農研機構研究報告
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原著論文
フェストロリウム新品種「ノースフェスト」の育成とその特性
田村 健一 田瀬 和浩眞田 康治小松 敏憲秋山 征夫谷津 英樹横山 寛高山 光男林 拓牧野 司出口 健三郎佐藤 尚親
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2024 年 2024 巻 17 号 p. 1-22

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Abstract

フェストロリウム「ノースフェスト」は越冬性や放牧適性等を育種目標として四倍体のメドウフェスクとペレニアルライグラスの交雑後代を母材に育成された複二倍体品種であり,4 母系 19 栄養系で構成される.北海道内 7 か所での地域適応性検定試験の結果,「ノースフェスト」の越冬性はいずれの地域でもペレニアルライグラス「ポコロ」や既存のフェストロリウム品種より優れた.メドウフェスク「ハルサカエ」との比較においても,越冬条件が厳しい根釧地域で劣ったことを除けば十勝地域を含めたそれ以外の地域では同程度からやや優れた越冬性を示したことから,道北・道央・道南に加え,道東の比較的越冬条件の穏やかな地域に至るまで安定栽培が可能であると判断された. 「ノースフェスト」は放牧利用を想定した多回刈条件において全道平均での収量が「ハルサカエ」および「ポコロ」より多収であり,かつ季節生産性が平準化していたことなどから,放牧利用に適すると考えられる.また総繊維に占める高消化性繊維の割合が高いなどペレニアルライグラスと同等の優れた飼料品質を示すとともに,両草種より初期生育性が優れていることから,経年草地への追播での活用も期待される.

Translated Abstract

Festulolium ‘Northfest’ is an amphiploid forage grass cultivar derived from crosses between the tetraploid meadow fescue and perennial ryegrass. It consists of four maternal lines and 19 individuals that were bred with breeding objectives such as winter hardiness and suitability for grazing use. The winter hardiness of ‘Northfest’ was superior to that of perennial ryegrass ‘Pokoro’ and other Festulolium cultivars in all test sites in Hokkaido. On the other hand, it was inferior in the Konsen region where overwintering conditions are severe compared to the meadow fescue ‘Harusakae’, but was similar to or slightly superior in other regions including the Tokachi region, suggesting that ‘Northfest’ can be grown stably even in eastern Hokkaido where overwintering conditions are relatively mild. The average yield of ‘Northfest’ for grazing use was higher than that of ‘Harusakae’ and ‘Pokoro’ in Hokkaido under multiple harvesting, and its seasonal productivity was at the same leveled, suggesting that it is suitable for grazing. In addition, it showed better initial growth performance than both those species and excellent forage quality (such as a high digestible fiber content) comparable to that of perennial ryegrass, making it suitable for use in improving the quality of existing degraded grasslands through additional seeding.

緒 言

北海道の草地においてはイネ科牧草の種子需要量の 8 割程度を越冬性や飼料品質に優れたチモシー(Phleum pratense L.)が占めている.しかしながらチモシーは雑草との競合力に劣る面があり, 草地更新率が低下する中,地下茎型イネ科草の侵入などによる植生の悪化,それにともなう栄養生産性の低下が問題となっている(竹田 2013, 北村 2016).このような背景のもと,近年北海道においてはオーチャードグラス(Dactylis glomerata L.)やペレニアルライグラス(Lolium perenne L.)などチモシー以外の草種が見直されている.ペレニアルライグラスは飼料品質や放牧適性に優れる草種であり, 北海道では主に道北,道央,道南の多雪地帯を適地とする品種が育成されてきた(佐藤ら 2002 他).さらにここ数年は,優れた初期生育性の点から植生改善を目的とした既存草地への追播による利用の試みが,寡雪寒冷のため越冬条件がより厳しく,著しい土壌凍結が生じる北海道東部(道東)地域においても広がりつつある(角谷 2022).しかしペレニアルライグラスは環境ストレス耐性,特に北海道においては越冬性が劣るため,現時点において道東地域での利用が推奨される北海道優良品種は存在しない.道東地域における放牧向け草種としては越冬性に優れるメドウフェスク(Festuca pratensis Huds.)の品種が育成され(高井ら 2001 他),集約放牧での利用技術などが開発されてきた(須藤 2004).しかしながらペレニアルライグラスに比べ,茎数密度や夏季以降の生産性が劣るなどの欠点があり,種子需要量は年間数トン程度にとどまっている.

フェストロリウム(× Festulolium spp.)はLolium 属(ライグラス類)とFestuca 属(フェスク類)の属間雑種である.Lolium 属の高い飼料品質・再生力とFestuca 属の優れた環境耐性・永続性を併せ持つ草種として,イギリスで「Elmet」が育成されたのをかわきりに,これまでに 80 以上の品種が育成されている(Humphreys and Zwierzykowski 2020).1980 年代以降,日本国内でも育種研究および品種育成がすすめられ,農研機構東北農業研究センターは既存のフェストロリウム品種を母材に東北地域などの寒冷地向け品種として「東北 1 号」(米丸ら 2011)および「イカロス」(上山ら 2014)を育成した.また農研機構畜産草地研究所(現畜産研究部門)は新規交雑後代等から温暖地まで利用可能な越夏性を有する「那系 1 号」(農研機構 2021)を育成した.ただしこれらは本州以南での利用を目的に育成された品種であり,特に越冬性の面で北海道での利用には適さない.一方田瀬ら(2008)は海外で育成されたフェストロリウム品種の北海道での越冬性を評価し,メドウフェスクと同程度に越冬性に優れる品種が認められたことから,最適な交雑母材の選定と厳密な選抜を行うことで道東地域でも利用可能なフェストロリウムの育成が可能であるとした.

以上を背景に, 農研機構北海道農業研究センター(北農研),雪印種苗株式会社および北海道立総合研究機構農業研究本部根釧農業試験場(根釧農試,現酪農試験場)は北海道向けで道東地域での栽培も可能な放牧および採草利用品種の育成を目指し,飼料品質や放牧適性に優れるペレニアルライグラスと越冬性に優れるメドウフェスクの交雑によるフェストロリウムの育種に取り組んだ.土壌凍結地帯における選抜および適応性の評価の結果,放牧を想定した多回刈条件における収量性に優れ,かつ北海道に適応可能な越冬性と優れた放牧適性や飼料品質を併せ持つ「ノースフェスト」を育成した.「ノースフェスト」は 2017 年に北海道優良品種に認定され,2022 年 2 月 7 日に登録番号 28936 で品種登録された.「ノースフェスト」は放牧酪農の普及推進,草地の植生改善および自給飼料の高品質化を通じ,自給飼料を基盤とした北海道の酪農の発展に貢献できると期待される.

