デカルトは最初のオランダ滞在時に,当地の学者ベークマンと共同で数学的自然学の研究に従事したことが知られている.両者が交わした1619年の6通のラテン語書簡には,その交流のありさまが仔細に描かれている.本稿はその翻訳・注解である.話題は,音楽論,新しいコンパスの考案,角の三等分と三次方程式,新学問の構想,ドイツへの旅の計画,天測による航海術,機械学,ルルスの術,アグリッパなどである.たしかに,デカルトはべークマンから数学と自然学とを結合する発想を得た.だが,後者の研究がどこまでも自然学の枠内にとどまるものであったのに対して,デカルトの構想する新学問はその普遍性においてベークマンを超えるものであった.後年の確執の原因は,二人のこころざしの相違に由来するものでもあろう.両者の背景を考証しつつ,これらのことを具体的に確認する.