農研機構研究報告
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原著論文
調理後の温度管理が高アミロース米粉ゼリーの物性に及ぼす影響
芦田 かなえ 藤谷 順子
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2024 年 2024 巻 18 号 p. 13-20

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Abstract

嚥下障害患者のために飲み込みやすく調製した食事が嚥下調整食である.嚥下調整食の主食として粥をミキサーにかけてゲル化剤で固めた粥ゼリーを提供するが,その調理には手間と時間がかかる.高アミロース米の粉に対し10倍量の水を加えて加熱し冷却すると,軟らかく飲み込みやすいゼリー状になるため,主食調理の簡便化に有用であると期待される.一方,澱粉ゲルの物性は濃度と温度によって変化するため,高アミロース米粉ゼリーを適切に提供するためには濃度調整と温度管理が必要になる.そこで,適切な米粉の分量を検討するとともに,調理後に様々な温度管理を行った際の高アミロース米粉ゼリーのテクスチャーを調べることで,適切な温度管理条件を検討した.4°C,24°C,45°Cいずれの温度帯でも米粉の量と米粉ゼリーの硬さとの間には有意な正の相関が認められ,一食分の調理で適切な物性になる米粉の濃度は9.1%(w/w)であった.9.1%(w/w)の濃度で調理した米粉ゼリーは,調理後に冷蔵庫で冷却する操作を行っても,室温で自然放冷した場合でも,高温で保管しても,介護食として適切な物性であることが確認できた.米粉の濃度だけでなく温度管理によって,嚥下機能に応じた物性調節が可能であることが示された.

Translated Abstract

A dysphagia diet consists of texture-modified food for people with swallowing disturbances. Pureed rice porridge is prepared as a staple food for the dysphagia diet by homogenizing the porridge and solidifying it with gelling agents; however, much time and effort is required to prepare this porridge. Rice flour prepared from high-amylose rice forms a soft gel that is easy to swallow when boiled with 10 times its weight with water and then cooled. The soft jelly made from high-amylose rice flour may simplify the preparation of pureed rice porridges. Texture of starch gel depends on concentration and temperature, which need to be controlled to prepare rice flour porridge correctly. To determine the appropriate amount of rice flour and temperature conditions, the texture of the rice flour jelly was tested at various temperatures after cooking. Significant positive correlation between the amount of rice flour used and firmness of the prepared rice flour jelly was observed at 4°C, 24°C, and 45°C. The appropriate weight of rice flour when cooked for one meal was 9.1%(w/w). Rice flour jelly prepared at a concentration of 9.1%(w/w) maintained an appropriate texture and could be used as a dysphagia diet, whether it was cooled naturally at room temperature, stored at 65°C, or cooled at 4°C and reheated after cooling. These results suggest that the texture of rice flour jelly can be adjusted according to the ability to swallow in individuals with dysphagia by controlling not only the concentration of rice flour, but also the temperature.

緒言

日本では高齢化に伴い,飲み込む機能に支障がある嚥下障害患者が増加している.嚥下障害の患者数は世界人口の8%を占めると推定されている(Cicero et al. 2013).嚥下調整食は,誤嚥を防ぐために,嚥下障害に配慮して調整した食事のことである(栢下ら 2021).

米は嚥下調整食においても主食として欠かせない.日本摂食嚥下リハビリテーション学会の嚥下調整食分類2021(栢下ら 2021)の早見表に主食の例が提示されているが,精米に5~10倍量の水を加えて加熱して調理した粥には米粒が残っているため,咽頭に残留しやすく嚥下調整食としては難易度が高い食品である.米粒が飲み込めない患者には,粥をミキサーにかけて均質化したミキサー粥を提供する.日本で主食として食べられている中アミロース米は粘りがあるため,ミキサー粥を調理する際には澱粉分解酵素(α-アミラーゼ)を加えて粘りを抑える必要がある.さらに,澱粉分解酵素を加えてミキサーにかけた粥はサラサラの液体になり誤嚥しやすいため,増粘剤やゲル化剤を加えて飲み込みやすくまとめる必要がある(栢下ら 2021).ミキサー粥をゲル化剤でゼリー状にしたものは病院では一般的に粥ゼリーと呼ばれる.このように,嚥下調整食の主食の調理は手間と時間がかかる.