「ノースフェスト」は北農研,雪印種苗(株)および根釧農試において共同育成されたもので,育成に携わった研究者は 12 名である.基礎集団の評価と選抜,および構成栄養系の決定と合成は田瀬,小松,眞田,田村,林,牧野,出口,佐藤,谷津,横山,高山によって行われ,北育系統の評価と生産力検定予備試験は田瀬,眞田,田村,谷津,横山,高山によって,生産力検定試験と育成地における各種特性評価試験は田村,田瀬,眞田,秋山,谷津,横山,高山によって行われた.地域適応性検定試験のデータを含む試験成績の取りまとめは田村,眞田,秋山が行った.

育種目標,育種方法ならびに育成経過

1. 育種目標

北海道向けで土壌凍結地帯である道東地域にも適応可能な越冬性を備え,収量性,季節生産性,飼料品質に優れる放牧および採草用品種を育成する.

2. 育種方法

ペレニアルライグラスとメドウフェスクの属間交雑後代に由来する 4 母系 19 栄養系の交配による母系選抜法により育成した.構成栄養系を表 1 に示す.

3. 育成経過

1)選抜基礎集団の養成,選抜および構成栄養系の決定

フェストロリウム「ノースフェスト」(「北海 1 号」)の育成経過を図 1 に示す.2006 年にメドウフェスク「トモサカエ」の倍加四倍体系統である「北育 T-1 号」「北育 T-3 号」および「ファースト」の倍加四倍体系統である「北育T-2 号」「北育 T-4 号」の計 4 系統(各系統 200 個体,計 800 個体)から 4 個体(「北育 T-1 号」2 個体,「北育 T-2 号」および「北育 T-3 号」各 1 個体)を,ペレニアルライグラス「北海 1 号」「北海 2 号」計 2 系統(各系統 200 個体,計 400 個体)から 4 個体(「北海 1 号」1 個体,「北海 2 号」3 個体)を,越冬性および早春の草勢に優れる個体として選抜した.メドウフェスクを種子親,ペレニアルライグラスを花粉親として交配し,できるだけ多数の雑種を得るため交配 10-14 日目後に Komatsu et al.(2010)の方法に従い胚培養を行い,その結果 42 個体の属間雑種 F1 を作出した.2007 年にそれら F1 雑種を株分けし,北農研および根釧農試で越冬性評価試験を各場所 2 反復の個体植えで実施した.2008 年に越冬性および雪腐病罹病程度の評価に基づき,北農研および根釧農試からそれぞれ優良な 16 および 12 栄養系を株上げし,隔離交配室でそれぞれ交配した.2008 年に採種量の少ない母系を除き,北農研,根釧農試の各集団 7 母系計 14 母系の適応性評価試験を北農研,根釧農試,雪印種苗(株)北海道研究農場(長沼),同芽室試験地(芽室)および同別海試験地(別海)の 5 か所で 1 母系 10 個体,4 反復で個体密植えにより開始した.2009 年には越冬性,多回刈条件(年間 6〜10 回刈り)での草勢,茎数密度などの評価を行った.2010 年に越冬性を調査後,優良 4 母系を選定し,雪印芽室および同別海から,草勢および茎数密度に優れるそれぞれ 9 および 10 個体を株上げした.それら計 19 個体を隔離交配室で交配し,各個体の種子を等量混合し「北育 2 号」を付した.2010 年 9 月に「北育 2 号」を隔離圃場に定植し,2011 年 7 月に増殖第 2 代種子を採種した.

2)育成系統の評価

2011 年 8 月に「北育 2 号」を含め 10 候補系統(北育 1〜6,8〜11 号)を供試し,生産力予備検定試験を北農研,雪印芽室および同別海の 3 か所で行った.2011 年に播種年の特性を評価し,2012 年と 2013 年の 2 年間多回刈での越冬性,生育特性および収量性を評価した.なお別海は圃場の排水状況が不良であったことから,2012 年 5 月に再播種を行った.北農研では採草利用試験も行い特性を評価した.越冬性および収量性の結果を表 2 に示す.生産力予備検定試験の結果「北育 2 号」および「北育 3 号」を有望と認め,それぞれ「北海 1 号」(「ノースフェスト」)および「北海 2 号」の系統名を付した.

3)地域適応性検定試験および各種特性検定試験

2014 年から増殖第 2 代種子を供試して, 北海道内 7 か所で地域適応性検定試験,根釧農試において耐寒性特性検定試験,家畜改良センター新冠牧場において放牧適性特性検定試験,北農研では兼用利用,混播適性,個体植特性などの各種試験,雪印種苗(株)では永続性,飼料成分,採種性に関する試験を実施した.試験場所を表 3 に示す.

特 性

1. 試験方法

1)供試材料

「北海 1 号」(「ノースフェスト」)および「北海 2 号」を検定系統とした.結果は「ノースフェスト」のみ示す.標準品種には北海道においてフェストロリウムの優良品種がなかったことから,道東で安定利用可能な放牧用草種であるメドウフェスクの北海道優良品種「ハルサカエ」を供試した.また比較品種としてペレニアルライグラス「ポコロ」を供試した.試験によっては比較品種としてメドウフェスク「まきばさかえ」(「ハルサカエ」より越冬性に優れる),ペレニアルライグラス「チニタ」,フェストロリウム「バーフェスト」「イカロス」「那系 1 号」「東北 1 号」「Prior」も供試した.

