熱帯農業研究
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原著論文
国内サトウキビ生産地における灌漑水中塩濃度の調査および灌漑水中塩化ナトリウム濃度がサトウキビの生育および糖度に与える影響について
渡邉 健太寳川 拓生川満 芳信
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2019 年 12 巻 2 号 p. 65-72

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抄録

塩類を多量に含む灌漑水は作物の生産性を低下させる要因の一つだが,サトウキビ生産に利用される灌漑水の塩濃度の範囲や塩濃度とサトウキビの関係を調査した報告は日本国内では限られている.そこで,国内サトウキビ産地の水源を対象に水質調査を行うとともに,塩化ナトリウム(NaCl)濃度の異なる灌漑水を用いたポット栽培試験を行い,その影響について明らかにした.沖縄本島および5つの離島を含む計54地点の水源から採取した灌漑水を分析した結果,全採水地において最も多く含まれていたイオンはCl-であった.一部の地域を除き次に濃度が高かったのがNa+であったことから,この2つが灌漑水に含まれる主要なイオンであると考えた.灌漑水のイオン濃度は採水地や水源の種類によって大きく異なり,全イオン濃度は貯水池の多くで500 mg L-1以下であったのに対し,南大東島の池沼水には2500 mg L-1を超えるものも確認された.この結果をふまえ,次に灌漑水中NaCl濃度を3000 mg L-1まで変化させたポット試験を行った.NaCl濃度の増加にともないサトウキビの仮茎長および生葉数が減少する傾向が見られたが,500 mg L-1以下では乾物生産および糖蓄積への負の影響はほとんど確認されなかった.一方,NaCl濃度が1000 mg L-1以上となると,茎部,葉身乾物重および搾汁液中糖度の低下が見られた.灌漑水サンプルの全イオン濃度を説明変数,電気伝導率(EC)を目的変数として回帰分析を行ったところ,決定係数は0.995ときわめて高かったことから,簡易的に測定したEC値から塩濃度の把握が可能だと考えた.ポット試験の結果と合わせ,ECが250 mS m-1以上の灌漑水を用いている圃場では塩害が生じている可能性があることが示唆された.

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© 2019 日本熱帯農業学会
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