2018 年 80 巻 6 号 p. 526-530
64 歳,男性。10 代の頃より頭部に瘤状の病変を認め,徐々に増大していた。当科初診時には,表面に痂皮を伴う径 4 cm の紅色腫瘤を認めた。病理組織学的に病変の大部分は疣状癌の像を呈し,辺縁の一部に syringocystadenoma papilliferum (SCAP) 様の構造を認めた。後者の腺成分には細胞異型および構造異型を認め,さらに疣状癌と SCAP 様構造との間には移行像がみられたことから,自験例を syringocystadenocarcinoma papilliferum (SCACP) と診断した。SCACP は SCAP の悪性化と考えられる稀な疾患であり,これまでに欧米を中心に約 40 例の報告しかない。多くは高齢者の頭頚部に発生し,緩徐に増大する常色から紅褐色調の結節あるいは炎症性の局面として知られる。病理組織学的には SCAP 類似の構造を示すが,細胞異型や構造異型を有する点で異なる。SCACP では,腺癌成分の一部に扁平上皮への分化がみられることがあるが,自験例のように大部分が疣状癌の像を呈した報告はこれまでにない。SCACP はこれまでにリンパ節転移や局所再発が少数ながら報告されており,通常の SCAP や疣状癌との鑑別が必要である。そのため,切除標本における病変全体の病理組織学的評価が重要であり,確実な診断が求められる。