2)地域適応性検定試験 

放牧利用を想定した多回刈試験を道内 7 か所で,採草利用試験を 3 か所で行った.試験場所および耕種概要を表 4 に示す.多回刈試験は標準品種「ハルサカエ」の草丈が 30 cm 前後に達した時期に刈取りを行った.各年の季節毎の刈取回数を表 5 に示す.採草利用試験は 1 年目(播種年)は 3〜4 回程度,2 年目以降は年間 3 回刈とし,1 番草は標準品種の出穂期に刈取り,以後 40〜50 日間隔で刈取りを行った.調査方法は「牧草およびえん麦系統適応性検定試験実施要領(暫定版)」(平成 24 年 4 月)に準拠した. なお,根釧農試と雪印別海では 2014 年 12 月下旬に土壌凍結後の降雨およびその後の気温低下による冠氷害を主要因とする冬枯れが発生した.これらの圃場には緩やかな起伏があり,本障害は低地に位置する反復において顕著に生じていたため,試験区の配置の影響が大きいと考えられた.そこで根釧農試と雪印別海では低地に位置するそれぞれ 2 反復を 2 年目以降の調査結果に関しては解析から除外した.ただし越冬性に関連する形質に関しては全 4 反復の結果を併記した.また北農研,雪印芽室および同別海は「バーフェスト」「イカロス」を比較品種として供試したが冬枯れが顕著であったため,越冬性の結果のみを示す.全ての場所においてメドウフェスク「まきばさかえ」を供試したが,越冬性関連形質を除き結果を割愛する.

3)特性検定試験

(1)耐寒性特性検定試験

耕種概要を表 4 に示す.処理区として,雪腐病を防除し除雪を行わない積雪防除区(対象区),雪腐病を防除し除雪を行う除雪防除区(凍害区),雪腐病の防除および除雪を行わない積雪無防除区(雪腐病区)を設け,耐寒性と雪腐病抵抗性を調査した.雪腐病の防除は,根雪前にフルアジナム水和剤 1,000 倍液およびチオファネートメチル水和剤 2,000 倍液を散布することにより行った.除雪は土壌凍結深が 2 月 20 日までに 30 cm を超えるよう,また無除雪区との土壌凍結深の差が 10 cm 以上となるよう,適宜行った.調査は「牧草及びえん麦特性検定試験実施要領(暫定版)」(平成 24 年 4 月)に準拠した.なお播種年の 2014 年 12 月下旬に土壌凍結後の降雨およびその後の気温低下による冠氷害を主要因とする冬枯れが発生し,耐寒性の評価が困難となったため,2015 年夏播きで新播圃場を設置し再試験を行った.そのため 2016 年の結果のみ示す.

(2)放牧適性特性検定試験

耕種概要を表 4 に示す.播種翌年(2016 年)にホルスタイン育成牛(月齢 10~11 ヶ月)17~19 頭を,草丈 20 cm 以上 30 cm 未満の時期に入牧し,放牧前の状態より 5 割程度採食した時期まで放牧した.1 日あたりの放牧は午前 11 時〜午後 14 時の 2〜3 時間とした.放牧後は各試験区間の残草量を均一にするために毎回掃除刈を行った.5 月 27 日〜6 月 2 日,6 月 22 日〜6 月 27 日,7 月 27 日〜8 月 11 日,9 月 4 日〜9 月 16 日,10 月 4 日〜10 月 13 日の 5 回の放牧を行った.なお 1 番草は供試牛の準備ができなかったため 5 月 13 日に掃除刈を行った.調査方法は「飼料作物特性検定試験実施要領(改訂 3 版)」(平成 13 年 4 月)に準拠した.

4)育成場所における試験

耕種概要を表 4 に示す.

(1)採草・放牧兼用利用試験

1 番草は標準品種の出穂期に刈取り,2 番草以降は標準品種の草丈 30 cm 前後に達した時期に刈取りを行った.3 年間調査を行い,播種年は 4 回,2年目および 3 年目はそれぞれ 9 回の刈取りを行った.調査方法は「牧草およびえん麦系統適応性検定試験実施要領(暫定版)」(平成24年 4 月)に準拠した.「まきばさかえ」の結果は割愛する.

(2)混播適性検定試験

シロクローバ(Trifolium repens L.)中葉型品種「ソーニャ」を混播相手のマメ科牧草とした.地域適応性検定試験の多回刈試験と同じ刈取り処理を行った.調査方法は「牧草およびえん麦系統適応性検定試験実施要領(暫定版)」(平成 24 年 4 月)に準拠した.「まきばさかえ」の結果は割愛する.

(3)採種性検定試験

北農研と雪印長沼で実施した.北農研における採種日は,2015 年はメドウフェスクが 7 月 16 日,それ以外の品種・系統が 7 月 21 日,2016 年はメドウフェスクが 7 月 14 日,それ以外の品種・系統が 7 月 22 日であった.雪印長沼における採種日は,2015 年はメドウフェスクが 7 月 12 日,「バーフェスト」「イカロス」が 7 月 22 日,それ以外の品種・系統が 7 月 27 日,2016 年はメドウフェスクが 7 月 14 日,それ以外の品種・系統は 7 月 22 日であった.

(4)永続性評価試験

北農研,雪印芽室および同別海で 2011 年〜2013 年に実施した生産力予備検定試験の圃場において,収量調査などを 2014 年以降も継続実施した.調査方法は「牧草およびえん麦系統適応性検定試験実施要領(暫定版)」(平成 24 年 4 月)に準拠した.「まきばさかえ」の結果は割愛する.

(5)幼苗を用いた耐凍性検定,雪腐病接種検定および耐冠氷性検定試験

いずれの試験も北農研で実施した.

a)耐凍性検定試験

2012 年〜2015 年の 4 か年実施した.9 月初旬にペーパーポットに播種し温室内で約 1 か月間育苗後,屋外に搬出し自然条件下でハードニングさせ,12 月上中旬に凍結処理を実施した.凍結処理は冠部 3 cm を採取し,10 個体分を水で湿らせた脱脂綿に包んだものを 2 反復用意し,プログラムフリーザで-3℃・6 時間着氷後,1 時間あたり 1℃ずつ目的の温度(5〜7 温度水準)まで降下させ実施した.一晩解凍したのちバーミキュライトに移植し,約 4 週間後に生死を判定した.プロビット回帰により半数致死温度(LT50)を算出した.

b)雪腐黒色小粒菌核病抵抗性検定試験

2013 年〜2014 年,2014 年〜2015 年の 2 シーズン実施した.9 月初旬に 1 品種・系統あたり 7 個体を 1 反復として 37 × 37 × 35 mm のプラスチックポットに播種し,温室内で約 1 か月間育苗した後,屋外に搬出し自然条件下でハードニングさせた.12 月末〜1 月初めにえん麦粒で培養した雪腐黒色小粒菌核病菌生物型 B(Typhula ishikariensis Imai var. ishikariensis, biotype B)を接種し深さ 50 cm に埋雪した.43 日〜71 日後に各 4 反復分を掘り出し温室内で再生させて 4 週間後に生死を調査した.

c)耐冠氷性検定試験

2015 年 9 月 4 日にペーパーポットに播種し温室内で約 1 か月間育苗後,屋外に搬出し自然条件下でハードニングさせた.12 月 21 日および 3 月 15 日に Gudleifsson and Bjarnadottir(2014)に準拠し以下に示す冠氷処理を行った.冠部 3 cm を採取し,10 個体を 1 反復とした 3 反復分を 75 × 75 × 100 mm のプラスチックボックスに入れた. 完全に浸水させアイスチップを加えたのち-3℃の恒温室内に静置した.処理後 35 日目まで 5 日〜7 日間間隔で取り出し,10℃で 18 時間解凍後バーミキュライトに移植し温室内で生育させた.3 週間後に生死を評価し,プロビット回帰により半数致死日数(LD50)を算出した.

