人間ドック (Ningen Dock)
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37 巻, 4 号
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巻頭言
理事長講演
原著
  • 小川 和雅, 瀬谷 彰, 富田 康弘, 野村 幸史
    2022 年 37 巻 4 号 p. 655-663
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/13
    ジャーナル フリー

    背景:睡眠が糖尿病,心血管イベントの発症に与える影響についてはすでに複数の報告があるが,人間ドックの現場においては睡眠の重要性については必ずしも十分に理解されていない.

    方法:2015年度および2019年度の当施設人間ドック受診者のうち2ヵ年とも受診した8,124名を対象に,2015年度の人間ドック検査データ,睡眠を含む生活習慣に関する問診票内容を抽出し,4年間での新規発症糖尿病・心血管イベントに与える影響について解析を行った.

    結果:全受診者の睡眠時間の中央値は6時間,睡眠時間6時間未満の受診者は26.6%であった.期間中に136例(1.7%)の糖尿病,179例(2.2%)の心血管イベントの新規発症を認めた.糖尿病と心血管イベントの発症について既知の危険因子である年齢,性別,喫煙,BMI,血圧,LDLコレステロール,HbA1cに生活習慣として問診票から食事・運動習慣を2項目ずつ,および睡眠習慣からは睡眠時間6時間未満,就寝時刻が不規則であることを解析因子として多変量解析を行ったところ,糖尿病発症には睡眠時間6時間未満(オッズ比1.87,p=0.002)が,心血管イベント発症には就寝時刻不規則(オッズ比1.74,p=0.045)がそれぞれ独立した予測因子として抽出された.食事・運動関連の生活習慣は有意な因子としては抽出されなかった.

    結論:糖尿病,心血管イベントの発症を予測するうえで睡眠時間6時間未満,不規則な就寝時刻は食事・運動習慣に劣らない予測因子となりえる.

  • ―精検受診時期と受診行動促進要因に着目したアンケート調査―
    葛谷 洋子, 赤川 知佳, 赤塚 紀子, 古田 博子, 小川 和雅, 瀬谷 彰, 野村 幸史
    2022 年 37 巻 4 号 p. 664-674
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/13
    ジャーナル フリー

    目的:当施設では,要医療・要精密検査対象者に対して人間ドック受診当日に紹介状を発行するとともに,結果面談や保健指導の場で受診勧奨を行い,さらに健診後日にも電話や手紙による受診勧奨を実施している.今回,精検受診時期と受診行動促進要因を比較し,さらなる精検受診率向上のために当施設の取り組みの有効性と強化すべき点を見出し,受診行動につながる受診勧奨方法を検討した.

    方法:2020年6月9日から2020年9月30日の人間ドック受診者のうち,前年度紹介状を発行された受診者354名,380項目を対象とした.対象者を健診後から精検受診するまでの期間で分類し,精検受診に影響した要因についてアンケート調査を実施した.

    結果:精検受診していた項目のうち90.9%が健診後3ヵ月未満に受診しており,健診後3ヵ月を過ぎると,受診勧奨をしても多くが未受診のままであった.精検受診に影響した要因は,すべての受診時期で「当施設からの当日受診勧奨」が最も多く回答された.3ヵ月未満の精検受診行動には,他に「医療機関の情報」,「受診必要性の自覚」,「周囲の環境」が影響していた.

    結論:精密検査受診行動は健診後3ヵ月未満に起こりやすく,健診当日の受診勧奨が受診行動につながる最大の促進要因であった.健診受診当日に精検受診意欲を高め,健診後から3ヵ月未満を目安に受診行動をとれるように働きかけることが,受診行動につながる有効な受診勧奨方法であると示唆された.

  • 堺 沙織, 渡邉 早苗, 羽田野 今日子, 長谷部 靖子, 八木 完
    2022 年 37 巻 4 号 p. 675-683
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/13
    ジャーナル フリー

    目的:高血圧は循環器病の重大な原因疾患であるが未治療高血圧者も多く,健診の果たす役割は大きい.今回,職域健診における未治療高血圧者に行った健診当日の受診勧奨の効果を検討したので報告する.

    方法:Ⅱ・Ⅲ度の未治療高血圧者を対象とし,健診当日に受診勧奨面談を行った.面談では勤務形態や生活環境に合わせた具体的な受診計画を立て,同時に生活習慣の修正や家庭血圧測定方法についての保健指導も行った.高血圧治療状況は1ヵ月後に電話で確認し,翌年度健診受診時に追跡調査も行った.

    結果:健診受診者7,717名のうち,Ⅱ・Ⅲ度の未治療高血圧者は315名(4.1%)であり,278名に受診勧奨面談を行った.1ヵ月後に確認ができた241名の受診状況は,受診済108名(44.8%),受診予定60名(24.9%),受診検討56名(23.2%),意志なし17名(7.1%)であり,女性,高年層,Ⅲ度高血圧,他の動脈硬化危険因子の合併で受診率が高くなる傾向があった.面談1ヵ月後の生活習慣に対する取り組みは面談前と比較して改善しており,未受診群においても減塩や野菜摂取に対する取り組みが有意に改善した.翌年度健診時の追跡調査では,面談未実施者と比較して面談実施者では高血圧治療率が有意に高く,未治療者においても有意な血圧値の改善がみられた.

    結論:職域健診における健診当日の受診勧奨面談および保健指導は,高血圧治療率の向上,生活習慣の修正に効果的であった.また未治療者においても生活習慣の修正や血圧値の改善につながった.

  • 半下石 美佐子, 畑 啓介, 山門 實, 吉形 玲美, 相澤 達, 木下 平, 古川 真依子, 落合 出, 藤巻 力也, 佐野 純子, 田口 ...
    2022 年 37 巻 4 号 p. 684-692
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/13
    ジャーナル フリー

    目的:人間ドックにおける血清25(OH)ビタミンD濃度の測定意義を検討する.

