抄録
【目的】三角線維軟骨複合体(TFCC)の実質部損傷は手関節尺側部痛の代表的疾患であり掻爬にて除痛が得られる.掻爬の理論的根拠はTFCCの血行に由来する.TFCCは辺縁20%程度に血流が存在するが,実質部には血行が存在しないとされている.今回,TFCC実質部掻爬後に再鏡視にて再生が認められた症例について報告する.【対象】症例は3例,2例は尺骨突き上げ症候群にて尺骨短縮骨切りと同時にTFCC掻爬を行い,抜釘などの再手術時に再鏡視を行ったもの,1例は遠位橈尺関節症にて関節形成時にTFCC掻爬を行い,後日橈骨遠位端骨折を受傷して鏡視下手術を行った例であった.【結果】全例に実質部は完全に新生軟骨にて閉鎖していた.掻爬から再生を認めた期間は4~14カ月,平均7.7カ月であった.【考察】TFCC実質部は無血行野であり再生は期待できないとされてきた.今回,掻爬後も再生を認めたことから,TFCC損傷の治療方針について再検討を要する.