2022 年 37 巻 4 号 p. 655-663
背景:睡眠が糖尿病,心血管イベントの発症に与える影響についてはすでに複数の報告があるが,人間ドックの現場においては睡眠の重要性については必ずしも十分に理解されていない.
方法:2015年度および2019年度の当施設人間ドック受診者のうち2ヵ年とも受診した8,124名を対象に,2015年度の人間ドック検査データ,睡眠を含む生活習慣に関する問診票内容を抽出し,4年間での新規発症糖尿病・心血管イベントに与える影響について解析を行った.
結果:全受診者の睡眠時間の中央値は6時間,睡眠時間6時間未満の受診者は26.6%であった.期間中に136例(1.7%)の糖尿病,179例(2.2%)の心血管イベントの新規発症を認めた.糖尿病と心血管イベントの発症について既知の危険因子である年齢,性別,喫煙,BMI,血圧,LDLコレステロール,HbA1cに生活習慣として問診票から食事・運動習慣を2項目ずつ,および睡眠習慣からは睡眠時間6時間未満,就寝時刻が不規則であることを解析因子として多変量解析を行ったところ,糖尿病発症には睡眠時間6時間未満(オッズ比1.87,p=0.002)が,心血管イベント発症には就寝時刻不規則(オッズ比1.74,p=0.045)がそれぞれ独立した予測因子として抽出された.食事・運動関連の生活習慣は有意な因子としては抽出されなかった.
結論:糖尿病,心血管イベントの発症を予測するうえで睡眠時間6時間未満,不規則な就寝時刻は食事・運動習慣に劣らない予測因子となりえる.