(6)飼料成分分析

自給飼料利用研究会(2009)に従い実施し,一部の試料では近赤外分光分析および蛍光 X 線分析にて行った.なお可消化養分総量(TDN)の推定は NRC2001 版推定式(National Research Council 2001)を用いた.

a)一般分析

北農研の地域適応性検定試験(多回刈および採草利用)における 2 年目および 3 年目の各番草を供試した.反復ごとに採取した生草を 70℃・48 時間通風乾燥したのち,ウイレー型ミルで粉砕した.第 1 反復と第 2 反復,第 3 反復と第 4 反復を等量混合し分析に用いた.2015 年試料は十勝農業共同組合連合会農産化学研究所において委託分析を行い,2016 年試料は雪印種苗において分析した.なお 2015 年試料は水溶性炭水化物(WSC)の分析のみ北農研で実施した.WSCは熱水抽出液を高速液体クロマトグラフで分析し単少糖とフルクタンの合計とした(Sanada et al. 2007).

b)近赤外分光分析および蛍光X線分析

雪印芽室および雪印別海の地域適応性検定試験(多回刈)における 1 年目〜3 年目の各番草を供試した.反復ごとに採取した生草を 70℃・48 時間通風乾燥したのち,ウイレー型ミルで粉砕した.分析は近赤外分光分析(XDS Rapid content analyzer, FOSS)および蛍光 X 線(JSX-1000S, 日本電子(株))を利用した.

(7)個体植特性調査

2014 年 7 月 8 日および 2015 年 7 月 14 日に育成苗を 80 cm × 50 cm 間隔で北農研圃場に移植した.調査個体数は 1 品種・系統あたり 20 個体 3 反復とした.調査方法は農林水産省「フェストロリウム属審査基準」に準拠した.

(8)エンドファイト感染率の検定とアルカロイド分析

エンドファイト感染率の検定には「ノースフェスト」の構成母系の種子親である F1 世代 4 個体の栄養系葉鞘,および「ノースフェスト」育種家種子を供試材料とした.栄養系葉鞘は 0.1%酸性フクシンを含む乳酸溶液で染色し,光学顕微鏡下で観察した.種子は 2.5%水酸化ナトリウム水溶液に 16 時間浸漬後,同様の染色を行い観察した.

アルカロイド分析には「ノースフェスト」育種家種子を供試した.微粉砕機で粉砕後,0.7 mmメッシュを通したサンプル 25 g を供試材料として,ロリトレム B,エルゴバリン,ペラミンおよびロリン(N-ホルミルロリン)について日本食品分析センターにおいて委託分析を行った.

5)統計処理

結果の表示を割愛した品種・系統を含めた全ての供試品種・系統を用いて分散分析を行い,品種・系統間に有意差が認められた場合は最小有意差(LSD, 有意水準 5%)を,認められない場合は NS を表中に記載した.

2. 試験結果

標準品種メドウフェスク「ハルサカエ」および比較品種ペレニアルライグラス「ポコロ」との比較を中心に示す.

1)越冬性関連形質

(1)越冬性

地域適応性検定試験・多回刈条件における越冬性は,道央および道北の多雪地帯に位置する北農研・天北では「ハルサカエ」よりも優れ,道東でも比較的越冬条件の穏やかな畜試・北見・芽室では 2 年目の北見を除き「ハルサカエ」と同程度からやや優れた(表 6).一方根釧地域の根釧・別海においては「ハルサカエ」より劣った.採草利用条件における越冬性は,北農研では「ハルサカエ」より優れ,天北では同等,根釧では劣った(データ省略).またいずれの刈取条件・年次・場所においても「ポコロ」「イカロス」「バーフェスト」より優れた.

(2)耐寒性

耐寒性特性検定試験における耐寒性(除雪防除区)は,対照区(積雪防除区)と比較して,萌芽期は 3 日遅かったが,春の欠株は認められなかった(表 7).萌芽茎数および早春草勢は「ハルサカエ」と同程度であった.乾物収量の対照区からの減少割合は「ハルサカエ」に比べてやや大きかった.一方「ポコロ」「バーフェスト」「イカロス」と比較すると,乾物収量の対照区からの減収割合は小さく,また実乾物収量も有意に多かった.

(3)雪腐病抵抗性

耐寒性特性検定試験における耐病性(積雪無防除区)は,対照区(積雪防除区)と比較して,萌芽期は 6 日遅かったが,萌芽茎数,雪腐大粒菌核病罹病程度および早春草勢は「ハルサカエ」と同程度であった(表 7).乾物収量の対照区からの減少割合は「ハルサカエ」と比較して大きく,実乾物収量も少なかった.一方「ポコロ」「バーフェスト」「イカロス」と比較すると,乾物収量の対照区からの減収割合は小さく,また実乾物収量も有意に多かった.

地域適応性検定試験における雪腐黒色小粒菌核病,雪腐褐色小粒菌核病もしくはそのいずれかの罹病程度は,多回刈・採草利用のいずれの条件においても「ハルサカエ」との間に統計的な有意差は認められなかった(データ省略).また「ポコロ」に対しても北農研の多回刈・2 年目で「ノースフェスト」の方が低いことを除き,有意な差異は認められなかった(データ省略).一方雪腐大粒菌核病については道東の試験場所において発生し,いずれの刈取条件においても全調査平均罹病程度は「ハルサカエ」よりもやや高く,「ポコロ」よりも低かった(表 8).

幼苗検定による雪腐黒色小粒菌核病抵抗性は,接種後生存率が「ハルサカエ」と同程度であり「ポコロ」よりは有意に高いことから,「ハルサカエ」と同程度あり,「ポコロ」より優れると考えられた(表 9).また既存のフェストロリウム品種より優れる傾向が認められた.