高アミロース米の米粉に10倍量の水を加えて加熱糊化させ,その後冷却するだけで,軟らかいゼリー状のゲルが形成できる(芦田ら 2019).この高アミロース米粉から調製可能なゼリー状のゲルは,嚥下調整食の粥ゼリーのように軟らかく飲み込みやすい物性を示すため(芦田ら 2019),本論文では米粉ゼリーと呼ぶ.高アミロース米の米粉から調製した米粉ゼリーは,軽度嚥下障害患者が摂取した場合に全粥よりも咽頭残留量が少なく(Tsubokawa et al. 2023),嚥下調整食の主食としてより安全に食べられると考えられる.高アミロース米粉を使用した場合には,ミキサーや酵素,ゲル化剤を使わなくても粥ゼリーが調理可能であることから,高アミロース米粉の活用により,嚥下調整食の主食調理が大幅に簡便化されると期待される(芦田ら 2023).

嚥下調整食には,軟らかく,適度なまとまりがあって,粘着性が少ない性質が求められる(坂井ら 2006).具体的な特性値としては,物性測定機器で試料を2回圧縮することで測定可能なTexture Profile Analysisから得られる,1回目の圧縮ピークの高さである“硬さ(軟らかさ)”,2回目と1回目の圧縮ピークの面積比である“凝集性(まとまり)”,1回目の圧縮後の引っ張り過程における負のピーク面積である“付着性(粘着性)”の数値が参考となる(熊谷ら 2019).日本では消費者庁の定める「えん下困難者用食品」の許可基準があり,許可基準I,II,IIIそれぞれで,満たすべき硬さ,凝集性,付着性の範囲が示されている(消費者庁 2019).嚥下調整食分類2021では嚥下機能に応じた嚥下調整食の形態が整理されており(栢下ら 2021),許可基準Iは重度の嚥下障害患者向けの評価・訓練用に相当する.評価・訓練用に次ぐ,主食のある食事として提供する形態の区分に相当するのが許可基準IIの物性である.許可基準IIに定められた硬さ,凝集性,付着性を満たすことで,嚥下調整食として適切な物性になると考えられる.

高アミロース米粉ゼリーのゲル化特性は,高アミロース澱粉のゲル化特性(甘利・中村 1976)に由来する.澱粉ゲルの物性には,アミロースの濃度と温度が影響する(甘利・中村 1976)ことから,高アミロース米粉ゼリーを嚥下調整食として適切な物性で提供するためには,米粉の濃度と調理後の温度を管理することが必要になると考えられる.高アミロース米粉の場合,10倍量の加水では軟らかいゲルになり,6倍量の加水では硬いゲルになる(芦田ら 2019)が,嚥下調整食に適した物性になる10倍量加水付近で米粉の量を僅かに増やした場合に硬さ,凝集性,付着性がどのように変化するのかは明らかでない.また,米粉に10倍量の水を加えて調製した高アミロース米の米粉ゼリーについて,ゲル形成のための冷蔵時間を1.5時間にしても16時間にしても物性が同等であること,冷蔵した高アミロース米粉ゼリーを24°Cあるいは45°Cに再加熱した場合に冷蔵状態よりも軟らかくなるがいずれも嚥下調整食に適合する物性の範囲であること(芦田ら 2023),が報告されている.一方,在宅介護では調理後に自然放冷して提供する場面も考えられる.調理施設では,微生物の繁殖を防ぐために調理物は65°C以上もしくは10°C以下に保管する必要がある(厚生労働省 2017)が,施設によって調理から提供までの時間や温度管理の条件は異なる.米粉ゼリーを適切に利用するためには,調理後に考えられうる様々な温度管理条件を再現して物性を明らかにする必要がある.

これまで,高アミロース米品種「北瑞穂」,「亜細亜のかおり」,「ふくのこ」等について品種別に米粉ゼリーの物性が報告されてきた(芦田ら 20192023).介護食向けの米粉を開発する過程で,高アミロース性遺伝子とアルカリ崩壊性難遺伝子を併せ持つ品種である「亜細亜のかおり」と高アミロース性遺伝子とアルカリ崩壊性易遺伝子を併せ持つ「ふくのこ」を混合した米粉が物性や調理作業の点から優れていることが明らかになってきた(農研機構 2021芦田・藤谷 2023).本研究では,この実用的なブレンド米粉を用いて,喫食時に適切な物性になるような米粉の量と温度管理条件を明らかにすることを目的とした.ブレンドした高アミロース米粉からゼリーを調製して最適な米粉の分量を決定し,その後,実際の提供場面で考えられうる冷蔵提供,冷蔵後に再加熱,自然放冷,高温保管,といった様々な温度で管理した際の物性の変化を調査した.