    方法:当院の人間ドックで2021年4月からの1年間で血清25(OH)ビタミンD(25(OH)D)を測定した1,333名において,骨密度,年齢,BMI,栄養,腎機能,骨代謝,糖代謝との関連を検討した.

    結果:ビタミンD欠乏(血清25(OH)D: 20ng/mL未満)・不足(20以上30ng/mL未満)は男女ともに多く,全体の82%に認めた.全年齢で25(OH)Dと骨密度の関連は認めなかった.50歳以上・未満・男女別の重回帰分析では,50歳未満の女性において25(OH)DとCrが骨密度の増加因子であった.一方,糖代謝異常例(HbA1c≧5.6%)では正常例と比べ25(OH)Dが有意に低かった.また糖代謝異常例は50歳以上で多く,50歳以上の男性ではHbA1cが骨密度の減少因子の一つであった.

    結論:ビタミンD欠乏・不足の頻度は全体で8割以上と高い.人間ドックにおいては,50歳未満の女性で25(OH)Dを測定し,欠乏例に食事や日光浴の指導を行うことには意味がある可能性が示唆された.糖代謝異常,25(OH)Dおよび骨密度の関係については今後前向き研究が必要と考えられた.

症例報告
  • 荒井 吉則, 前畠 枝里, 仲宗根 佑, 横田 春樹, 加藤 智弘, 猿田 雅之
    2022 年 37 巻 4 号 p. 693-698
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/13
    ジャーナル フリー

     胃食道逆流症は下部食道括約筋の機能不全により胃の内容物が食道へ逆流する疾患である.世界的に罹患者数が多く増加傾向であり逆流症状により生活の質の低下をきたす.プロトンポンプ阻害薬が有効であるが治療抵抗例も少なからず存在する.その場合,噴門形成術を施行するケースもあるが合併症のリスクもあり治療に難渋することもしばしば経験する.薬物療法と外科的治療のギャップを埋める治療法としてThe LINX Reflux Management Systemが2012年にアメリカ食品医薬品局で認可された.磁気を帯びたチタン製の複数のビーズをワイヤーで結びリング状にしたデバイスを腹腔鏡手術で食道胃接合部の周りに留置し,磁力により下部食道括約筋の機能を増強することで逆流を防止する仕組みである.本邦では保険適用外であるが海外では普及しており有効性,安全性が報告されている.LINXデバイスが留置されている健診受診者へ上部消化管造影検査を施行し,LINXデバイスの開閉機能に問題がないことを画像的に確認したので報告する.本邦の健診施設においてもLINXデバイス留置者へ上部消化管造影検査を行う機会は今後増加すると考えられる.当該受診者を躊躇なく受け入れることができるようThe LINX Reflux Management Systemについて知識を深めておく必要がある.

臨床経験(活動報告)
  • 齋藤 彰, 石垣 陽, 横川 慎二, 川内 雄登, 田中 晴美, 浅野 美穂, 小川 美紀, 石川 正悟, 髙橋 里美, 齋藤 泰紀
    2022 年 37 巻 4 号 p. 699-707
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/13
    ジャーナル フリー

    目的:循環器健診車の各種換気条件における換気回数を調査し,適切な換気方法を提言することができるか検討した.

    方法:健診車内をドライアイスにより濃度の高いCO2ガスで満たし,①各窓開け5cm,②前部換気扇「弱」・後部換気扇「弱」,③前部換気扇「強」・後部換気扇「弱」,④前部換気扇「弱」・後部換気扇「弱」に加え各窓開け5cm,⑤前部換気扇「強」・後部換気扇「弱」に加え各窓開け5cmの5つの条件下で換気を行い,CO2ガスの濃度変化からザイデルの式を用いて換気回数を求めた.

    結果:5つの換気条件のうち3つ(①④⑤)で米国疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention: CDC)および,日本の感染隔離病棟における毎時12回以上の換気回数を達成でき,中でも換気扇と窓開けを併用した条件(④⑤)では毎時20回以上の換気回数を記録できた.

    結論:条件(①④⑤)であれば換気回数は十分であり,また換気扇の騒音による弊害も少ないことから条件④は健診車の換気方法として推奨できる.

  • 小平 美穂子, 濵 夏子, 柳原 園子
    2022 年 37 巻 4 号 p. 708-714
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/13
    ジャーナル フリー

    目的:特定保健指導当日実施率(以下,実施率)向上に向け,PDCAサイクルに基づいた業務改善のプロセスを経年で振り返り,業務改善の効果と課題を検討する.

    方法:2017~2020年度の実施率を算出した.実施率向上を目的とした業務改善の経過を年度ごとにまとめた.また,2019~2020年度の当日特定保健指導の未実施理由を保健指導記録から拾い出し分類した.

    結果:2017年度実施数73人/年,実施率8%,2018年度実施数158人/年,実施率21%,2019年度実施数384人/年,実施率49%,2020年度実施数483人/年,実施率54%と実施率が確実に向上した.2019年度の未実施理由は,施設側の理由となる,「対象者漏れ」「スタッフ都合」「階層化に時間がかかった」が,全理由のうち,約40%を占めていた.施設側の理由に視点を当て,業務改善を行った結果,2020年度の未実施理由のうち,施設側の理由は約7%まで減少した.

    結論:PDCAサイクルに沿った業務改善・体制作りを継続し,対象者を焦点にした取り組み,ストラクチャーの強化,未実施理由の調査,システムの利用,マンパワーの増大を行うことで実施率向上につながった可能性が示唆された.

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