(4)耐凍性

半数致死温度が 5 試験平均で-18.0℃であり,「ハルサカエ」より 3〜4℃高かったことから,「ハルサカエ」より劣ると判断された(表 10).一方「ポコロ」より 3℃程度低く,また既存のいずれのフェストロリウム品種よりも低かったことから,「ポコロ」および既存のフェストロリウムより優れると考えられた.

(5)耐冠氷性

平均半数致死日数が「ハルサカエ」より約 3 日短く,また「ポコロ」より約 4 日長かった(表 11)ことから,「ハルサカエ」よりは劣り,「ポコロ」より優れると考えられた.また既存のフェストロリウム品種より優れた.

2)収量性

(1)多回刈条件

播種翌年(2 年目)および翌々年(3 年目)の 2 か年合計乾物収量は根釧を除き「ハルサカエ」を上回り,「ハルサカエ」比の全場平均は 106%と多収であった(表 12).また道東平均も 105%と多収であった.一方根釧においては 90%と低収であった.「ポコロ」に対してはいずれの場所でも上回る収量を示し,全場所平均は 114%と多収であった.

年次別にみると根釧の 2 年目および 3 年目をのぞき,全ての年次・場所で「ハルサカエ」と同等以上であり,年合計乾物収量の全場平均「ハルサカエ」比は 1 年目が 114%,2 年目が 104%,3 年目が 108%と多収性が認められ,特に播種年(1 年目)の収量性に優れていた(表 13).

季節別にみると,春季は北農研・畜試を除き低収であり全場平均「ハルサカエ」比は 91%であった(表 14).特に根釧は 63%と低く冬枯れの影響が考えられた.一方夏季の全場平均「ハルサカエ」比は 109%と多収であり,秋季は同 133%と大幅に多収であった.また乾物収量の季節間変動係数および日乾物生産量の番草間変動係数は春季の低収の影響の大きい根釧および別海の 3 年目をのぞきいずれも「ハルサカエ」より小さかった(データ省略).以上よりスプリングフラッシュにより収量の絶対値が大きい春季は「ハルサカエ」に対して相対的に収量性が低いが,収量の絶対値が低下する夏季から秋季にかけては相対的に収量性が高く,季節間の変動が小さいことから,季節生産性が平準化していると判断された.「ポコロ」に対しては春季および夏季は多収,秋季は同程度であった.

(2)採草利用条件

年次別年合計乾物収量は 1 年目は全場平均「ハルサカエ」比が122%であり大幅な多収であったが,2 年目および 3 年目は同 93%,96%,2,3 年目の 2 か年合計は 94%と低収であった(表 15).場所別にみると北農研および天北の 2,3 年目合計乾物収量は「ハルサカエ」並みであったが,根釧は 83%と低収であった.

番草別にみると,1 番草は全場所で「ハルサカエ」を下回っており,全場平均で「ハルサカエ」比 79%と低収であった(表 16).特に根釧は 57%と大幅に低収であり冬枯れの影響が考えられた.一方 2 番草,3 番草はいずれの場所でも「ハルサカエ」を上回っており,全場所平均「ハルサカエ」比は 2 番草で 112%,3 番草で 106%と多収であった.「ポコロ」に対しては特に 2,3 番草で優れ,年間合計乾物収量はいずれの年次も上回った(表 15, 16).

(3)採草・放牧兼用条件

1 番草および 2 番草以降(多回刈)の合計乾物収量はいずれの年次においても「ハルサカエ」よりも多収で,2 か年合計収量は「ハルサカエ」比 117%であった(表 17).また「ポコロ」と比較した場合,2 年目の 1 番草は「ポコロ」より低収であったが,その後は多収傾向にあり,2 か年合計乾物収量は「ポコロ」より多収であった.

3)耐病性

網斑病罹病程度は試験場所間で傾向が異なるが,発生の認められた全場所平均で「ハルサカエ」より 0.4〜0.5 ポイント低かった(データ省略).かさ枯病罹病程度は「ハルサカエ」と同程度であった(データ省略).斑点病(もしくは夏斑点病)罹病程度は天北の採草利用試験で調査され,2 年目の 3 番草は「ハルサカエ」「ポコロ」より罹病程度が有意に高かった(表 18).斑点性病害罹病程度は網斑病,かさ枯病の初期病斑を含む病害として北農研の採草利用試験で調査され,「ハルサカエ」「ポコロ」より平均で 1 ポイント高かった(表 18).葉腐病は特に降水量の多かった 3 年目の夏季に頻発したが,いずれの場所においても平均罹病程度は「ハルサカエ」より低く,全場所平均で 0.7〜1.0 ポイント低かった(表 18).

4)生育特性

(1)定着時草勢

定着時草勢は根釧の多回刈をのぞき全ての調査で「ハルサカエ」を上回り,全平均で1.1 ポイント高く,初期生育は「ハルサカエ」より優れると判断された(表 19).また「ポコロ」に対しても同様の傾向を示した.

(2)茎数密度

多回刈条件における茎数密度は季節により傾向が異なり,春季は特に冬枯れの著しかった根釧および別海で低く全場平均で「ハルサカエ」より 0.6 ポイント低かった(表 20).一方夏季および秋季は夏季の別海を除き全ての場所で「ハルサカエ」より高く,全場平均で 0.5〜0.6 ポイント高かった.また「ポコロ」と比較すると,冬枯れの影響の大きい根釧を除くと春季および夏季は同程度,秋季は低かった.

(3)出穂特性

採草利用試験における出穂始日の全場所平均は「ハルサカエ」より約 2 日遅く,「ポコロ」より 3 日早かった(表 21).多回刈条件における出穂程度は,春季は全場所平均で「ハルサカエ」より 1.6 ポイント低く,夏季は「ハルサカエ」より 0.5 ポイント高かった(表 22).「ポコロ」と比較すると出穂程度については春季はやや高く,夏季はやや低かった.節間伸長茎程度も同様の傾向であった(データ省略).

多回刈条件における乾物収量中に葉身が占める割合は,全体として 5 月末から 6 月上旬の出穂期に最も低くなったが,「ハルサカエ」が 50%程度であるのに対し,「ノースフェスト」は 75%程度と高かった(表 23).「ポコロ」と比較すると2年目は「ポコロ」より高く,3 年目は同程度であった.

