2024 年 45 巻 5 号 p. 227-235
植物細胞壁に存在する天然のネットワークポリマーである天然リグニンを原料に相分離系変換システムを用いて12種類の異なるフェノール類(一アルキル置換体p-cresol, 4-ethylphenol, 4-n-propylphenol, 4-i-propylphenol2-n-propylphenol,二アルキル置換体2,3-xylenol, 2,4-xylenol, 2,6-xylenol, 3,4-xylenol, 3,5-xylenol, ナフトール型1-naphthol, 2-naphthol )を反応させ広葉樹マカンバ(Betula maximowicziana)リグノフェノール類を調製しフーリエ変換赤外分光分析(FT-IR),プロトン核磁気共鳴(1H-NMR),サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いて構造解析した。得られたLP の熱的性質を熱重量分析(TGA),熱機械分析(TMA)を用いて調べ,導入フェノール類の構造が及ぼす影響を評価した。一置換体の中で構造に応じて120 ℃から160 ℃のガラス転移温度(T g)を示し,その温度領域で分子鎖中の不安定構造の反応による重量減少が生じ5%,10%重量減少温度(Td5Td10)にも同様の傾向がみられた。二置換体はTMA とTGA によるTg,Td5 はともに165 ℃,170 ℃と同じ値を示した。ナフトール型のTd5 は180-200 ℃と高温になり,Tg は185 ℃に高温シフトした。いずれも完全に流動して光沢のあるフィルム状固体に変化し,Td10 が250 ℃付近でリグニン主骨格に基づく耐熱性を示した。一置換体では主鎖に対してフェノール性OHのortho位が結合するとアルキル側鎖が主鎖から離れた方向に拡がり,鎖長が伸びるとMw が増加し,熱運動の回転と立体障害で自由体積が増加しTg が低下した。二置換体は鎖長が短い一置換体とほぼ同じ値を示しリグニンのアリールエーテル主骨格の運動に影響を与えなかった。またナフトール型は回転の困難さに加えπ相互作用を形成し主鎖の運動を抑制しTg が上昇した。LP の導入フェノール類の側鎖構造や芳香環の拡がりは化学的特性には影響を与えず,直鎖状のリグニン主骨格の運動に基づく熱的特性に対し,側鎖による自由体積の差や相互作用が影響を及ぼすことが見いだされた。