抄録
悪性胸腺腫患者に合併した陰部疱疹と疱疹性ひょう疽が, 長期にわたつて持続した1例について, 臨床ウイルス学的に検討した。患者血清は単純ヘルペスウイルス(HSV)に対し比較的高い中和抗体価を有していたが, リンパ球のレクチンによる芽球化反応は著しく低下しており, 病変の慢性化の背景に細胞性免疫の不全状態があると考えられた。陰部および手指の病巣から分離された2株のHSVはいずれも2型と判定された。制限酵素を用いたDNA解析により, 2株のウイルスDNA間に高い相似性が認められ, 陰部より手指へのHSVの波及を示唆するものと考えた。