2018 年 43 巻 p. 83-93
19世紀のイギリスにおいて,自由教育論争と呼ばれる,自由教育の教育内容をめぐる論争がさまざまな論者によって展開された。その代表的な論者とされるハクスリーとアーノルドは,論文や講演を通じて直接論争を行い,二人による論争は,従来,科学と文学の対立とみなされてきた。本稿では,この両者による論争を両者がそれぞれにとり戻すことを試みた「古代ギリシャの精神」との関連のなかで検討することを目的とした。本稿での検討を通じて,両者の教養概念においては,ハクスリーが,古代ギリシャで見られた真・善・美と実用性の対立を,真から善・美と実用性が導かれる関係へととらえ直すことで,対立を解消するよう試みたのに対して,アーノルドは,真・善・美の復興によって,実用性との対立を和解させようとした点に両者の差異が見られたこと,さらに,その根底には,「知ること」という認識価値と「行うこと」という人格価値の関係を,ハクスリーが一元的にとらえていたのに対して,アーノルドは二元的にとらえていたという差異が見られたことを指摘した。さらに,両者の差異から,カリキュラムを編成する際の構成原理の対照性の萌芽も見いだされることを指摘したうえで,両者の教養概念の意義と課題を明らかにした。