材料および方法

1. 材料

高アミロース米「ふくのこ」(重宗ら 2019)と「亜細亜のかおり」(松下ら 2020)を使用した.精米を洗浄し,西村機械製作所のスーパーパウダーミル(SPM-R290)を使用して湿式気流製粉を行い,電子レンジで調理が可能になるよう両品種を等量混合したブレンド米粉(農研機構 2021)を使用した.

2. 米粉の分析

米粉のアミロース含有率はヨウ素比色法で測定した(農林水産省 2001).米粉の粒度分布は,レーザー回折式乾式粒度分布測定装置(HELOS-RODOS,Sympatec GmbH, Germany)を用いて累積分布と体積基準頻度分布を測定した.米粉の損傷澱粉はメガザイム社のキット(Starch Damage Assay Kit)で測定した.

3. 米粉ゼリーの調理

ポリプロピレン製の電子レンジ用ラーメン容器(直径20 cm×高さ7 cm)に25~30 gの米粉を入れ,50 gの浄水を加えてスプーンでよくかき混ぜて米粉を分散させた後に200 gの熱湯を加えてスプーンで軽く混ぜ,ごく薄いとろみのある状態にした.直ちに容器に蓋をして500 Wの電子レンジで2分間加熱し糊を調製した.水と熱湯の合計量は250 gとしたため,糊調製時の濃度はそれぞれ,9.1%(w/w) (米粉25 g), 9.4%(w/w) (米粉26 g), 9.7%(w/w) (米粉27 g), 10.1%(w/w) (米粉28 g), 10.4%(w/w) (米粉29 g), 10.7%(w/w) (米粉30 g)であった. 調理後は,直径40 mm,高さ15 mmのステンレス製シャーレに摺り切り一杯充填してラップをし,温度管理を行った.また,調理物を茶碗一杯分(200 g)取り分け,ラップをして室温(25°C)に静置し,温度ロガー(TR42,株式会社ティアンドデイ)で温度を記録した.

4. 温度管理

米粉の濃度を変えた調理物は,ラップをかけた状態で1~2時間4°C下で冷却し,その後24°Cもしくは45°Cに設定した恒温器に移して1時間調温を行った.冷却処理と自然放冷,高温保管が物性に及ぼす影響を解析するためには,9.1%(w/w)の濃度(米粉25 gに水50 gと熱湯200 g)で調製した糊を用いた.(1)冷却処理:4°Cの恒温器内で1~2時間冷却処理を行い,冷却処理したそのものの物性を測定する他,冷却したものを24°C,45°C,75°C,80°Cに設定した恒温器に入れて試料が設定温度になるまで再加熱を行ってから物性を測定した.(2)自然放冷:調理後シャーレに取り分けラップをかけたものを室温(25°C)で静置し,15分ごとにラップを外して物性を測定し,測定直後に米粉ゼリーに温度計を挿入し中心温度を記録した.冷却処理を行わずに室温(25°C)よりも低い10~25°Cでの温度帯の物性を調査する際には,調理後に10°Cあるいは20°Cに設定した恒温庫にラップをかけた試料を静置して適宜取り出し,物性と試料の中心温度を測定した.(3)高温保管:調理後シャーレに取り分けラップをかけたものを65°Cに設定した恒温器に静置した.この時,室温のシャーレにより米粉ゼリーが急冷却されるのを防ぐため,シャーレは予め65°Cに設定した恒温庫内で調温しておいたものを用いた.

5. 物性測定

消費者庁の特別用途食品許可基準測定法に準じて,卓上型物性測定器(TPU-2DL,株式会社山電)を用いて,直径20 mm, 高さ8 mmの樹脂製プランジャーにより,圧縮速度10 mm/s,クリアランス5 mmで2回圧縮した測定プロファイルから硬さ,凝集性,付着性を読み取った(消費者庁 2019芦田ら 2023). 測定は3回行い,Excel(Microsoft)を用いてPearsonの相関係数(r)を求めて相関検定を行い,R(Version4.0.3)を用いてTukeyの多重検定を行った.