5)永続性

北農研と芽室の永続性評価試験・多回刈条件における 2 年目に対する 6 年目の収量比は,北農研では 65%と「ハルサカエ」の 25%を大きく上回ったが,芽室では 57%と「ハルサカエ」(66%)を下回った(表 24).しかしながら芽室においても 6 年目まで「ハルサカエ」より多収を維持しており,また 6 年目の最終番草の被度もほぼ 100%を維持していた.北農研の採草利用条件の2年目に対する 6 年目の収量比は 62%と「ハルサカエ」の 54%を上回りかつ多収を維持していた(データ省略).従って「ノースフェスト」のこれらの地域における永続性は「ハルサカエ」と同等以上であると判断された.雪印別海の永続性評価試験・多回刈条件の 3 年目に対する 5 年目収量比は「ハルサカエ」と同程度であった.5 年目の被度は 1 番草では冬枯れのため 72%と 100%であった「ハルサカエ」を下回ったが,最終番草時には 100%に回復していた(表 25).「ポコロ」と比較すると,2 年目に対する最終年の収量比は芽室・多回刈条件を除き上回り,また最終年次の乾物収量はいずれの試験においても「ポコロ」を上回った(表 24, 25, 一部データ省略).

6)混播適性

イネ科牧草とシロクローバの合計乾物収量は1年目は「ハルサカエ」より多収(118%), 2 年目はやや低収(95%),3 年目は同程度(101%)であり,2, 3 年目の 2 か年合計では「ハルサカエ」と同程度(98%)であった(表 26).草種別では「ノースフェスト」自体は「ハルサカエ」と同程度(102%)であったが,シロクローバ収量は「ハルサカエ」混播時より低収(77%)であった.また有意差はないもののマメ科率はいずれの季節においても「ハルサカエ」より低く,2 か年平均で「ハルサカエ」混播時より 3 ポイント低かった(データ省略).冠部被度についても有意差はないもののシロクローバ被度が「ハルサカエ」より 2 か年平均で ポイント低かった(データ省略).以上よりシロクローバに対する競合力は「ハルサカエ」よりやや高いと判断された.「ポコロ」と比較するとイネ科牧草,シロクローバとも多収であった(表 26).

7)放牧適性

放牧回毎の採食程度は 1 回目は「ハルサカエ」より高く,2 回目以降は有意差が認められなかった(表 27).この傾向は「まきばさかえ」との比較でも同様であり,1 回目はメドウフェスクの出穂程度が高い傾向にあった.「ポコロ」の採食程度に対しては 1 回目は低く,3 回目以降は有意に高かった.乾物利用率,草量計利用率および草丈利用率の年間平均はいずれも有意差がないものの「ハルサカエ」を下回り「ポコロ」を上回った.

8)飼料成分

多回刈条件については調査を行った 3 か所全てにおいて「ハルサカエ」より高消化性繊維(Oa)が高く,低消化性繊維(Ob)が低く,Oa/OCW すなわち総繊維中の高消化性繊維割合が高い傾向が認められた(表 28).Oa/OCW は「ハルサカエ」より全場所平均で 3 ポイント高かった.TDN 含量およびその他の成分については同程度であった.「ポコロ」に対しても Oa および Oa/OCW がやや高い(約 1 ポイント)傾向が認められた.また北農研および別海では中性デタージェント繊維(NDF)およびOCWがやや高く,細胞内容物質(OCC)が低かった.TDN 含量およびその他の成分については同程度であった.

採草利用条件においては「ハルサカエ」に対し 1 番草における OCC, Oa, Oa/OCW, WSC および TDN が高く,酸性デタージェント繊維(ADF), NDF, OCW, Ob が低かった(表 29).「ポコロ」と比較すると 1 番草における ADF, NDF, OCW, Oa および Oa/OCW が高く,OCC および TDN は低かった.すなわち「ノースフェスト」の 1 番草は ADF, NDF, OCW, OCC および TDN については「ハルサカエ」と「ポコロ」の中間の値であり,Oa および Oa/OCW については「ハルサカエ」「ポコロ」より高かった.「ポコロ」に対しては 2 番草以降も ADF, NDF, OCW がやや高く,OCC がやや低い傾向が認められた.

9)エンドファイト

細胞質が由来する 4 栄養系の葉鞘にエンドファイトは認められなかった.また育種家種子にもエンドファイトは認められなかった.さらに育種家種子について分析対象としたエンドファイト由来アルカロイドは検出されなかった.

10)採種性

北農研および雪印長沼の 2 か所・2 か年平均の採種量は「ハルサカエ」比 86%とやや低収であった(表 30).採種関連形質について「ハルサカエ」と比較すると,倒伏程度は低く,穂数はやや少なく,穂重はやや重く,穂長は長く,千粒重は重かった(表 31).「ポコロ」と比較するといずれの調査でも有意差がないものの採種量が多い傾向を示した(表 30).また採種量を既存のフェストロリウム品種と比較すると「バーフェスト」より少なく,「イカロス」よりやや少なく,「那系 1 号」より多かった.

11)個体植試験における形態・生育特性およびその系統内個体変異

各種特性について国内育成 3 品種および海外育成 2 品種との比較を行った結果,春化後の草姿がやや「ほふく型」であることや出穂始日が遅いなどの特性が明らかになり(表 32),これらを組み合わせることで既存品種との区別性を有すると判断された.またいずれの形質についても標準偏差は既存品種と同程度であり,系統内個体変異は既存品種と同程度と判断された.

考 察

1. 「ノースフェスト」の越冬性

冬季の気象条件が厳しい北海道の草地における草種選択においては,越冬性(耐冬性に越冬後の再生能力を総合した特性)が最も重視される(阿部 1986).特に寡雪のため土壌凍結が生じる道東地域においては,耐寒性(耐凍性を含む)と雪腐病抵抗性がその主な要因とされる(能代,平島 1978).

