中」~「(やや)多」あるいは「やや多」と判定した場所が 7 場所で最も多く,「多」と判定した場所が 5 場所,「中」と判定した場所が 3 場所,「少」~「中」あるいは「少」~「多」と判定した場所が 2 場所あった.全国平均値は 3.6(中程度)であり,‘つがる’(3.2:中程度)と同程度と判断された.腋花芽の着生については,「中」と判定した場所が 7 場所で最も多く,「中」~「(やや)多」と判定した場所が 5 場所,「多」,あるいは「少~多」と判定した場所がそれぞれ 2 場所であった.発芽日は,北海道で 4 月中旬,東北地方で 3 月下旬~4 月上旬,関東地方以西では 3 月中旬~4 月上旬であった.全国平均値は 4 月 1 日であり,‘つがる’より有意に 2 日早かった.満開日は,北海道で 5 月下旬,東北地方で 4 月下旬~5 月中旬,関東地方北部と長野で 4 月下旬,それ以外の地域では 4 月中旬~5月上旬であった.全国平均値は 5 月 6 日であり,‘つがる’と差はなかった.

収穫盛期については,北海道で 9 月中旬から下旬,東北地方で 8 月下旬~9 月上旬,関東地方北部や長野県,富山県,石川県,岐阜県では 8 月中旬~9 月中旬であった.全国平均値は 9 月 1 日であり,‘つがる’より 6 日有意に早かった.収穫前落果については,「中」と判定した場所が 7 場所と多く,「無」~「多」あるいは「少」~「多」と年次による変動が見られた場所も 7 場所と多かった.全国平均値は 2.6(中程度)であり,本品種における収穫前落果の程度は,‘つがる’(2.5:中程度)とほぼ同等と判断された.生産力については,「中」あるいは「中」~「(やや)低」と判定した場所がそれぞれ 4 場所と多く,「中」~「高」,「やや高」,あるいは「低」と判定した場所が各 1 場所であった.全国平均値は 2.5(中程度)であり,本品種における生産力の高さについて,‘つがる’(3.2:中程度)と有意差は認められなかった.

果実重は,場所により 221 g から 312 g まで変動した.全国平均値は 270 g であり,‘つがる’(294 g)より有意に小さかった.果形は円形と判定する場所がほとんどであり,玉揃いについては,「中」~「(やや)良」と判定した場所が 8 場所と最も多く,「中」あるいは「良」と判定した場所が各 3 場所,「(やや)不良」~「中」と判定した場所が 2 場所,「やや不良」と判定した場所が 1 場所であった.果皮の着色については,「(極)多」または「多」~「極多」と判定した場所が 8 場所と最も多く,「やや多」~「多」と判定した場所が 4 場所,「中」~「(極)多」と判定した場所が 4 場所,「中」~「やや多」あるいは「中」と判定した場所が各 1 場所であった.全国平均値は 4.6(やや多~多)であり,‘つがる’(3.3:中程度)より明らかに着色の程度が多いと判断された.果実のさびの量については,「無」あるいは「無~少」と判定した場所が 12 場所と最も多く,「少」あるいは「少」~「中」と判定した場所が 5 場所,「無」~「中」と年次によって変動の大きかった場所が 1 場所であった.さびの発生部位については,こうあ部にみられたとする場所が多かった.果肉の硬度は,ほとんどの場所で 15.0~18.0 lbs の範囲であり,18.0 lbs より高かった場所が 2 場所,15.0 lbs 未満の場所は 1 場所であった.全国平均値は 16.4 lbs であり,‘つがる’(全国平均値 13.2 lbs)より有意に高かった.肉質については,「中」~「(やや)良」と判定した場所が 7 場所と最も多く,「中」が 5 場所,「(やや)不良」~「良」と年次によって変動の大きかった場所が 3 場所,「やや良」~「良」,「良」,「やや不良」~「中」と判定した場所がそれぞれ 1 場所あった.全国平均値は 3.5(中~やや良)であり,‘つがる’(3.0:中)より肉質が良好と判断された.果汁の量については,「中」~「多」と判定した場所が 7 場所,「中」と判定した場所が 5 場所,「(やや)少」~「中」あるいは「やや少」~「(やや)多」が 5 場所あり,「やや多」が 1 場所あった.全国平均値は 3.3(中程度)であり,‘つがる’(3.2:中)と同等であった.糖度については,13 場所で 13.0~14.0%の範囲にあり,13.0%未満の場所は 4 場所,14.1%以上の場所は 1 場所であった.全国平均値は 13.4%であり,‘つがる’(13.4%)と差は認められなかった.酸度は,12 場所で 0.30~0.40 g/100 ml の範囲にあり,5 場所で 0.30 g/100 ml を下回り,1 場所で 0.40 g/100 ml を上回った.全国平均値は 0.32 g/100 ml と‘つがる’(0.27 g/100 ml)より有意に高かった.

