農研機構研究報告
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ミニレビュー
新規資材「糖含有珪藻土」を活用した土壌還元消毒技術
野見山 孝司
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2025 年 2025 巻 20 号 p. 53-

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要旨

土壌還元消毒は,土壌に易分解性の有機物を混和後に灌水,被覆して,30°C以上の高い地温を維持することで,土壌中の微生物を活発に増殖させ,酸素が欠乏した還元状態で生じる複数の作用で土壌病害虫を防除する,化学農薬に頼らない環境保全型の土壌消毒技術である.土壌還元消毒資材として用いる糖含有珪藻土は,食品製造工程等においてでん粉の糖化液を珪藻土でろ過する際に産出される副生物であり,固形で取り扱いやすい上に,含有する糖が灌水中に溶出して,深さ約60 cmまで浸透して土壌を還元化する。その結果,深層部に生息する病原菌や線虫を消毒でき,米ぬかや糖蜜等の既存の土壌還元消毒資材にはない優れた特徴を有する.糖含有珪藻土を用いた土壌還元消毒は,施設栽培でのナス科野菜の青枯病や線虫害,サツマイモ苗床での基腐病の防除対策などに活用され,高い防除効果を示す.本法は,世界的な意識の高まりを見せいている持続可能な農業を推進していく上での主要な土壌消毒技術の一つであり,今後のさらなる普及拡大が期待される.

Summary

Anaerobic soil disinfestation is an environmental conservation soil disinfestation technique that does not rely on chemical pesticides, in which easily decomposable organic matter is mixed into the soil, followed by flooding and covering the soil, and maintaining a soil temperature of 30°C or higher to actively grow microorganisms in the soil and control soil borne diseases and pests through multiple actions that occur in a reducing state with a lack of oxygen. Sugar-containing diatomite used as an anaerobic soil disinfestation material is a by-product produced when saccharified liquid of starch is filtered through diatomite in food manufacturing processes and so on. Sugar-containing diatomite is powder and easy to handle, and the sugar contained in it dissolves in the irrigation water and penetrate to a depth of about 60 cm to reduce the soil. As a result, it can control pathogens and nematodes that live deep in the soil and has excellent characteristics that have not been seen in the previous materials such as wheat bran and molasses. Anaerobic soil disinfestation method with sugar-containing diatomite has been used to control bacterial wilt and root-knot nematodes in solanaceous plants grown in greenhouses, and to control foot rot of sweet potato in seedbeds and has shown high control effects. This method is one of the main soil disinfection techniques for promoting sustainable agriculture, a trend that is gaining global attention, and it is expected to become even more widespread in the future.

はじめに

同じ圃場で同じ農作物を栽培し続けると,土壌中では特定の病害虫の密度増加や肥料成分の偏りなど土壌の生物的,理化学的なバランスが崩れてしまい,連作障害を引き起こす.輪作により様々な農作物を交代しながら栽培すると連作障害を回避できるが,現代の産地化された生産体系において輪作は困難であり,一般的には土壌くん蒸剤を用いて土壌消毒を行い,連作障害を防いでいる.

このような状況にありながら,昨今,化学農薬や化学肥料の使用による環境負荷の軽減に配慮した持続的な環境保全型農業に対する意識が高まっている.2015年に国連が定めたSDGs(持続的な開発目標)では,2030年までに達成を目指す17の開発目標の一つに「2.飢餓を終わらせ,食料安全保障及び栄養改善を実現し,持続可能な農業を促進する」を掲げており,農林水産省も生産性を上げつつも環境と調和した持続可能な農業の実践を推進している(農林水産省 2018).また,2021年に農林水産省は,食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現するために「みどりの食料システム戦略」を策定し,持続可能な食料システムの構築に向けて,積極的な取り組みを進めている(農林水産省 2021).そのうち,化学農薬に関しては,2050年までに使用量(リスク換算)の50%低減を目標としている(中間目標として2030年までに10%低減).2019年時点では,主要な土壌くん蒸剤3種(クロルピクリンくん蒸剤,ダゾメット粉粒剤,D-D剤)が農薬使用量のリスク換算値の約51%を占めており,これらの使用削減に向けた取り組みが喫緊の課題となっている(原田 2022).