「ノースフェスト」は道東地域で利用可能な越冬性を第一の育種目標として育成された.地域適応性検定試験における「ノースフェスト」の越冬性は,多雪地帯はもとより,道東の十勝地域(畜試・芽室)においても,メドウフェスク「ハルサカエ」やさらに越冬性に優れる「まきばさかえ」と同等かそれ以上を示した.一方より土壌凍結の程度が著しく(土壌凍結深が深く)越冬条件が厳しいことが示唆される根釧地域の根釧農試(中標津)と雪印別海においては,ペレニアルライグラス「ポコロ」よりは優れるものの「ハルサカエ」より劣り,春季の収量も「ハルサカエ」より大幅に低収となった.ここで試験を行った 2 シーズンの根釧地域における越冬条件を考察したい.まず 2014 年–2015 年シーズンはアイスシート害(冠氷害)が生じた.2014 年 12 月上旬から中旬にかけ-20 cm 程度まで土壌凍結が生じ土壌が不透化したのち,12 月下旬に降雨があり,その後の最低気温-15℃程度の低温(根釧農試気象データおよび気象庁アメダスデータ)によりアイスシートが形成されたと推察される.冠氷害は植物が氷に覆われることにより長期間嫌気状態になり,酸素濃度が低下して枯死する被害である.幼苗を用いた検定の結果,「ノースフェスト」の冠氷害耐性はペレニアルライグラスや既存のフェストロリウムより優れるもののメドウフェスクより劣っていた.過去の気象データから根釧地域において厳冬期に冠氷害が生じる頻度は高くはないと考えられるが,今後気候変動による温暖化や気象の極端化により冠氷害のリスクが高くなる可能性もあり注意が必要である.一方 2015年–2016 年シーズンは最大土壌凍結深が根釧農試で 35 cm(耐寒特検定圃場),別海町で 42 cm(根室農業改良普及センター調べ)と例年平均より 15 cm 以上深かったことから,例年以上に低温の影響が大きく,品種の耐寒性・耐凍性のレベルが強く越冬性に影響したと考えられる.実際,特性検定や幼苗検定における「ノースフェスト」の耐寒性および耐凍性は「ハルサカエ」より劣る結果となっており,このことが越冬性や春季の収量の「ハルサカエ」との差に影響したと考えられる.以上のように試験を行った 2 シーズンの根釧地域の越冬条件は例年より厳しいものであったと推察される.一方で別海での永続性評価試験では 5 年目収量の 3 年目比は「ハルサカエ」と同等であり,また 5 年目秋季においても秋の被度は 100%であることから,圃場の状態などによっては根釧地域でも十分利用可能な越冬性を有していると考えられる.以上をまとめると「ノースフェスト」は著しい凍害が懸念される地域や低地で水の溜まりやすい圃場などでは冬枯れのリスクがあり注意が必要であるものの,道東地域での越冬が可能な越冬性を有していると判断できる.

「ノースフェスト」の越冬性およびその関連形質はペレニアルライグラスおよび既存のフェストロリウムと比べると明らかに優れていた.眞田ら(2023)は 1 番草乾物収量のメドウフェスク比の積算寒度による回帰式を求め,過去の気象データから「ノースフェスト」の根釧地域における越冬リスク(1 番草乾物収量がメドウフェスク比 20%以下となる確率)を評価した結果,「ポコロ」の約 3 分の 1 と推測している.

2. 「ノースフェスト」のその他の特性

多回刈試験において「ノースフェスト」は「ポコロ」はもとより冬枯れの影響があった根釧を除き「ハルサカエ」より多収であった.さらにスプリングフラッシュが控え目でかつ夏期以降の収量性に優れ,季節生産性が平準化していることから,放牧利用に適していると考えられる.採草利用における番草間の収量変動にもこの特性が反映されているが,年間収量でみると採草・放牧兼用利用を含め十分利用可能な収量性を有すると判断できる.北海道においても寒地型イネ科牧草の夏期の生産性が低下する原因は高温にあるが(林 1970),夏期の生産性が高い点は,夏季の代表的な病害である葉腐病罹病程度が低い点とあわせ,近年の温暖化傾向にあって有利な特性であるといえる.

「ノースフェスト」は定着時草勢に優れ,また初年目の収量性が高いことから,初期生育に優れると判断された.このことから特に既存草地への追播利用に適すると考えられる.実際に道東の既存草地へ「ノースフェスト」を追播した場合,メドウフェスクやペレニアルライグラス追播に比べ高い収量を確保可能であることが確認されている(経営体(気象リスク飼料)コンソーシアム 2021).

「ノースフェスト」の出穂日は「ハルサカエ」と「ポコロ」の中間であり,各番草の出穂程度も春季の出穂程度が高い「ハルサカエ」と夏季出穂程度の高い「ポコロ」の中間的な特性を示した.また「ノースフェスト」の出穂期の葉部割合は「ポコロ」と同程度以上であった.放牧特性検定試験の結果から,出穂程度と採食程度に関連が認められた.メドウフェスクは春季の出穂茎・節間伸長茎割合が高いため採食性が低いことが欠点であると推察されるが,「ノースフェスト」はこの点がメドウフェスクより改良されている.放牧特性検定試験における乾物利用率などには品種間に有意差は認められなかったが,放牧回ごとに残草の掃除刈を行なっており,一旦出穂茎が刈り払われることが品種間差が小さかったことに影響している可能性が考えられる.須藤(2004)は集約放牧条件下においてメドウフェスクとペレニアルライグラスの牧草生産性と産乳性は同程度であると結論付けた.これらのことから,季節間で平準化された収量性もあわせて考慮すると,「ノースフェスト」はメドウフェスクおよびペレニアルライグラスと同等以上に放牧に適すると推察される.

飼料品質については「ノースフェスト」は Oa/OCW すなわち総繊維中の高消化性繊維割合が,多回刈・採草利用のいずれにおいても「ハルサカエ」より高かった.また採草利用の 1 番草においては WSC 含量や TDN 含量が高かったが,これには出穂程度の違いが関与していると推察される.これらのことから「ノースフェスト」の飼料品質は総合的に「ハルサカエ」より優れると考えられる.「ポコロ」との比較においても採草利用における繊維成分が高い傾向があるものの,高消化性繊維割合は高い傾向にあり,「ノースフェスト」はペレニアルライグラスに匹敵する飼料品質を有すると判断される.