みつの多少については,ほとんどの場所が「無」あるいは「無~少」と判定し,心かびの多少については,全場所が「無」あるいは「無~少」と判定しており,本品種はみつと心かびの発生程度が非常に少ないと判断された.また,両形質について,‘つがる’との間に有意な差は認められなかった.果肉の粉質化程度については,「中」,「中~難」,「難」と判定した場所がそれぞれ 3 場所,「やや難」が 2 場所あった.全国平均値は 4.0(やや難)であり,‘つがる’(2.2:やや易~中)より粉質化しにくいと判断された.果実の日持ちと冷蔵貯蔵日数は調査年次や場所により変動したが,室温で 10~14 日,冷蔵では 30~60 日程度とする評価が相対的に多かった.本品種の日持ち性をスコア化したときの平均値は 3.3 であり,‘つがる’(2.1)との間で有意差が認められた.この結果から,‘紅みのり’は‘つがる’より果肉が粉質化しにくく,日持ちが良好であると考えられた.

2)試験地の気温と果実特性との関係

2013 年~2016 年における全国 18 場所の栽培地域の年平均気温と果実特性(果実重,果皮着色程度,果肉硬度,果汁の多少,糖度,酸度)との関係を‘紅みのり’および‘つがる’で検討したところ,着色程度,果肉硬度,酸度の 3 形質において,栽培地域の年平均気温の違いが果実特性に及ぼす影響について品種間で差異が認められた(Fig. 4).‘紅みのり’では,7.3~15.7℃の範囲では気温の高低にかかわらず着色程度が 3(中)~6(極多)であったのに対して,‘つがる’では,年平均気温 12℃より気温が低い地域では‘紅みのり’と同様に着色が 3 以上であったものの,12℃以上の地域では 1 場所を除くすべての場所で着色が 1 (少)~3(中)と劣り,栽培地域の年平均気温と着色程度の間に有意な相関が認められた.果肉硬度と酸度について,‘紅みのり’では,7.3~15.7℃の範囲では気温の高低と形質との間に有意な相関関係が認められなかったのに対して,‘つがる’では,栽培地域の年平均気温が高くなると果肉硬度と酸度が有意に低下した.一方で,果実重,果汁の多少,および糖度に関しては,年平均気温の違いによる有意な影響は認められなかった.高温による果実の着色不良,果肉軟化,低酸化は,温暖化が果実品質に及ぼす影響の典型的な事例としてよく知られているが(杉浦ら 2007),今回の系統適応性検定試験において,年平均気温 12~15.7℃の場所で栽培された‘紅みのり’では‘つがる’より着色不良や果肉軟化が起こりにくいことが示された.この結果から,‘つがる’の良好な着色が得られない温暖なリンゴ産地において,‘紅みのり’では良好な着色が得られ,果肉軟化による品質低下は起こりにくいと期待できる.

なお,リンゴ果皮のアントシアニン蓄積・発現を制御しているのは MdMYB1Ban et al. 2007Takos et al. 2006)であり,着色性を決定する原因となる多型はプロモーター領域へのレトロトランスポゾン挿入の有無であることが知られている(Zhang et al. 2019).この多型は SSR マーカー Mdo.chr9.4 の多型から間接的に推定できるので,Mdo.chr9.4 を利用して各品種の遺伝子型を表すと,‘つがる’の遺伝子型は Mdo.chr9.4-R0/Y-3 である(Moriya et al. 2017).このうち R0 は着色型,Y-3 はアントシアニンを合成しない非着色型の MdMYB1 に連鎖している対立遺伝子である.一方,‘紅みのり’の遺伝子型は Mdo.chr9.4-R0/R0 であり(Moriya et al. 2017),‘つがる’より着色型対立遺伝子を 1 つ多く持つ.着色型対立遺伝子が多いほどリンゴ果皮のアントシアニン発現が良好になることが明らかにされており(Moriya et al. 2017),‘紅みのり’が良着色性を示す遺伝的背景であると考えられる.

3.適応地域および栽培上の留意点

‘紅みのり’は北海道,東北地方や関東地方北部,長野県,北陸地方など既存のリンゴ栽培地域で栽培できる.特に‘つがる’において着色不良や果肉軟化が発生しやすい温暖な地域で‘紅みのり’を栽培した場合に,‘つがる’より高品質な果実生産が期待できる.それ以外の地域で栽培した場合にも,‘つがる’と同品質の果実生産が可能である.

‘紅みのり’では収穫前落果が発生する.発生の程度は年次により変動し,顕著な場合の落果程度は中程度とされており,‘つがる’における収穫前落果程度に匹敵する.そのため,収穫前落果の発生が懸念される場合には落果防止剤を使用する.

栽培地域,年次によって裂果の発生が認められている.‘紅みのり’における裂果の発生部位はこうあ部が多い.裂果の発生には,栽培管理に関わる多様な要因が影響を及ぼすと考えられているが,その発生程度と果実肥大との関係について,幼果期の果実横径の日平均変化率の高さが発生を助長することが知られている(山本ら 1996).そのため,過度な大果生産を図らずに適切な栽培管理を行うことが重要である.

謝辞

本品種の育成に当たり,交雑計画を策定して交雑を実施された吉田義雄博士,羽生田忠敬氏,真田哲朗博士に心より御礼申し上げる.多年にわたり実生養成,試験樹の管理などに多大なご協力をいただいた果樹茶業研究部門盛岡研究拠点の歴代職員,ならびに系統適応性・特性検定試験を担当していただいた関係試験研究機関の各位に深謝の意を表する.

利益相反の有無

すべての著者が開示すべき利益相反はない.

引用文献
 
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