化学農薬を用いない土壌消毒技術として,湛水と太陽熱土壌消毒が古くから知られている.水田では水稲栽培時に湛水と落水を繰り返す.湛水時には土壌環境は酸素が欠乏する還元状態になり,病害虫の増殖が抑制されるとともに,灌漑水から養分が供給される.落水時には酸素が供給されて酸化状態になり,土壌環境が湛水時とは逆に大きく変化することで土壌のバランスが維持されるため,水田で毎年水稲を栽培しても連作障害は発生しない.しかしながら,畑地において湛水を実施することは容易ではない.また,太陽熱土壌消毒は最大容水量の6割程度の水分状態で地表面をフィルム被覆し,太陽熱を利用して,深さ15~20 cmの地温を40~45°C以上に上昇させて,約1か月間維持することで病害虫を死滅させて物理的に土壌を消毒する(芳岡,小玉 1982菱池 2016).稲わらや牛糞などの有機物をすき込み,有機物の嫌気的分解の際に土壌の還元形成を促し,消毒効果を高めることができる.しかしながら,太陽熱土壌消毒は晴天時に地温を高めることが不可欠であるため,天候不順な場合には消毒効果が安定しない.

土壌還元消毒は,これらの技術を土台として既存の方法よりも安定して高い効果が得られることを目的として開発された(新村 2010).土壌還元消毒は消毒時に土壌中の酸素が消費され,酸化還元電位が低下して還元状態になることから名付けられ,土壌に有機物を混和して湛水することにより水田土壌の状態を人為的に作り出して消毒する.土壌還元消毒は化学農薬を用いなくても種々の土壌病害虫に対して高い防除効果を示すことから非常に注目され,新たな有機物資材の作出,効果的な処理方法,消毒メカニズムの解明などの研究開発が進むとともに,持続可能な農業を推進していく上で必要不可欠な環境保全型の土壌消毒技術として,実際の生産現場での取り組みも広がっている.

技術の概要

1.土壌還元消毒について

土壌還元消毒は,土壌中を酸素の少ない還元状態にすることで病害虫を死滅させる,化学農薬に頼らない環境保全型の物理的な土壌消毒法である.土壌還元消毒では,まず初めに易分解性の有機物を圃場全面に土壌混和する.次に,圃場全体が湛水状態になるようぬかるむまで灌水して,地表面を透明フィルムで被覆し,新たな空気の流入を遮断する.太陽熱の作用で30°C以上の高い地温を維持し,土壌が湿潤したまま3週間から1か月間維持すると,土壌中では好気的な状態から酸素が欠乏した嫌気的な状態(還元状態)へと変遷する.多くの病原微生物は好気性であり,土壌還元消毒により生育が抑制される.

混和する有機物には微生物によって分解されやすいものが選ばれ,当初は小麦フスマや米ぬか,糖蜜が代表的であったが,最近では,本稿で紹介する糖含有珪藻土(農研機構 2021b)以外にも,糖蜜吸着資材(農研機構 2021b),低濃度エタノール(農研機構 2021a),カラシナ(農研機構 2019a)などの従来の土壌還元消毒資材の短所を補った新たな資材が複数開発,利用されている.有機物を混和して湛水,被覆すると,処理開始時には土壌中の好気性微生物が酸素を消費しながら有機物を用いて急激に増殖する.湛水により土壌中の空気は押し出され,また,被覆により新たな空気の供給は絶たれているため,好気性微生物が増殖するにつれて土壌中の酸素は欠乏してゆき嫌気状態になる.この時,土壌の酸化還元電位は+600 mV程度から-200 mV程度まで低下する.還元的な土壌環境では嫌気性微生物が優先的に活動するようになり,有機物は二酸化炭素と水にまで分解されずに酢酸,酪酸などの有機酸が蓄積し,鉄やマンガンは酸化物として不溶化した状態から二価イオンに還元されて溶出する.これらの有機酸や金属イオンは病原微生物に対する殺菌作用を有している.

土壌還元消毒による消毒作用のメカニズムには,(1)還元状態における低酸素濃度,(2)太陽熱による高温,(3)還元状態で生成する酢酸や酪酸等の有機酸,二価鉄や二価マンガン等の金属イオンによる抗菌活性,(4)土壌微生物の競合などの複合的な要因が関与していると考えられている(図1).土壌還元消毒は管理のしやすさから主に施設栽培で実施され,複数の農作物の細菌病害(青枯病など),糸状菌病害(フザリウム病害,基腐病など),線虫害などの防除に用いられている.

図1. 土壌還元消毒の消毒メカニズム

農研機構(2021b)より転載.

