2021 年 42 巻 4 号 p. 151-157
ドーパミン置換度(DS)7 ~9%のドーパミン修飾カルボキシメチルセルロース(DOPA-CMC)を合成し,種々条件で調製したポリマー溶液の状態とそれらを用いた豚皮の接着性について検討した。DOPA-CMC(DS9%)のリン酸緩衝液(PBS,pH6.0,7.0,8.0)は無色の溶液であったが,トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液(Tris 緩衝液,pH8.0)は褐色のゲルになった。これらの材料を乾燥豚皮に塗布し別の豚皮を圧着して24 時間乾燥して調製し,試験片の引張せん断力を測定して乾燥接着強度を求めた。また,同様に調製した試験片を純水中に1時間浸漬した後,引張せん断力を測定して湿潤接着強度を求めた。pH6.0 ~8.0 のPBS 溶液を用いた場合,乾燥接着強度は0.71 MPa ~0.53 MPa でpH に関わらずほぼ一定で高い値を示した。湿潤接着強度は0.04 MPa ~0.07 MPa となり低い値であった。一方,pH8.0 のTris 緩衝液を用いた場合,乾燥接着強度は0.63 MPa でPBS と同程度であったが,湿潤接着強度は0.16 MPa でPBS 溶液に比べ明らかに高い接着強度と示した。 Tris 緩衝液において高い湿潤接着強度が発現した理由は,DOPA 基間で酸化カップリングが起こりDOPACMC が架橋されるためであると考察された。さらに,DOPA-CMC(DS7%)とDOPA の混合物にTris 緩衝液を加えて複合材料として用いた場合の湿潤接着強度は0.22 MPa となり,DOPA-CMC のみでTris 緩衝液を加えて調製した場合と比較して接着性が向上することが分かった。