抄録
73才男子, 農業, 長崎県在住。昭和38年(53才)ごろに, 明らかな外傷の覚えなく, 左肘関節部に小腫瘤を生じた。昭和43年(58才), 長崎ABCCを受診し, 生検によつてクロモミコーシスの診断を受けた。以後, 各地の医療機関を転々としたが, 有効な治療は受けず, 病変は緩慢に拡大を続けた。昭和58年(73才)当科初診時の現症は病巣は左前腕伸側のほぼ全面にわたる比較的平坦な局面で, 中央部は瘢痕治癒状, 辺縁は堤防状に隆起し, そこに浸潤と糜爛を伴つていた。自覚症状はなく, 領域リンパ節の腫脹もなかつた。痂皮のKOH標本および生検組織においてsclerotic cellが認められた。生検皮膚片から発育の遅い黒色真菌株が分離され, それは菌学的にFonsecaea compactaと同定された。治療として, 5FC, 温熱療法, 切除の3者を併用し, 病変は完治の状態になつた。