2.糖含有珪藻土について

糖含有珪藻土はでん粉の糖化液を珪藻土でろ過する食品製造工程等で産出される副生物である(図2).キャッサバ,トウモロコシなどを原料にタピオカスターチ,コーンスターチなどのでん粉が精製され,さらに発酵処理によりアミノ酸製品が,また,酵素処理して異性化糖や水飴などの様々な糖化製品が製造される.でん粉糖化液から不純物をろ過して除去する際に珪藻土を用いる場合には,糖含有珪藻土が副産物として大量に排出されるが,未利用の炭素源を多く含んでおり(農研機構 2021b),廃棄せずに有効活用することが求められていた.そこで,糖含有珪藻土を土壌還元消毒資材として用いたところ,(1)固形資材であり小麦フスマや米ぬかのように取り扱えて簡便に散布できる,(2)含有する糖が灌水時に溶け出して糖蜜と同じように60 cm程度と地下深くまで浸透して土壌を還元できる,(3)窒素分が少ないために処理時のドブのような還元臭が抑えられるなどこれまでの資材にはない優れた特徴を有することが明らかとなった.

青枯病菌や線虫は地中深くまで生息しているため,小麦フスマや米ぬかを用いた従来の土壌還元消毒では資材がすき込まれる深さ20 cm程度までしか還元できずに消毒が不十分である.また,糖蜜は水溶性で地下深くまで浸透して土壌を還元化できるが,処理に当たって粘度の高い原液を希釈しなくてはならず,多大な労力と時間を要する.これらの資材を糖含有珪藻土に切り替えることで,軽労かつ土壌深層部まで還元可能な効果の高い土壌還元消毒を実施することができる.

糖含有珪藻土の特徴を表1に示す.現在では,当初のプロジェクトで開発した味の素株式会社製の「糖含有珪藻土」以外にも,同等の資材として株式会社サナス製「糖含有珪藻土」(九州・沖縄限定販売),イノチオホールディングス株式会社製「かんげん丸」,片倉コープアグリ株式会社製「ソイルチェンジャー」(関東・東北限定販売)が市販されている(2024年8月時点).

図2. 糖含有珪藻土
表1.土壌還元消毒資材の経費と特徴


農研機構(2021b)を改変し作成.

処理方法および手順

施設栽培でのナス科野菜の青枯病や線虫害の防除対策に糖含有珪藻土を用いた土壌還元消毒を実施する場合の基本的な処理方法について,各工程でのポイントを紹介する.深さ40~60 cmまでの平均地温が30°C以上を確保できることが重要になるため,処理時期は夏季(6~9月)が適している.処理の詳細については,関連する技術マニュアルなど(農研機構 2019b2021b)を参考にされたい.作業の基本が確実に押さえられていれば,実際の圃場条件に応じて改変することは可能である.

1.散布

糖含有珪藻土は10 a当たり1トン(1 m2当たり1 kg)を圃場全面に均一に散布する.小面積であればスコップ・シャベル等を用いた手作業でも十分に散布できるが,大面積になるとブレンドキャスタやライムソーワなどの散布機械を用いた方が作業を効率良く進められる(図3a).

2.耕うん

資材が土壌とよく混和するように,トラクターで2,3回ロータリー耕起する(図3b).できるだけ深くまで耕起して資材を混和させると,土壌深層まで消毒効果が高まる.高低差があると灌水むらが生じるため,均平に耕うんする.排水性が良い圃場では,耕うん後にトラクターやクローラーを走らせて圃場全面を鎮圧することで,土壌の空隙が狭まって水を貯めやすくなり,湿潤状態を長期間維持できるようになる.

図3. 糖含有珪藻土を用いた土壌還元消毒の処理作業

マルチスプレッダによる糖含有珪藻土の散布(a),耕うん(b),灌水チューブの敷設(c),被覆および灌水(d).

3.灌水および被覆

圃場全面に均一に灌水できるように散水型の灌水チューブを60 cm~1 m間隔で敷設する(図3c).次に,全面を透明な農業用フィルムで被覆し,空気が流入しないようにフィルムの端を固定してから灌水を開始する(図3d).通常,10 a当たり100~150トン(1 m2当たり100~150 L)もの多量な灌水を行い,圃場全体をぬかるませる.農業用支柱を小刻みに底に達するまで突き刺して引き上げると,泥水の付いた長さから水のたまり具合を把握できる.圃場の数地点で調査し,全体的に60 cm以上突き刺さることを確認する.灌水チューブや農業用フィルムは破損箇所を補修してあれば,中古品を再利用できる.灌水チューブ以外を用いて灌水する場合には,先にぬかるむまで灌水した後に被覆するため,被覆作業に労力を要する.その後,出入口や天窓・側窓を閉め切って地温を上げ,湿潤状態を3週間程度維持する.