結果

1. 米粉の特性

高アミロース米品種「亜細亜のかおり」から調製した米粉のアミロース含有率は27.1%(dry basis),「ふくのこ」の米粉のアミロース含有率は24.4%(dry basis)で,両者を等量混合したブレンド米粉のアミロース含有率は25.7%であった.ブレンド米粉は,20 μm付近と65 μm付近にピークを持つ粒度分布を示し,中位径は31.2 μmであった(Fig. 1).損傷澱粉含有率は1.4%であった.米粉のアミロース含有率は既報(芦田ら 20192023)よりも1~3%低かったが,ブレンドした米粉は25%を超える高アミロース性を示し,粒度分布と損傷澱粉は一般的な米を湿式気流製粉した米粉(Araki et al. 2009)と同等であった.

Figure 1. Particle size distribution of high-amylose rice flour used in this study

Open circles, density distribution; Closed circles, cumulative distribution.

2. 米粉の濃度とゼリー物性の関係

調理時に米粉の量を変化させると物性にどのような影響があるか調べるため,米粉の量を変えてゼリー物性を調査した.電子レンジ調理では,米粉を水に分散させてから熱湯を加えて予めとろみをつけることと,熱湯を加えてから冷めないうちに短時間で沸騰させることで米粉の沈澱を防ぎ,均質なペースト状の糊を調製することが可能であった.米粉に水を加えて加熱糊化させるとペースト状になるが,4°C下で冷却処理するとゲル化しゼリー状になった.冷却処理後に24°Cまたは45°Cのインキュベーターで調温を行った場合,一定量の水に対して米粉の量を増やすと,米粉の量とゼリーの硬さの間には,4°C下,24°C下,45°C下で有意な正の相関が認められた(Fig. 2a).米粉の量は4°C下,24°C下,45°C下のいずれにおいても凝集性とは有意な相関を示さなかった(Fig. 2b).米粉ゼリーの付着性と米粉の量との間には45°C下で有意な相関が認められたが,4°C及び24°C下では有意な相関は認められなかった(Fig. 2c).水250 gに対し,4°C,24°C,45°Cのいずれの温度帯でも硬さが消費者庁のえん下困難者用食品許可基準IIの上限値となる15,000 N/m2消費者庁 2019)より小さくなる米粉の量は25 gであり,濃度でいうと9.1%(w/w)であった.

Figure 2. Texture of rice flour jelly made from different amount of rice flour to 250 g of water

(a) firmness; (b) cohesiveness; (c) adhesiveness. Closed triangles, texture at 4°C; Closed circles, texture reheated at 24°C after cooling treatment at 4°C; Open circles, texture reheated at 45°C after cooling treatment at 4°C. ** means statistically significant correlation at P ‹ 0.01.

3. 冷却条件と再加熱が米粉ゼリーの物性に及ぼす影響

米粉25 gに対し250 gの水量で調理した米粉ゼリー一食分(200 g)を樹脂製茶碗(直径11 cm×高さ7 cm,ポリエチレンテレフタレート製ウレタン塗装)に取り分けて,25°Cの室温に静置した際の温度変化をFig. 3に示す.調理直後の米粉ゼリーの温度は98°Cを超えていたが,茶碗に取り分けると直ちに70°Cまで温度が下がった.茶碗に入れた米粉ゼリーは,30分以内に温かい状態で口に入れられる温度帯である50°Cになった.室温で一時間静置すると40°Cまで温度が下がったが,体温よりは温度が高い状態であった.

Figure 3. Temperature of rice flour jelly per serving when left to cool at room temperature after cooking

米粉25 gに対し250 gの水量で調理した米粉ゼリーを4°C下での冷却処理後に再加熱した場合,及び冷却処理を行わず室温で冷ました場合に,米粉ゼリーの硬さ,凝集性,付着性はどのように変化するのか調査した(Fig. 4).米粉ゼリーの硬さは,調理直後は低く,温度が下がると上昇した.室温で放冷した場合の硬さは,冷却処理後に再加熱した場合よりも低かった(Fig. 4a).硬さの値が2,500 N/m2より小さい場合は,ゲルというよりもゾルに近い性状であった.冷却処理した場合は,80°Cまで再加熱してもゲル状を保っており,4~80°Cの温度帯での硬さの振れ幅は,冷却処理したものの方が小さかった.室温で放冷した米粉ゼリーの凝集性は冷却処理したものよりも大きかった(Fig. 4b).付着性については,室温付近では冷却処理したものと室温放冷したものの数値が近くなるが,低温や高温の温度帯では,室温で放冷したものの方が小さい値を示した(Fig. 4c).

