ストレスなどが原因の軽度な心身不調(軽度不調)に悩む人が増えている.我々は機能性成分(β-グルカン,GABA,フルクタン)を多く含む大麦「北陸裸糯68号」を使った蒸し大麦(試験食)または標準的な大麦「イチバンボシ」の蒸し大麦(対照食)を44人の健康な成人に8週間摂取させ,体調(軽度不調を含む精神状態,排便状態,体組成)への影響を調べた.職業性ストレス調査票B領域を用いた主観による軽度不調の判定4項目のうち,「活気」の値が試験食群で対照食群より摂取8週後に有意に高く,「疲労感」の値が低い傾向があったが,「イライラ感」,「身体愁訴」では群間の差はなかった.精神状態の主観評価では試験開始からの変化で試験食群は対照食群よりも4週後に「心が穏やかである」,「熟睡感がある」で評価が高い傾向があったが,8週後は群間の差はなかった.また試験食群は対照食群より排便回数が多かったが両群とも正常な範囲内であった.体組成に群間の差はなかった.機能性成分高含有大麦の摂取が軽度不調の緩和や良好な精神状態もたらす可能性が示唆されたものの,その影響を明らかにするためには,引き続き摂取期間や客観的指標の追加などの検討が必要である.
嚥下障害患者のために飲み込みやすく調製した食事が嚥下調整食である.嚥下調整食の主食として粥をミキサーにかけてゲル化剤で固めた粥ゼリーを提供するが,その調理には手間と時間がかかる.高アミロース米の粉に対し10倍量の水を加えて加熱し冷却すると,軟らかく飲み込みやすいゼリー状になるため,主食調理の簡便化に有用であると期待される.一方,澱粉ゲルの物性は濃度と温度によって変化するため,高アミロース米粉ゼリーを適切に提供するためには濃度調整と温度管理が必要になる.そこで,適切な米粉の分量を検討するとともに,調理後に様々な温度管理を行った際の高アミロース米粉ゼリーのテクスチャーを調べることで,適切な温度管理条件を検討した.4°C,24°C,45°Cいずれの温度帯でも米粉の量と米粉ゼリーの硬さとの間には有意な正の相関が認められ,一食分の調理で適切な物性になる米粉の濃度は9.1%(w/w)であった.9.1%(w/w)の濃度で調理した米粉ゼリーは,調理後に冷蔵庫で冷却する操作を行っても,室温で自然放冷した場合でも,高温で保管しても,介護食として適切な物性であることが確認できた.米粉の濃度だけでなく温度管理によって,嚥下機能に応じた物性調節が可能であることが示された.
本研究は,大規模水稲作経営において,圃場別に収量コンバインで推定した収量と,網羅的に収集した栽培管理データをデータセットに統合して解析し,翌年の収量向上のための改善を進める「データ駆動型生産」の効果を定量的に検証することを目的とした.茨城県南部の経営体における約160 haの作付圃場すべてを対象として,研究プロジェクトに参画した2019年から2023年までの5年間,データを収集した.実施した主要な改善策とその効果は以下の通りである.有利販売の可能な低アミロース品種や糯品種の移植時期を繰り上げたことにより,出穂期が早まって登熟期間の良好な気象条件が確保されて,収量が安定した.「コシヒカリ」の作付を大区画圃場のあるブロックに集約したことで,作業能率が向上し,適期作業が可能になった.早生品種は周辺圃場より出穂が早いため,カメムシ防除を2020年から実施したことで,被害の集中を軽減した.さらに,水利の制約により移植時期が遅い圃場ブロックに耐倒伏性のある中晩生品種を配置したことで,ドローンを活用した2回追肥での多肥栽培が可能となり,収量が安定した.これらの改善により,茨城県南部の平年収量を10%以上上回る収量向上を実証した.
農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の昆虫標本館は,アジア有数の昆虫標本コレクションを収蔵しており,その中には非常に重要な担名タイプ標本も多数含まれている.しかし,昆虫標本館では,安全上のリスクがある旧式のポリフォーム敷きの標本箱を使用して担名タイプを保管していた.そこで,本研究では,昆虫標本館の担名タイプの管理状況の改善を目的とし,ユニットボックスを活用した現代的な標本管理システムへの移行作業を実施した.本稿では,その移行作業の成果を報告し,担名タイプなどの貴重な標本を管理する際のユニットボックス利用の意義を議論する.
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