4.消毒中および消毒後の対応

土壌の還元化が進行すると,消毒開始3日から5日後に還元臭(小麦フスマや米ぬかの場合より弱い)がかすかに漂い始める.消毒中に地表面が乾燥してくれば,追加的に灌水して湿潤状態を保つ.土壌の還元形成は,還元臭の発生以外に,土壌色の青灰化や二価鉄イオンを感知して赤変するジピリジル反応により判定する.

消毒終了後,還元状態のまま定植すると生育障害をきたすため,被覆を除去して圃場を乾燥させ,還元臭が消えるまで何度か耕うんし,土壌に酸素を供給して酸化状態に戻す.

施肥に関して,土壌還元消毒により土壌中の窒素が無機化されて作物に利用されやすくなるため,基肥を減らして樹体の生育状況を見ながら追肥で調整する.

消毒効果

1.ナス科野菜青枯病

ナス科野菜青枯病は,ナス科野菜(トマト,ナス,ピーマンなど)の防除困難な重要土壌伝染性病害である.高温期に植物体が青枯病菌(Ralstonia solanacearum)に感染すると,発病初期は日中に茎頂部が萎れる程度で夜間には回復するものの,次第に症状はひどくなり,最終的には株全体が萎凋して枯死する(図4a).防除が不十分なまま連作を続けると土壌中の菌密度が高まり,圃場全体にまん延して作物を全滅させ甚大な被害を及ぼすこともある.また,近年の温暖化の影響で発病に好適な高温にさらされる時期や地域が拡大しているため,さらなる被害拡大が危惧されている.通常の土壌消毒だけでは深層部まで効果がなく病原菌が生残するため,耐病性台木品種を用いた接ぎ木栽培を併用して発病を回避する場合が多い.

青枯病の汚染圃場で糖含有珪藻土を用いた土壌還元消毒を行ったところ,地下60 cm程度まで還元されて深層部の青枯病菌も消毒されており,消毒後にトマトを栽培すると発病を低く抑えた(図5).適切な時期に消毒した上で接ぎ木栽培(高接ぎ木はより効果が増す)も併用することで,複数作が経過しても効果は持続した(図6).

図4. 様々な土壌病虫害

トマト青枯病(a),根こぶを形成したトマト根(b),サツマイモ基腐病(c,幼苗).

図5. 糖含有珪藻土を用いた土壌還元消毒のトマト青枯病に対する防除効果

農研機構(2021b)より転載.

図6. 糖含有珪藻土を用いた土壌還元消毒のトマト青枯病に対する防除効果の持続性

農研機構(2021b)を改変し作成.

2.ネコブセンチュウ

ネコブセンチュウは農業生産上最も重要な植物寄生性線虫であり,果菜類,根菜類,果樹,花きなど数百種の植物に寄生する.国内では,サツマイモネコブセンチュウ,アレナリアネコブセンチュウ(本州型・沖縄型),キタネコブセンチュウの3種が広範に被害を及ぼしている.ネコブセンチュウが根に侵入すると,組織内で増殖して大小多数のこぶ(根こぶ,ゴール)を形成する(図4b).根こぶが形成されると養水分の吸収が阻害されるため,生育が悪化するばかりでなく,根の損傷部位から他の病原菌が侵入しやすくなり発病を助長する.ネコブセンチュウは地中深くまで生息しており,化学農薬や太陽熱を用いた通常の土壌消毒法では地表面から20 cm程度までしか消毒できないため,深部で生き残ったセンチュウが次作の早い時期から寄生することが問題となっている.

糖含有珪藻土を用いて土壌還元消毒を行うと,地表付近の作土層(0~30 cm)から深層部(45~60 cm)までネコブセンチュウが検出できなくなり,トマトを栽培しても根こぶは確認されず,高い防除効果を有することが示された(図7).

図7. 糖含有珪藻土を用いた土壌還元消毒の根こぶに対する抑制効果

農研機構(2021b)を改変し作成.