Figure 4. Texture of rice flour jelly under different temperature profile

(a) firmness; (b) cohesiveness; (c) adhesiveness. Open triangle, immediately after cooking; open circles, natural cooling; closed triangle, cooling treatment at 4°C; closed circles, reheated after cooling treatment; error bars, standard deviation (n = 3).

4. 高温で保管した場合の米粉ゼリーの物性

米粉25 gに対し250 gの水量で調理後の米粉ゼリーを65°Cに予熱しておいた物性測定用シャーレに小分けした直後に65°Cの恒温庫に保管した場合の物性変化を調べた.シャーレに分注した0分の時点で,米粉ゼリーの温度は約70°Cであった.硬さの値は0分から15分にかけて上昇したが,その後有意な変化はなく90分経過してもペースト状のままでゲル化することはなかった(Fig. 5a ).凝集性や付着性には有意な変化は認められなかった(Fig. 5b, c ).

Figure 5. Texture of rice flour jelly which kept at 65°C after cooking

(a) firmness; (b) cohesiveness; (c) adhesiveness. Different letters indicate significant differences between times (Tukey’s HSD, p ‹ 0.05). Error bars, standard deviation (n = 3).

考察

高アミロース米粉から調製したゼリーについて,軟らかく飲み込みやすい物性になる加水量である10倍量付近で一食分量当たりの米粉の量を1 gずつ増やした場合に,ゼリーの物性は米粉の量に応じて変化する項目と,変化しにくい項目があった.高アミロース米粉ゼリーを調理する際,一定量の水に対する米粉の量と得られるゼリーの硬さとの間には4°C,24°C,45°Cの温度において有意な正の相関関係が認められ,250 gの水に対して米粉を25 gから1 gずつ増やすと硬さは線形的に増加することが示された(Fig. 2a ).口の中で少しつぶして飲み込める性状のものを規定する消費者庁のえん下困難者用食品許可基準II(基準II)では,硬さの範囲が1,000~15,000 N/m2となっている.水の量250 gに対して,4°Cから45°Cのいずれの温度帯でも基準IIの範囲の硬さになる米粉の量は25 gであった.室温付近(24°C)から温かい状態(45°C)でのみ食べるのであれば,水の量250 gに対して米粉を28 gまで増やすことが可能であると考えられた.基準IIでは,凝集性(0.2~0.9)と付着性(1,000 J/m3以下)の範囲も規定されている.本研究で用いた高アミロース米粉は,水250 gに対し27 gもしくは30 gで得られるゼリーの付着性の値が基準IIの範囲を超えたが,凝集性の値はいずれも適切な範囲に収まった.米粉の量は付着性と凝集性とは有意な相関を示さなかったため,米粉の量を変化させた際に最も影響を受ける物性値は硬さであり,調理の際に硬さの値が適切になるように米粉の量を調節する必要があると考えられた.米粉ゼリーは甘く味付けしてデザートとして冷蔵状態で食べたり,味付けせず主食の粥として加温して食べたり,様々な温度帯で喫食される可能性があるため,4~45°Cの範囲で適切な硬さになる米粉の量にすることが望ましい.本研究で用いた米粉の場合は,水250 gに対して米粉の量は25 g(米粉の濃度9.1%(w/w))が最適であると考えられた.

