抄録
目的:マンモグラフィー検査等の画像診断率が高まった現状での視触診の臨床的意義を,受診者の声を組み入れた形で検討した.
方法:当施設の対策型,任意型乳がん検診を2009年6月~2015年3月に受診した33,337例のうち,視触診のみの要精査151例を対象としてその詳細を検討した.また,2013,2014年度に対策型乳がん検診を利用した4,311例に対して,視触診に関する意識をアンケートにより調査した.
結果:視触診のみでの要精査率は0.45%(151/33,337)であった.精密検査受診後最終診断が判明した症例中48.4%(44/91)は異常なし,22.0%(20/91)は乳腺症,13.2%(12/91)は線維腺腫であった.乳腺悪性腫瘍は7.7%:7/91(乳がん:6例,肉腫:1例)であった.アンケート調査では,医師による視触診は避けたいという意見はわずかに4.5%(196/4,311)にとどまり,乳がん検診から視触診も現在実施中のどの検査も省略してほしくないとする意見が78.0%(3,361/4,311)であった.
結論:視触診所見のみの要精査者の約8%に悪性腫瘍が発見されたこと,検診利用者の約8割が視触診の廃止を望んでいないことが判明した.視触診は住民の定期的な乳がん検診の受診意欲と乳がん死抑制への寄与の可能性が示唆され,検診からの視触診の省略に関しては議論の余地があると思われた.