抄録
両端に異なる親水部をもつくさび形脂質が自己集合によって形成するチューブ状ナノ構造体(有機ナノチューブ)の開発とその利用について,著者らの研究グループの成果を中心に述べたい。著者らは有機ナノチューブ材料の創製と同材料が有するナノ空間の特性解明,その応用をめざした研究開発を展開している。特にくさび形脂質の自己集合によって得られる,内・外表面が異なる官能基で被覆された有機ナノチューブ(「非対称有機ナノチューブ」と呼ぶ)に注目している。このチューブ内表面とゲストとの静電的相互作用を利用することで,選択的かつ効率的なゲスト(タンパク質,DNA,ナノ微粒子,蛍光分子)の包接が可能となる。さらに内表面のチャージ変化や熱刺激によって,内包化したゲストを積極的に放出できることも見いだした。またチューブ内表面への機能性分子の導入によって,内包化ゲストの蛍光検出や内包化過程のダイナミクスを可視化することができた。