次に,最適と考えられた米粉25 gと水250 gの分量で米粉ゼリーを調理し,実際の提供場面で考えられうる調理後の温度条件を実験室レベルで再現して物性の変化を確認した.調理後に冷蔵保管して低温のまま提供あるいは再加熱して提供することを想定した場合,温度によって変化はあるものの,硬さ,凝集性,付着性ともに基準IIに入る物性を示した(Fig. 2 , Fig. 4)高アミロース米粉をゲル化させる際に,4°Cでゲル化させた場合には,20°Cでゲル化させた場合よりも硬く堅牢なゲルになることが確認されていた(芦田ら 2023).よって,これまで高アミロース米粉から米粉ゼリーを調理する際には,調理後に4°Cの冷蔵庫に入れて冷却処理を行ってゲル化させてきた.本研究でも米粉25 gと水250 gの割合で調理した米粉ゼリーは,自然放冷したものと冷却処理後に再加熱したものとで物性の変化の様子が異なった(Fig. 4).調理後の米粉ゼリーを茶碗一杯分分け取り室温下で静置した場合,米粉ゼリーの温度は少しずつ下がることが確認できたが,1時間経過しても体温よりは温度が高い状態であった(Fig. 3).米粉ゼリーの温度が徐々に低下した場合,米粉ゼリーの硬さは徐々に増加したが,室温の25°C付近で硬さは急激に上昇した(Fig. 4a).調理直後から室温まで自然放冷した場合でも米粉ゼリーの物性は基準IIの範囲に収まったが,食事に1時間以上かかる場合には物性の変化に注意する必要があると考えられた.一方,調理後に冷却処理を行い再加熱した米粉ゼリーは,80°Cに再加熱しても硬さの値は約6,000 N/m2で流動性のないゲル状を保っており,冷蔵から再加熱した場合の硬さの変化幅は小さかった.調理後の冷却処理は物性の変化を小さくするためには有効であると考えられた.小規模施設や在宅介護では調理後に小分けし,食べる直前に,嚥下障害患者が飲み込める温度まで喫食者あるいは介護者が息を吹きかける等の操作により粗熱を取ってから喫食すると考えられる.室温で自然放冷しても温かい状態で飲み込める適温である45°C付近ではゼリー状となり,物性値も基準IIに入ることから,冷却処理を省略しても適切な物性の米粉ゼリーが提供可能であると考えられた.

大規模調理施設では調理後の微生物の増殖を抑えるために,食事を65°C以上もしくは10°C以下で保管する必要がある(厚生労働省 2017).病院や介護施設では主食の提供時に65°Cに設定した温冷配膳車の温蔵庫が一般的に使われる.本研究では調理直後に65°C下で保管した米粉ゼリーは,ゲル化が進まず流動性を有していた.糊化させた米粉は,シャーレに分注した直後に70°Cから65°Cに温度が下がる過程で有意に硬さの値が上昇したが,その後は65°C下で90分間保管しても物性の有意な変化は認められず,硬さ,凝集性,付着性いずれも基準IIに入る物性値を示した(Fig. 5).このことは,調理後,病院や施設で使われる温冷配膳車の温蔵庫に保管しても米粉ゼリーを適切な物性で提供できることを示している.

介護現場の調理形態や患者の病態は多様である,高アミロース米粉を利用した主食をゼリー状に固めたい場合や物性を安定させたい場合には調理後に急冷した後,再加熱して提供するのが望ましい.より軟らかい方が容易に嚥下できる患者に対しては自然放冷もしくは高温庫に保管してから手元で粗熱を取って提供するのが適していると考えられた.

嚥下調整食は,個々の嚥下機能に応じて適宜調整して提供することが望ましい.高アミロース米粉ゼリーの物性は,米粉の濃度だけでなく調理後の温度管理によっても調節可能であることが示された.えん下困難者用食品許可基準IIの物性内でも,硬さ1,000 ~15,000 N/m2で食べやすさは大きく異なる.濃度や調理後の温度管理だけで幅広い物性に調整可能であることは高アミロース米粉ゼリーの利点であると考えられる.

謝辞

本研究は,生研支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業(JPJ007097)」の支援を受けた.製粉に協力いただいた株式会社図司穀粉の図司一智氏に深謝する.研究補助いただいた横山眞弓氏と山崎望氏に感謝申し上げる.

利益相反の有無

農研機構と株式会社フードケア,株式会社図司穀粉は「米粉含有組成物及びゲル状食品素材の製造方法」に関する特許を出願している(特開2023-74961).芦田かなえはこの特許の発明者である.他の著者は開示すべき利益相反はない.

引用文献
 
著者は自身の論文の著作権を保持し、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構に対し農研機構研究報告からの論文の出版を許諾する。
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