抄録
23歳の白人男性に生じた生毛部急性深在性白癬を報告した。タイへの旅行中に前腕の蚊に刺された部位に発症し, ステロイド外用後に悪化した。病理組織学的には壁の破壊を伴う毛包周囲の化膿性炎症像を呈しており, PAS染色では真皮内の真菌要素は認められなかった。病変部から得られた体毛には毛外性の菌寄生がみられ, 生検組織培養ではTrichophyton mentagrophytesが分離された。グリセオフルビン375mg/dayの内服3週間とクロトリマゾールクリームの外用9週間で瘢痕を残して治癒した。自験例は, 近年本邦で報告された症例と同様にステロイド外用が悪化に関与していると考えられる。一方欧米では, 本症に相当する病型は外傷を受けやすい部位に生じやすく, 家畜を扱う農業関係者にみられ, 原因菌は侵襲性, 病原性の強い動物寄生菌であることが多く, 高温多湿な環境が増悪因子となることが知られている。自験例はこうした欧米型の特徴も有しており, 人種による皮膚の性状や白癬菌に対する感受性に起因するものであることが推測される。本症の発症機序を解明するために, 本邦においても家畜との接触, 外傷の有無, 気候などの環境因子についても, より詳細に調査する必要があると考えられる。