1991 年 53 巻 5 号 p. 965-968
51歳女子の臀部に生じたmalignant proliferating trichilemmal cyst(以下MPTCと略)の1例を報告した。数十年前より存在した腫瘤が急に増大し始め, 中央には鶏卵大の嚢腫状波動を認めた。嚢腫壁の試験切除にてMPTCと診断, 腫瘍全摘術および鼠径リンパ節郭清術を施行し, その後現在まで再発, 転移を認めていない。摘出した嚢腫の内腔は直径5cm, 表皮と連続せず皮下組織から筋層に達しており, この巨大な嚢腫の壁は小嚢腫の集合により構成されていた。小嚢腫の壁は最外層に基底細胞様細胞, その内腔側に淡明細胞, そして最内層では外毛根鞘性角化を示して角化するという一定の組織構築を示した。自験例のように中心に巨大な嚢腫を有するMPTCの報告は他にみられず, きわめてまれな症例と思われ, またその発生過程としてtrichilemmal cystが増殖性変化, 悪性化したものと推測した。