3.サツマイモ基腐病

サツマイモ基腐病は,発症すると地際の茎基部が褐変する(図4c ).症状がひどくなると病斑が全身に拡大し,枯死して収穫ができなくなるサツマイモの重要病害である.本病は主要産地の南九州・沖縄地域で2018年に初めて発生が確認され,地域産業に深刻な被害を与えている.防除する上ではサツマイモ基腐菌(Diaporthe destruens)を圃場に「持ち込まない」,「増やさない」,「残さない」ことが重要であり,罹病残渣は次作の伝染源となる.健全苗を育成するためには汚染苗床の清浄化が不可欠であり,通常は化学農薬を用いて消毒するものの,環境意識の高まりや人家や鶏畜舎の近くでは農薬使用に制約があるため,現地試験を複数回実施して当該地域の苗床に即した土壌還元消毒法を開発した(野見山ら 2024).作業は資材散布量や灌水量を含め通常通りであるが,大半のハウスでは灌水用のスプリンクラーが頭上に設置されているため,新たに灌水チューブを設置せずに頭上スプリンクラーをそのまま灌水に用い,一昼夜散水すれば十分灌水できることを確認した.その際,消毒中に土壌が乾燥しても追加灌水ができないため,資材混和後の鎮圧を標準作業として取り入れ,あらかじめ土壌の保水性を高めた.鎮圧によりぬかるみが軽減されるため,灌水後に被覆する際に足が取られず作業の軽労化に寄与する副次的効果も得られた.また,初夏の育苗終了後に風雨対策で施設の外張りを外すことから,消毒中に施設を密閉できずに露地と同じ条件になるため,地温の上昇不足が懸念されたが,9月上旬までに処理を開始することで,深さ15 cmでの平均地温は30°Cを超えて支障は生じなかった.

春の育苗期の発病株率が10%以上だった現地生産者の苗床で夏季に糖含有珪藻土を用いた土壌還元消毒を実施したところ,翌春の育苗時には基腐病は発生せずに防除効果を有しており(図8),防除対策の一環として実施できることを明らかにした.

図8. 糖含有珪藻土を用いた苗床土壌還元消毒のサツマイモ基腐病に対する防除効果

2022 年春の育苗期に基腐病の発病株率10%以上の苗床において同年8月に土壌還元消毒を実施したところ,翌2023 年春に発生は確認されなかった(2023 年4 月撮影).

おわりに

糖含有珪藻土を用いた土壌還元消毒は,処理が簡便でありながら土壌深層部まで還元化して,ナス科野菜,ウリ科野菜,軟弱野菜,花き,サツマイモなどの様々な土壌病害虫に高い防除効果を有する.みどりの食料システム戦略の実現に向けて,全国各地でそれぞれの産地に適した「グリーンな栽培体系」に取り組んでいる中で,鹿児島県曽於市と埼玉県本庄市で実施された糖含有珪藻土を用いた土壌還元消毒の成果がマニュアルとして公開されており(鹿児島県 2023埼玉県 2023),今後,本技術が国内各地で広く実証・実装されて,持続可能な農業の推進に寄与することが期待される.

深刻化する気候変動,農業従事者の減少,生産コストの上昇,食料安全保障の確立など農業が直面する課題が山積する中で,2024年6月に四半世紀ぶりに改正された食料・農業・農村基本法では,基本理念として「環境と調和のとれた食料システムの確立」を掲げ,基本施策として「環境への負荷の低減の促進」を定めている(農林水産省 2024).本技術は,化学農薬に頼らないにもかかわらず土壌病害虫に対して高い防除効果を有する環境調和型の土壌消毒法である.それに加えて,作業面では,化学農薬防除と比較して労力的,時間的に大きく変わるものではなく,コスト面でも,糖含有珪藻土は食品製造時等で大量に副生されるものであり,資材の流通量が増えれば現状よりも資材費を下げられる可能性がある.

さらなる普及に向けた今後の技術的な課題としては,(1)露地圃場への展開,(2)処理適期の拡大,(3)少量灌水での還元状態の形成・維持方法や(4)密閉効果が高く簡易な被覆方法の開発,(5)土壌微生物叢の機能解明などが挙げられる.これらの課題を克服することで,本技術は将来にわたる安定的な農業生産の維持に貢献できる.

謝辞

本研究は,戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「次世代農林水産業創造技術」(管理法人:生研支援センター)および生研支援センターの戦略的スマート農業技術等の開発・改良(JPJ011397)「輸出拡大のための新技術開発」「かんしょ輸出産地を支えるサツマイモ基腐病総合的防除体系の開発」(2022~2024年度)の支援を受けて実施した.これらのプロジェクト遂行にご尽力いただいた関係諸氏に深く感謝する.

利益相反の有無

著者は開示すべき利益相反はない.

引用文献
 
著者は自身の論文の著作権を保持し、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構に対し農研機構研究報告からの論文の出版を許諾する。
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