3. 「ノースフェスト」の育種方法

フェストロリウムの品種は,複二倍体品種と移入交雑(イントログレッション)品種の大きく 2 種類に区分される(Ghesquière et al. 2010).前者は主に同質四倍体の Lolium 属と Festuca 属の交雑後代を母材として育成され,後者は様々な倍数性の属間雑種を母材にその戻し交雑などにより育成される.育種法の違いにより両属に由来するゲノムの量的バランスが異なり,それが表現型に大きく影響する.従って育種目標に応じて育種法を選定する必要がある.「ノースフェスト」はペレニアルライグラスとメドウフェスクの同質四倍体に由来する複二倍体品種であり,染色体の観察により推定されるフェスクゲノム割合の指標(f-ratio)は 48.4%とほぼ半分を占める(Tamura et al. 2023).一方本州以南向けの「東北1号」「イカロス」はイントログレッション品種を母材に育成されており,f-ratio はそれぞれ 18%, 6%と低く(Kubota et al. 2015),また本研究で供試した「バーフェスト」はゲノム解析の結果わずかしかフェスク由来ゲノム配列が認められなかった(Tamura et al. 2023).従ってこれらの品種に対する「ノースフェスト」の優れた越冬性には,フェスク由来ゲノムの量的影響が関与していると考えられる.またフェストロリウムの育成においては,育種目標に応じ,種レベルおよび個体レベルで最適な交雑親を選定することが重要となる.田瀬ら(2008)はペレニアルライグラスに比べイタリアンライグラスを母材とする既存フェストロリウム品種の越冬性が劣ることを確認しており,「ノースフェスト」の育成過程においても,ペレニアルライグラスに由来する複二倍体系統に比べ,イタリアンライグラスを含む越夏性により選抜されたライグラス類を母材とする複二倍体系統は越冬性に劣る傾向を示した(データ省略).「ノースフェスト」と同じ複二倍体品種であり f-ratio も「ノースフェスト」と同程度である「那系 1 号」の越冬性が「ノースフェスト」より劣るのは,イタリアンライグラス由来ゲノムが含まれるため(Tamura et al. 2023)と考えられる.田瀬ら(2008)は北海道において既存の海外フェストロリウム品種「Prior」がメドウフェスク「ハルサカエ」と同程度の越冬性を示すことを報告しているが,幼苗を用いた試験において「ノースフェスト」は「Prior」より優れる耐凍性および雪腐黒色小粒菌核病抵抗性を示した.「Prior」は「ノースフェスト」と同じくペレニアルライグラスとメドウフェスクの複二倍体であるが,「ノースフェスト」は越冬性で選抜した母材を交雑親に利用し,その後代を土壌凍結地帯での越冬性で選抜して育成されたことが,両者の越冬性関連形質の差異に関与していると考えられる.

「ノースフェスト」は越冬性や茎数密度など多くの形質においてペレニアルライグラスとメドウフェスクの中間的な表現型を示したが,これは両種に由来するゲノムの割合が同程度であることが影響していると考えられる.一方越冬条件の穏やかな多雪地帯でペレニアルライグラスとメドウフェスクより高い収量性を示した点については遠縁交雑によるヘテロシスの発現の関与も推察される(Humphreys and Zwierzykowski 2020).今後越冬性や茎数密度などをさらに改良するためにはそれらの形質に優れた母材を利用することに加え,目的とする形質に関わる遺伝子を集積しその個体・系統内頻度を高めることも有用と考えられる.Tamura et al.(2020)は「ノースフェスト」の母材を用いた量的形質遺伝子座(QTL)解析により,圃場越冬性に関わる複数の QTL を同定している. 越冬性に関してはそれぞれの QTL の効果は小さいため,個々の QTL に連鎖する DNA マーカーによる選抜は困難であると考えられるが,ゲノム全体の多型情報を利用するゲノミック予測などを活用することで効率的な有用遺伝子の集積が期待される.

4. 「ノースフェスト」への期待

フェストロリウム「ノースフェスト」は放牧を想定した多回刈においてメドウフェスク「ハルサカエ」およびペレニアルライグラス「ポコロ」より多収である. またペレニアルライグラスと比較すると同程度の飼料品質を有しつつ大幅に越冬性が優れ,道東の比較的越冬条件の穏やかな地域まで安定栽培が可能である.さらにメドウフェスクと比較すると季節生産性が平準化しており春季の出穂茎割合も低いことから放牧適性に優れ,かつ飼料品質も優れる.以上のことから北海道においてフェストロリウム「ノースフェスト」はペレニアルライグラスに対してはより安定栽培可能な草種として,またメドウフェスクに対しては放牧適性・飼料品質の点でより高性能な草種として,これらとの置き換えやこれまでペレニアルライグラスの栽培が困難であった地域への導入による利用の拡大が期待される.近年草地の高品質化を目的に既存草地へのペレニアルライグラスの追播が広がりつつあるが,優れた初期生育性,飼料品質,越冬性を有する「ノースフェスト」をペレニアルライグラスの代わりに追播利用することで,より安定的な高品質粗飼料生産が可能となると考えられる.さらにチモシー・オーチャードグラスなどの基幹草種との混播等の新規用途での利用も期待できる.フェストロリウム「ノースフェスト」は以上のような利用がなされることにより,北海道酪農の飼料自給率の向上に貢献できる.

謝辞

「ノースフェスト」の育成は,2014 年度から 2016 年度まで農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業26091C「北海道草地の植生を改善し高品質粗飼料生産を可能とする牧草品種の育成」の補助を受けて行った.圃場試験は,技術専門職員の武市利幸氏,柳谷修自氏の協力のもとで実施された.契約職員の藤森満智子氏,細川諭美氏,須藤早苗氏,西塚花美氏および島田里美氏には圃場試験を補佐していただいた.地域適応性検定試験および特性検定試験は,以下の場所(試験当時),担当者(試験実施当時在籍)により実施された.担当していただいた数多くの方々に厚く御礼申し上げる.

1.地域適応性検定試験ならびに担当者

地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 農業研究本部 

 上川農業試験場天北支場(現酪農試験場天北支場) 佐藤公一, 林 拓

 畜産試験場 出口健三郎, 佐藤公一, 飯田憲司, 戸刈哲郎, 角谷芳樹, 寺見 裕, 今 敬人

 北見農業試験場 藤井弘毅, 足利和紀, 田中常喜, 冨田謙一

 根釧農業試験場(現酪農試験場) 中村直樹, 林 拓, 牧野 司, 佐藤尚親, 角谷芳樹

雪印種苗株式会社 谷津英樹, 横山 寛, 佐藤駿介

2.特性検定試験場所ならびに担当者

1)耐寒性特性検定試験

地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 農業研究本部 根釧農業試験場(現酪農試験場) 中村直樹, 林 拓, 牧野 司, 佐藤尚親, 角谷芳樹

2)放牧適性特性検定試験

独立行政法人 家畜改良センター新冠牧場 和田英雄, 藤瀬万里絵, 小野純一, 伴苗行弘

利益相反の有無

すべての著者は開示すべき利益相反はない.

引用文献
 
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