2009 年 9 巻 p. 49-56
本論は,ラインホールド・ニーバーが彼の著作『人間の本性と運命』の中で神の「恵み」についてどのように解釈しているかを詳述したものである.ニーバーの解釈を通じて,キリスト者ではない人にとっては難解なキリスト教神学を解りやすくすることを狙いとしている.ニーバーは,古代ローマ時代から中世に至る中でキリスト教の教義,特に福音についての解釈の変遷を見て,人間の完全さへの認識が強められた,と述べている.ニーバーによると,アウグスティヌスはヘレニズムの思想の影響を受けて,罪を意志の欠陥,つまり善いことを行おうとする力の欠如として捉えた. この考え方が人間は自らの力は認めつつ福音からの謙虚さを併せ持つとされた中世の「カトリック的統合」を生み出したが,この統合は後に宗教改革とルネサンスの挑戦を受けることになった.