教育方法学研究
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原著論文
上田薫の授業研究論に関する一考察
教師の成長・自己変革を重視した授業研究の理論と方法に着目して
杉本 憲子
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2020 年 45 巻 p. 61-71

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抄録

本研究の目的は,上田薫の授業研究論に着目し,上田の授業研究の理論と研究方法論において,教師の成長・自己変革がどのように位置づけられ,展開されているのかを明らかにすることである。

本稿では,第一に,上田の授業研究とその方法論の特質を明らかにするため,上田がどのような視点に重点を置いて授業をとらえたか,どのような記録・資料を重視したかに着目した。上田は,授業記録の立体化を図り,教師の心の動きや考えの転換などを含めて,計画の変更の過程を明らかにし,教師の見方とその変化に焦点を当てることを重視した。第二に,上田の考え方を具体化した研究方法であるカルテと座席表に着目し,とくにカルテの活用を通しての教師の成長・自己変革の過程を明らかにした。第三には,これらの上田の授業研究の考え方や方法論の基盤にある動的相対主義の理論について検討し,教師の自己変革の鍵となる驚きと予測について考察した。

考察を通して,教師自身の見方の自覚とその変容を促す意味で,授業を構想する段階での教師の予測・子どもの見とりの重要性が示唆された。また実際の授業において,予測通りにいかなかった場面や,子どもの発言・動きへの驚きを,教師の見方の変容の契機として受け止める省察の場のあり方,子どもと同様に教師も不完全な一人の人間であり,それを自覚しながら授業改善や自己の成長を図るという基本的な姿勢の重要性が明らかとなった。

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